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 ものは考えよう



「蘭君助けて」


泣きそうな声で、わざわざ自分に助けを求める『友達』の電話に、気がついたら走ってた俺はいったいどこのだれだ。

賢いのに馬鹿な『友達』は、最高に歪んだ性格が災いしていつも一人で居る。利用するためされるために誰かと関わることはあっても、必要以上に傍にいるなんてことはしない。だから友達と呼べるような人間は片手が余るくらいしかいない。『友達』を利用してどこまで出来るのかとあることないこと吹き込んでみたら、結果として不安が浮かんできた。

最初はこれがあの、と自分の目を疑った。自分を嵌めて、ほかの奴からも怨みしか買ってないような男は信じられないくらい好意に対して無防備だった。仕方ねーから守ってやるよと勝手に思うくらいには。

また押し掛けるために近くまで来てたからわりとはやく着いたはずだ。チャイムを連打で鳴らすと騒がしい足音が響いた。

無事か、と心の中で小さく息をつくとバタンとドアが開く

「らんくんっっ」

と 同時にドン!と胸に体当たりを食らわされた。

「ぅわっ!」
「蘭君、らんくんおそい、らんくん、う」
「!?」

ドアを開けるなり折原が抱きついてくる。目に涙を溜めて、いや溢れてる。びっ、くりした。いくらなんでも、いったい何が



(潰す)

サングラス越しに部屋の奥を睨み付けて気配を探る。が、見つからない。まぁなんでもいい、見つけ次第潰す。片手で臨也の頭を撫でてもう片方でハンマーを握る。

「走ってこれなんだから仕方ねーだろ、どうしたよ?」
「あっち…!あっち、いる」
「ああ?」

殺意を含めながら言うと背中に回って指を差したのは何もないいつも通りの黒いソファー。

人間の気配はないみたいだ。

「なんもいねーだろ」
「うそ、いた、さっきまでいた、いた」
「………」

背中にぎゅうと抱きつかれるのは気分がいい。いた、ってことしか言わないあたりどうやら何かをされたわけではないらしい。無駄に心配させてんじゃねーよと溜め息を吐く。しばらく遊んでようかと思ったけどまず『いる』はずのなにかを見つけることができない。

「なにがいんだよ」
「なんか、いる…!」
「はあ!?」
「ああほらいまっ」
「?」

かさりと、確かに視界の端で動いたそれを近付いて確認する。

「…………くも?」
「っっ」
「っ、……潰すからなんか紙持って来い」

かっ、わ…!

小さな虫を確認すると折原が可哀想なくらいにカタカタと震え出す。つうか今まで何かもわかんねーであんな泣きそうになってたのかよ、どこの箱入り娘気取りだ

「らんくん、だめ、くもころすのよくない」
「は?」
「にがして、おねがい、らんくん」
「………ああもうわかった、とりあえず紙持って来い」
「ん。」






「逃がした…?殺してない?」
「ちゃんと外まで逃がした。」
「よかった、ありがと……」

渡された真っ白な紙の束をゴミ箱に捨てるとパソコンの後ろに隠れていた臨也がとてとてと寄ってくる。

「目ぇ腫れてんぞ、どんだけこわがってんだ」
「虫だめなんだよねぇ…ほんと助かったよ。紀田くんもシズちゃんも何も言わないで切っちゃうし、ドタチンは繋がらないし、」
「おいちょっと待て」
「?」

聞き捨てならないことが聞こえた。きょとんと首を傾げる。ああ駄目だ、これはわかってない顔だ。

「…なんで俺より先に電話してんだよ、お前の友達は俺だろーが」
「ドタチンも紀田くんも友達のつもりだけど」
「紀田のガキは部下だっつってんだろ、門田は他の友達の相手で忙しいんだろうよ。つーか平和島静雄とか論外だろうが、死にてーなら殺してやんぜ?」
「遠慮します。焦ってたから誰とか構ってられなかったんだよ…でも今度から蘭くんに最初に電話する、蘭くんが居てくれると安心するし」
「……そうしろ。他ン奴らとか頼りになんねーだろ、誰がお前のために動くかよ」
「蘭くんのそういうとこ好きだよ」
「知ってる。だからやってんだろ」

何言ってんの?って声が聞こえるような顔をする臨也を軽く抱き締める。

どうやったらこのバカに理解させることが出来るか言葉を選ぶ。俺に頭を使わせんのなんかこいつくらいだって最近気づいた。

「なんなの?」
「友達には好かれてーだろ?」
「……似合わないこと言うんだね、友達の悲鳴聞いて喜んでるのが蘭くんじゃないのかな」
「人によるな。お前の悲鳴は今んとこ聞きたくもねーから安心して友達やってろ」
「うん。」
「…………ああ…それより」

口数少なく素直に頷くなんて折原臨也らしくない。ない頭を使って行動で示してやっとここまでの関係になった。

ん、と屈んで頬を寄せるとああ、と臨也が俺の肩に手を添える

「ありがとね、またよろしく」

ちゅ、とガキみたいな口づけのあと困ったようにふわりと笑う。

「…お礼のキスが友達にするものだってことは分かったんだけどさ」
「おう」
「蘭くんは男の俺にキスされて嬉しいの?」
「ああ、友達だからな」
「なら、まぁいいんだけどさ」

納得いかないと言いたげな顔をしながらキッチンに向かう臨也の背中に口角がつり上がるのを抑えきれない

ああ、もう、本当にバカな奴だ

(どこの世界に男友達にキスねだる男がいんだよ)



おかげでこんな暴挙がまかり通るわけだが。

次は何をしてもらおうか、

無い頭を鍛えるために無駄に可愛らしい旋毛に口づけを落とした



end


蘭くん圧勝



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