風かよふ 寝覚めの 袖の 花の香に かおる枕の 春の夜の夢

「あァッ、!あかっ、赤司…っ!!」


赤司の手によって解されたそこは既に赤く熟れていて赤司の熱く大きな物が降旗のその中に入ってさらにどんどんと大きくなってゆく。それを受け止める代わりに、快感が全身を駆け抜け身体を支える力がなくなっていく降旗は息も言葉も絶え絶えになりながら喘ぎ続ける。

降旗のイイトコロを赤司は知りながら、そこを掠めてばかりで突きはしない。微妙に触れるその感覚にもう我慢ができなくなってきた降旗が赤司に強請る。しかし赤司は、それを許さない。


「そうじゃないだろう、光樹…っ!もっと、もっと僕を求めて…っ!!」

「ァッ、ンァ……ーーッ!!」


僕をもっと光樹で満たしてほしいと赤司は降旗に懇願する。そして、ストロークを長くつけ、うまくイイトコロを掠めるように奥に一気に突くと降旗が止まらない涙と涎でベタベタになった顔を反り上げたかと思うとそのまま力を失ったように倒れ込んだ。

しかしこんなところで力を尽きさせる訳にはいかない赤司が腰を支えて後ろから降旗の耳に直接息を吹きかけるように話しかける。


「ねえ、光樹。僕の名前を呼んで…こう、き…っ」

「ーーーーッ、せいじゅ、ろ…っ、征十郎…!!」

「やっと呼んでくれた、…光樹っ!」

「ンァッ、あっ、あァァーーーーーッ!!!!」


そのゾクゾクとするような感覚にますます堕ちてゆく降旗だが、そのギリギリに辛い苦しいイけない感覚にやはり耐えられなかった降旗は赤司の名を呼んだ。
ーー"征十郎"と。

すると赤司は幸せそうに微笑むと、降旗の腰を離さないと言わんばかりに強く掴み、ギリギリのところまで自身を引き抜くと、こんどは降旗の求めていた一点をめがけて一気に突いた。





「ん、ん…っ」


ぼんやりとしている視界、頭。身体も重くてうまく動かせない。だが眠りから覚めてしまった。少し肌寒いのだ。
いつもなら情事の後は疲れ切って深い眠りについたままなかなか目覚めないというのに。しかしそれもそのはず、裸のままベッドに倒れ込んでいた降旗にかかっていたのは一枚の薄手の白い布。それに薄っすらとあいている窓の隙間からまだ朝方の五時半の風が通っているからなのか。それとも、いつも隣に感じられる赤司の温もりがなかったから寒いと感じたのだろうか。

だんだんとしっかりしてきた意識の元、降旗はシーツに身をくるみ、既に赤司がいないことを寂しく思った。
赤司はいつ、ここから京都に戻ったのか。降旗と、挨拶も交わさないで。


「ダメだ、閉めないと風邪ひ…」


まだ軋む重たい身体を強引に起こして開いている窓に手を伸ばす。…と、一枚のピンク色に染まった桜の花びらが風に運ばれて降旗の鼻に当たり下に落ちた。

そして、見つけてしまった。窓の外に輝く桜の大木を。普段は、家の目の前にこんな大きな桜の木なんかあって邪魔くさいな、とか散った花びらを掃除するのが面倒だ、とか夏になる前に毛虫が大量発生するから迷惑だ、なんていつもあーだこーだと文句を並べていたあの桜の木が…


「な、んで…?」


あたりはまだ薄暗いのに、桜の木は何故か光り輝いていて、ライトアップなんて必要のない程に美しく、キレイで、素敵なものだった。風が吹く度に窓から桜の花びらが舞い寄ってきて、この部屋に落ちる。
床に、ベッドに、枕に、俺の頭に、肩に……。それはまるで、赤司がさっきまでいたことを証明するかのようなマークみたいだった。


「あかっ、し…ッ」


どうして、どうして俺はな泣いているの。赤司がいないから?寂しいから?もっといて欲しかったから?甘えられなかったから?
…違う。きっとこの涙はあの桜の木がとてもキレイだったからだ。

桜の花びらがはらはら、と落ちたベッドに今一度身を沈め、またここにも桜の花びらがある枕に涙で濡れた顔を伏せる。しかし、余計枕についたままの赤司の香りでいっぱいにさせられて涙は止まることを知らない。布団にだって、シーツにだって、降旗自身にも赤司のあの香りはついたまま。少し前まで一緒にいたのに、また会いたいと願う俺は夢を見過ぎなのかと苦笑いした。

そこでふ、とあるうたを思い出した。



"風かよふ 寝覚めの 袖の 花の香に かおる枕の 春の夜の夢"




この間古典の授業で習ったアレ。新古今和歌集、千五百番歌合わせに俊成卿娘が作ったうた。
先生がこのうたは切ないだの分かるだの私情をことごとく混ぜ合わせてきて、丸一時間つぎ込んだあのうた。降旗自身、こんな体験をするまではいつものように「さすが古典、今回も救いようが無いな」と意味が分からなくて呆れて聞き流していた。だけど、今なら身に染みて分かる気がする。


風が吹き、少し肌寒く感じた明け方。最後に愛しい彼と会ったあの春の夜の夢から覚めた夜着の袖が舞い込んできた桜の香りに包まれ、枕も同じく薫っている。そんな香りに包まれた私は、今もあの春の夜の夢の中にいるような気分になるー…



「本当に、キレイだな…っ。赤司にも、見せてやりたいくらいだ…」


これが一体何を伝えようとする涙なのかは最早分からないが、ひたすら赤司ことを想い、あの桜を見つめてただただ感動するばかり。

どのくらいそうしていたのかは分からないが、つい先ほどまであれ程激しく動いていたのだ。疲れた身体が、頭が眠気を訴えている。きっとこの光景をこれほどまでに美しいと思えるのは今この瞬間しかないと名残惜しく思いながらも、ベッドに再び身を沈めた。


「あか、し…すきだ。ずっとずっと、だいすき、だ…っ」


やはり少し肌寒いが、この風が心地良い。舞い込んでくる桜も風も、赤司に包まれているような気がして安心する。


そうして降旗は、赤司のことを春の夜の夢の中でも思い続けながら、眠りについた。



ーー今度はこの景色を二人で見たいと思ったが、きっとこれは俺一人でこの寂しいと相手を思う感情を抱きながら見るから、これほどまでに美しいと、素敵だと涙を流すことができたのだろう。
だから、これは、俺一人の秘密にしておく。

赤司を思った、あの春の夜の夢の中…




***

「降旗くんおはようございます。」

「おっ、黒子オハヨ」


誠凛までの道のりを歩いていると、後ろから黒子に声をかけられた。いつから後ろで一緒に歩いていたのか知らないが、最近こんなことももう慣れた。挨拶を返すと黒子は微笑んで降旗の隣で一緒のペースで歩き出す。


「それにしてもこの道桜が立派なまでに咲いていますね…」

「ホント、だよな。ここ掃除すんの大変そー」


駅から誠凛までの道には桜並木が揃いに揃っていて、途切れることなくキレイなピンク色の桜を咲かせている。初めてここを入学早々歩いた時には本当に驚いた。

風が吹く度に花びらが散って、目の前を舞う。
ーーそれは、なんだかあの景色と被って。だけどやっぱり何かが違って。隣に黒子がいるから感情がうまくセーブされているのか、それともここでじゃあの赤司の温もりを風伝いに感じることができないのか。だけど、あの時の感情とは違うけれど、心の底から温かくて。ぽうっと、して…


「そう言えば降旗くん、この前の小説の……ふり、はたくん…?」


黒子は思わず言葉を失った。それから、見入って、見惚れて、思わず息をするのも忘れてしまった。
あまりにも、隣に並ぶ降旗光樹という青年が、キレイだったから。彼は、ピンク色に染まった桜の花びらの舞う中でとても優しく微笑みながらまるで涙を流しているかのような表情をしながら透き通る空を眩しいと目を細めて見上げていた。一体何をどう感じればそんな表情ができるのか、生まれるのか。
一体、何を思っているのか…喜怒哀楽の感情の変化が乏しい黒子からすれば、到底考えもつかない。きっと、今の降旗だからできるこの表情は………。



「降旗くん、もうすぐ学校着きますよ。…涙、拭ってください」

「……えっ?」


こちらに顔を向けようとせず、そう言った黒子に降旗はそんなバカな、と手のひらで両頬に触れると。


「泣いてないじゃんっ!ちょっと黒子!どういうこと!?」

「え、本当ですか?僕にはてっきり…」

「やだなー、もう…光の具合でそう見えたのかな?」

「…心が、泣いているんですよ」

「ーて、え?なんか言った?」

「いいえ」


ー本当に美しい涙は、身体の奥底の心で流れるものなんですよ、降旗くん。



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古典の授業中に考えついたネタ。
フリは自分では気づいてないけどとっても優しくて、とっても綺麗で上品なんだよ、ってこと。桜と赤降って素敵じゃありませんか?




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