あの忌々しい記憶しかない埃臭い体育倉庫の視界を最後にいつまで眠っていたのか、次に目を覚ましたのは大きな大切で大好きな青峰の背中の温もりを感じながらだった。一定のリズムで背中に載せている桜井が揺れる。しかし桜井の両足をがっちりと固定している青峰は桜井が目を覚ました事に気が付いていないようだ。
このまま何処へ連れられるのかも分からず、先ほどのことから何があったのかも分からず、ただひたすら青峰の背中にお世話になるわけにもいかないのでだらん、と力なく青峰の肩から前に伸びていた両腕を青峰の首に絡め、名前を呼ぶ。


「…青峰サン」

「うおっ!?…良、起きたか」

「はい。起きました」


突然の桜井の呼びかけに驚いた青峰だったが、歩みを止めることはなかった。それに、目が覚めた桜井自身もあまりの身体の怠さに自分の足で帰れる自信が無いのと、このまま青峰の温もりを感じていたいと思っていたから。

桜井が青峰の首に回した腕に力を込める。そして、一言。


「青峰サン…すみませんッ……、」


その声は最後になるにつれてだんだんと尻窄みになっていき、一生懸命になって口にした言葉だと十分に察することができる。

しかし青峰は、桜井の口からそんな言葉を期待していたのではない。謝罪なんてして欲しくなかった。何故なら、どう考えても桜井は悪くないから。悪いのは桜井ではない他の奴。そいつらが桜井を好き勝手汚してプライドも身体もズタズタにしたくせにそいつらこそ謝罪の一つも寄越さずに今もどこかで笑っているであろう。見えない悪を働いた奴らに青峰はとても腹立っていた。


「青峰サン、ここ、で…大丈夫デス…っ」


桜井の家の前まで来、ここでいいと桜井は降ろしてと催促をする。しかし青峰からの返事は無く、少しばかり間があったがゆっくりと背中から解放した。降りた桜井は青峰からカバンを受け取る。
しかし未だに青峰は何も話そうとせず、気まずい沈黙が流れ始めた。相変わらず青峰は怒り満ちているような、悲しみに満ちているような表情を浮かべながらも桜井をじっと逃さないように見つめていた。怖気ずいてしまったのかじりり、と後退りしようとする桜井の片腕を掴み、一気に引き寄せ抱き締めた。


「バカか…!なんでお前が謝るんだよ、確かにすっげー心配したし、みんなに心配かけた。だけど、お前の所為なんかじゃねーから。お前は悪くねえ。…分かったか」


桜井を強く抱き締めたまま、そう耳元で言った。桜井は頷き、顔を上げてキスをした。


「…もう心配すんな。お前は俺が守るから。」

「は、はい…」


もう誰にやられたなんて覚えてない。思い出したくもない。だけど、今のボクには青峰さんがいる。力強く抱き締めてくれれば何もいらない。

桜井が家に入るのを確認してから青峰は来た道を帰ろうとして声をあげた。


「…盗み見してんじゃねえよ。何か分かったのか?」


人影が見えなくもない電信柱の影から、ピンク色の髪を揺らして不敵な笑みを見せる桃井が出てきた。


「ふふ、ちょっと、ネ」





「本当に、スミマセンデシタ…っ!!」


翌日、朝練が始まる前に部室に入るなり桜井は深々と頭を下げ謝罪した。もちろん、ここに来る前に監督にもちゃんと頭を下げて誠心誠意で謝罪した。監督は捏造された事実を鵜呑みにして、それでも桜井の所為ではないと笑って許してくれた。

本当は悪くない、ボク自身は何もしていない。事実はそうなのだが、昨日あったことをヌケヌケと話すことはできない。だから桜井は泣きそうになりながら頭を下げる術しか持ち合わせていなかった。


「しゃーない。日頃の桜井の行いに免じて許したるわ。」

「ー…っ、キャプテンっ」


顔を上げるとキャプテンである今吉が桜井を見つめていた。だが、その表情は口にした言葉とあまりにも違いすぎる。許してやる、確かにそう言ったはずなのに表情は糸目でいつもは胡散臭い笑顔をしているのだが、その目が開いている。口角も何やら不自然な釣り上がり方で、全体的に何かを企んでいると見せる。


「…なんて、言うわけないやろ。ここまで心配かけさせたんや。罰くらい受けてもおかしくないやろ」


そうだ。先輩たちのお手をここまで煩わせたんだから許してもらえるはずなんてないんだ。罰が下ることくらい、当たり前だ…

何を言われるか分からない恐怖に耐えながらも、次に出る言葉を待った。


「罰として、今日は桜井練習ナシや。桃井と一緒にマネ業頼んだで」

「…えっ?」


意味が分からない。練習休みってどういうこと?


「頼んだぞ、桜井。特攻隊長は本日お休みだ」


須佐センパイにも肩を叩かれ、声をかけられる。それでも頭はグルグルのまま。


「桜井くん、頑張ろうねっ。今日は割と仕事あるんだよ」

「で、でも」


桃井さんにも頑張ろう、と声をかけられるものの何て言えばいいのかわからない。


「キャプテンの言うとおり、今日は休みだ。言われたことこなせよ」

「は、い…」

「身体痛いやろ?せやのに部活なんてさせる訳あらへんやろ。復活したらまた戻ってきいや」

「…!!」


部室を一番最後に後にした今吉に小声でそう言われてはじめて気が付いた。これは罰なんかじゃなくて、精一杯の気遣いなのだと。


「桜井くん、こっちだよ」

「あ、ハイ」


だけど、今日の練習に青峰が現れることはなかった。桜井はそれがとても気がかりであとたが、マネージャーの仕事が多く探しに出ることも考える暇さえも与えられなかった。




「お疲れ様でした。…明日からは、ボク練習出ます」

「そうか。頑張れよ」

「じゃな、桜井〜」

「また明日ね!今日はありがと!」

「気ィつけやー、ほななー」


放課後の練習も終わり、すっかり日も落ちた頃。いつもなら一緒に帰る桃井は何やら用事があるらしく残ると言い、青峰は既にここにいないので今日は一人で帰ることに。しかし、昨日の今日ということもあり今吉が桜井のお守りというこで桜井を送り届けるようにと二年に頼み、何事もなく安全に帰宅することができた。



「…じゃあ、行きますか」

「青峰いるんだろ?」

「ちょっともうそろそろ危ないかな」

「最期のトドメはワシらやで」


"うちの桜井遊んでくれたお礼は高くつく"


「こんばんは、先輩。」

「昨日はうちの桜井がお世話になりました」

「もう既にだいぶ青峰からお礼もらってるみたいですが」

「せっかくだから俺たちのお礼も受け取ってくれるとありがたい」

「…チッ、遅えよ。死ぬ間際だぜ、もう」

「すまんのう、青峰。…せやけど、ワシらも加勢せんと。トドメは全員や」

「「「いっ…!!うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」」」



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やっと完結?した。
取り敢えずモブに犯される桜井が書きたかっただけです。

そして、俺らの桜井になにしてくれとんじゃあゴラァ。状態の皆さんに色々とバイバイされる、という結末。
そもそも桃井と青峰と今吉を敵に回したら最期だと思うんだ、うん。(間違いではない)


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