褒美か罰か | ナノ


▽ 再びトリップ!?


同日。場所変わり京都、洛山高校にて、同じように空を見上げる赤い髪をした少年がいた。その少年の名は赤司征十郎。強豪といわれるバスケ部の主将である。



「…征ちゃん、帰らないの?あら、それにしても今日は綺麗な星空ね」

「玲央か。…あの日みたいな星空だ」



練習は終わったが、いつかを思い出させる星空を見つけて僕は部室で着替えて窓から身を乗り出して夜空をじー、と見ていた。それを不思議だと言う者が何人かいたしどうしたんだろう、と話す声も聞こえた。だが誰も話しかけてはこなかった。しかしその中で身支度をすでに終えた実渕玲央、僕の先輩である玲央が話しかけてきては彼もまた美しい星空を見つけては驚いたように声をあげる。



「征ちゃんが星空を気にするなんて、なんだか神秘的ね」

「なんだ、それ。…まあ、気にする理由はまったく神秘的でも現実的でもないんだけどな…」



それを聞いた玲央は優しく微笑んで、どうして?と聞いてきた。
練習終わりで疲れた部員はもう寮に戻っていたり帰宅していて、部室に残るのは僕と玲央だけだった。でも僕は度々吹く風が心地よくてまだここを離れる気にはなれなかった。それに、不思議といつもより心も穏やかだ。今なら玲央に話してしまってもいいだろう。



「中学のときに一度だけ会った、不思議な事を、言うだけ行って消えた女がいたんだよ。月、といったかな…そんな彼女が現れた日の夜も、今日みたく綺麗な星空だったんだよ。」

「征ちゃんがそこまで想う女性だなんて珍しいわね。どんな女性なのかしら?私気になるわ」

「玲央は信じないと思うよ。彼女は、月はどうやら未来からきたみたいなんだ。そして今でもどこかで僕たちを待っている。これといって証拠なんてのはないが、彼女が残した数々の言葉は、今でもキセキの世代の頭に残っているだろう。」



そこまで話して思いだす。WCのキセキの世代で話がしたいと僕が集合をかけたとき。テツヤの御守りか何か知らないが場違いな人が一人混じっていた。すまないが外れてもらえないか、と僕が言っても彼は動かないと涙目になりながらその場を離れようとしなかった。次に僕の前に現れたのはテツヤの相棒であり現光の火神大我という男。帰れといっても帰らないので僕は真太郎がラッキーアイテムだと言って所持していたハサミで自らの前髪を切り次に、火神目掛けて突き刺した。…間一髪で避けた為頬をかする程度の傷で済んだのだが…その時に危ない、と真太郎にものすごい剣幕で言われて思い出したんだ。"ハサミの使用方法をもう一度考え直しましょう"というメッセージを。それから月を目にする度に、ハサミを手に持つ度に彼女の記憶が蘇る。まるで昨日のことのように。

僕が感慨にふけっていると玲央は立ち上がり僕の手をとった。帰りましょう、だなんて言うからやはり信じてなんていないんだ。と少しだけ複雑な気分になる。…まぁ、これだけの内容で信じろなんて言う方がおかしいか。別にどうしても信じて欲しいだなんて思ってもいないが。



「…面白いじゃない。その子征ちゃんのこと待っているんでしょう?私も会ってみたいわ、どこまで歩けば、どこまで走ればその子に会えるかしらね。ね、征ちゃん」

「…ひょっとしたら、もうすぐそこだったりしてな」



玲央は知らないだろう。僕が征ちゃん、と呼ばれることがはじめてではないことを。「征ちゃん!」「征ちゃん素敵ね!」「征ちゃんかっこいいわ!」君がそうやって呼ぶ度に僕はまた少し思いだす。…彼女も僕に「征ちゃん凄いわ、天才よ!」と手を合わせて満面の笑みで僕にそう言ったこと。それに彼女は今僕の手を掴んで離さない、隣の玲央そのものだった。

僕ももう一度会えることなら会いたいね、どれだけ頑張って勉強しても解くことのできない世界の向こうにいる彼女にね。





「青峰くん、部活始まるよ!!」

「あ、さつきか…」

「どうしたの?ボーッと黒板なんて見て。」

「中学ン時にさ黒板に書き逃げした女いたろ、よくわかんねえ奴。…今でもさ黒板見ると思い出しちまうんだよな」



久々に体を動かしておこうと思った俺は部活に顔を出してみた。すると物珍しそうに俺を見る部員に呆れた顔して俺を見る奴らもいた。
部室で着替えをしているといつ誰がかけたのか、小さな黒板があった。そこには鍵がかかっていたり、掃除当番表なんかも張ってあった。それに多分さつきが書いただろう字で"頑張りましょう"と選手を激励するようなメッセージもあった。それを見て俺は固まった。
全てが繋がったようにあの時の残像が蘇った。体育館の黒板、バスケ、メッセージ…どれほどそうしていたか分からない。だけど次に動き出したのはさつきに呼ばれてから。部室の扉が開いたのも気が付かず俺はボーッとしていた。黒板を見つめたまま。そのことをさつきに話すと悲しそうな表情になり下を向いた。



「…そうだね、でも青峰くん。今は桐皇でバスケしよう」

「は?」



小さくそう言ったさつきの言葉の意味がわからない。桐皇でバスケしようなんて、そんな当たり前のこと言われても理解し難い。俺はドアノブを握ったまま俯くさつきの横を通り過ぎて体育館に向かおうとしたその時、後ろからさつきがまた何か言い出した。
俺はそれを聞き逃さなかった。



「腐らないで、大ちゃん…っ」



俺は振り向かず、立ち止まらずコートに足を踏み入れた。そして忘れるはずもないあのメッセージをも蘇った。
"腐ってはダメです、好きですよね?バスケ"。あの当時の俺は結局何も俺のこと分かってねーじゃんとバカにした。そもそも俺がバスケ嫌いになるとか、腐るとか有り得ねえって思ってた。…だけどそれは見事に的中した。誰も俺を倒せない、誰も俺を相手にしない。練習する度、明らかな差が他の奴らとついてしまう。これ以上練習したらもうバスケしたくない、そう思った俺は練習に参加しなくなった。それでも俺を倒せる相手は見つかることなくすっかり腐った。

でもその言葉を思いだす度、俺は苦しくなる。



「スミマセン、青峰さんっ、明日の試合はお弁当要りますか?」

「…あ、良の弁当か…ああ、要る」



そういやアイツ、俺が適当にプレーしてたら言ったっけ。
『そんなプレーしたら良クンのお弁当ナシだからね!』
て。今思えば本当にアイツ未来から来たのかもな。







……………忘れていたのに。
彼女の存在を、思い出も全て全て全て忘れたのに。私に向けた楽しそうな、嬉しそうな、悲しそうな表情も言葉も忘れたはずなのに。どうして今になって青峰くんそんなこと言い出すの…?



「どうっ、して…!!!」



全てを予言した彼女。あの時は理解できなかった言葉の意味も表情の意味も今となれば全て理解できる。痛いほど、辛いほど分かる。だけどどうしてどれ程待っても彼女は現れてくれないの…

"未来で待ってます"。
あのメッセージはウソ…?

私の思いを聞いて欲しい。助けて欲しい。テツくんとだってあれから色々あった、応援してくれるって言ってくれたから報告することたくさんある。なのに…




* * *




「…いったーい、」



一体何事であろう。学校にいつも通り登校して、当たり前のようにいる友達と笑って楽しく話して。それから午前中の授業も四時間全部寝ないで受けて。「これからお昼だ!…その前に一緒に飲み物買いに行かない?」と友達を誘って一階にある自販機に向かおうとしていたのに。一階まであと一つの踊り場まで着いて、階段に足を伸ばしたら後ろから誰かとぶつかって。構えてもいなかった、予想打にしなかったアクションに私は階段を踏み外して、落ちるしかなかった。持っていた財布を投げ飛ばし、周りにいた人たちがみんな驚いた顔をしている。

そもそも、私とぶつかったのは一体だあれ?

そんなことを確認する時間もなく、次に私が痛みを感じたのは、見たことのない場所の階段で落ちたところだった。



「お、おい大丈夫か…?」

「今凄い落ち方したよね、頭とか打ってない?ケガは?」

「ーーー!?」



もうあまりにも一瞬すぎる出来事にどこが痛いのかも判断しきれない。兎に角、あちこちが痛い。手首やら腰やら頭やらを転々と確認するように手を動かしていると、上から誰かの手と声が聞こえた。その手は私に伸びていて、声からもとても心配しているかのように思える。
すみません、そう言って手に自らの手を重ねようと目線を上げて言葉を失いフリーズした。



「えっ、え?どうしたの?大丈夫?やっぱり頭打ってる…?」

「怖いから保健室まで連れてこーぜ伊月。」



見間違いかと思ったけど、"伊月"との名前を聞いて完全に見間違いではないことを悟った。

そう、目の前にいるのは伊月俊。誠凛高校二年生でバスケ部レギュラーのPGを務めているダジャレ好きで有名なあの彼だ。
そして、その隣で同じく私を立ち上がらせようとしているのは日向順平。誠凛高校二年生でバスケ部レギュラーのSGを務めているキャプテンの彼。

そんな彼らと、何故私は保健室とやらに向かっているのでしょうか。



「本当に大丈夫か?あの落ち方普通じゃねーぞ」

「でも足を引きずる様子も頭を抱える様子も無かったから大したことはなさそうだね、良かった」



保健室の前までくると、日向先輩と伊月先輩は私の心配をして話しかけてくれる。そしてもう時間がないと言って戻ろうとする二人の背中向けて言った。



「日向先輩に伊月先輩ありがとうございました!バスケ、頑張ってください!」



名前を知られていることにとても不思議そうな顔をしていたが、バスケ頑張れの言葉に嬉しそうに顔を緩ませて、ガッツポーズを私に向けておう、任せろ!と言って消えた。

…ところ、で。これからどうしよう。そもそもよく見れば私いつもの学校の制服じゃなくて誠凛の夏服の制服着てる。確かにあの白の制服可愛いなて思ったけど!着てみたいなて思ったけど!別に本気で思ったわけじゃないし…!!!
本気でどうしようと保健室の前で挙動不審な行動を取っていると、向こうから大人の人が私の名前を呼んで走ってきた。



「月さん…!」



…誰?反射的に口を吐いて出そうになるのを堪えて、私はその大人の人を大人しく見つめる。



「勝手にいなくなられちゃ困るよ…。このお昼が終わったら一年B組に転入挨拶だからね?…て、手首どうかした?」



意味が分からない。一年B組に転入挨拶!?私、じゃあ本格的に誠凛高校に入っちゃったの!?これは、まさかあの日以来のトリップ…?でも待って。誠凛高校には黒子っちがいる。あの日のことを…て、あれは私が一方的に見たただの夢だ。覚えてるもクソもない。

それよりも、手首をしきりにいじっていたことが目の前の大人の人は気になったのか、指を指して心配そうにこれまた話しかける。今まで無意識だったとはいえ、これは意外と痛い。さっき階段で落ちたときに手首を捻ったのかとしれないと説明すると、突然顔色を変えて勢いよく保健室の飛をあけて中にいた綺麗な保健室の先生に事情を話し、挨拶どーのこーのの話を聞く前に手当をしてもらうことにした。

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