ちみっこフリくん!
!フリくんがちみっこ!
!征くんがフリくん溺愛してる!
「さっむ…」
日もだいぶ落ちてきた夕暮れ。まだなんとか太陽の光があるものの、もう少ししたらあたりはあっという間に真っ暗になるだろう。駅のホームから遠目に山に沈んでゆく太陽を見つめながら白い息を吐いて寒いと唸る。
「征、くん」
早く電車来い、と寒さに耐えながら時刻を確認する。…まだ電車が来るまで三分程時間があるようだ。冷たい外気に触れている顔が寒いと首回りに巻いているマフラーに口元を埋めると下で可愛らしい声が自分の名前を呼んでいることを知る。
「なんだい?光樹」
「あのね、さむいの。征くん、さむい」
小さくて柔らかそうな顔の真ん中にある鼻が真っ赤だ。両頬も真っ赤だ。小さな小さな可愛らしいプクプクとした両手が僕のズボンを掴んでいる。僕の、僕の可愛い光樹が寒いと僕に甘えている。僕は光樹を抱き上げた。
「僕も寒いんだよ、光樹。みんな寒いんだ」
「えへへ。でも征くんあったかいよ」
「ふふ。光樹だって、小さいわりにはあったかいよ」
抱き上げると嬉しそうに僕の腕の中で笑う。白い歯がよく見える。まだ汚れをしない純粋な瞳が僕を離さない。そして、また少し重くなったと感じる。光樹は僕の顔を冷たい手であちこち触る。そしてまた嬉しそうに目を細めて笑う。
「征くんほっぺまっかー」
「光樹とお揃いだね」
「征くんとおそろーい」
「あっコラ光樹っ、マフラー取らないで」
「征くんこれながい!おれもこれがいーい」
光樹は僕のマフラーを取ろうと腕を伸ばして来る。だけど、僕もこのマフラーを取られたら寒いからなんとか取られないように手から逃げる。
そんな時にもうすぐ電車が来るとのアナウンスが流れ、光樹もそっちに気がいったようでマフラーから手が離れた。
「でんしゃ!」
「光樹は電車怖くないの?」
たまに、電車が怖いと怯える子供もいるけれど光樹は初めて電車に乗ったその日から何が嬉しいのかはしゃいでいた。怖くないの?と聞けば、「こわくない!でんしゃすきー」とまた嬉しそうに僕に抱きついてきた。
車内に乗り込むとやはり暖かくて、空いていた席に二人で座った。
「征くんねむいのー?」
「あ…うん。ちょっと、疲れてるのかも」
「そっかぁー…」
心地良い揺れに暖かい車内は居心地が良くてついウトウトとしてしまった。一人ならまだしも、今回は光樹と一緒なのに寝てしまうとは不覚…
疲れているとはいっても、光樹にまで心配をかけさせるわけにはいかないのに。眠たい目を強引にこじ開けて優しく笑って僕の顔を心配そうに覗き込んでいる光樹の頭を撫でてやる。
ーしっかし、僕を見て優しく心配そうに見つめてくる大きな目はこの僕には少しばかり刺激が強すぎる…!!耐えろ、耐えるんだ征十郎!
「征くんむりしちゃやー」
「え?ありがとう。でも無理はしてないよ」
「してる!征くんだめ!」
無理をしていないと僕が言っているのに、突然嫌だ嫌だと首を横に振って言うことをきかなくなる。隣に座るのも嫌になったようで靴を丁寧に脱いで僕の膝の上にちょこんと座る。
自己を主張し出す年になってから、たまにこうしたワガママも増えてきたがやっていいことと悪いことの区別はついているようだからそこまで強く注意をしたことはない。だからいつもやりたいことを出来るだけ叶えさせている。…今回は、何なのだろう?
「せーくん」
「ん?」
一生懸命に腕を伸ばして僕の肩を掴んだかと思うと光樹の可愛らしい顔がだんだんと近づいて来て次の瞬間。
「おつかれさまだよ」
光樹の励ましの言葉をもらうと、ちゅ、ととても可愛らしいリップ音と共に僕と光樹の唇が触れた。俗にいう、キスだ。
この行為に関する思いを口にすることは難しくて、頭の中は真っ白にスパークした。光樹から目は離せなくても、ただ何と無くこちらに感じる視線は呆気にとられたような、どこか癒されているようなものだった。目の前の光樹はそれはそれはとても満足したようでとびきりの笑顔だった。
「こっ、光樹…?」
「征くんちゅーしたね!げんき?」
「え?」
また光樹の口を吐いてでてきたのは僕にとって理解できない言葉。キスをしたら、元気になれると思っていたのだろうか…一体そんなこと、誰に教わったのだろうか。
いや、思い当たる節が全くない訳でもない僕は光樹に詳しく聞いてみることにした。
「チューをしたら元気になるの?」
「うん!あおみねくんがさくらいくんにしてた!そしたらさくらいくんが、げんきでたってゆってたの!だから、だからねー…」
だから、光樹は僕にキスをした。
やはり、情報の発信源は青峰大輝で間違いなかったようだ。桜井と付き合っている大輝は、僕たちの前でも子供たちの前でも男同士であるというのにも関わらずかなりオープンでキスなんて挨拶程度のものになってきている。最近では子供たちも学習してきたのか大輝の真似をしていろんなことをするようになってきてしまったのだ。
しかし、僕はたちまち嬉しくなって、光樹を抱きしめた。そして、僕からも光樹の唇にキスを落とした。
「元気になりすぎちゃったから、僕の元気のお裾分け」
「えへへー!征くんげんきー!」
すっかりご機嫌な光樹と一緒に家の最寄り駅で下車した。
「征くんげんき!おれもげんき!征くんすきー!!」
よほど僕からのキスが嬉しかったのか繋いでいる手を大きく振って薄暗い道を歩いて帰る。
好き、の意味をしっかり理解しているのだろうか?
元気になるおまじないは、少し僕には効きすぎた。続きは、光樹がもう少し大人になってからーーー
「光樹がもう少し大きくなったら、もっと元気の出るおまじない教えてあげるよ」
「えー!もっとお!?早く大きくなりたいなー!」
僕も、楽しみにしているから早く大きくなるんだよ、光樹。
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