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 インサイドヘッド

マレフィセントのみんなで。







人間の頭の中はいったいどのようになっているのか。
なんて、知っている者からすれば考えること自体時間の無駄だよと全知全能の妖精は言う。

じゃあ教えてみてくださいよ。
別に疑ったわけでもないのについ馬鹿にするみたいな口調になった自分に、応えた妖精の表情を見た瞬間はめられたと気がついた。

妖精が杖を振る。
なら最初から、素直に教えさせてくださいと言えないものなのか。
きらきら白い星が足元から煌めいて、自分と妖精の姿が消えていく。
手のひらで踊らされているようで、いつも通りに腹が立った。

「……なんですか、ここ。」
「シズちゃんの頭の中。ね、考えたところで絶対出てこないだろこんな場所。」
「…………」
「頭の中が脳だとでも思った? あんなの、ただの容れ物だよ。シズちゃんの頭があんな面白みもない細胞のかたまりなはずがないだろう?」

おいで、案内してあげる。

嬉しそうに笑って、臨也さんが俺の手をとる。
人の頭の中に忍び込むことが、悪いことだとは思っていないんだろうなこの人は。
迷路みたいに複雑な場所を迷う様子もなく進んでいく。
壁には、ボーリング玉くらいの大きさの球体が無数に並べられている。赤、青、黄、鮮やかな色で輝く球体はひとつだって同じ色はないように見える。

「綺麗ですね、さすが静雄くん。」
「そうだろ、紀田くんとことは大違いだね。」
「……は?」
「紀田くんの頭の中は俺のことしか考えてないから灰色ばっかでつまら…」
「みっみたんですか?!」
「っ! えっ」
「っ、ぁ…! す、みません、つい。」

自分を引いていたはずの手を引っ張って、思わず出た声に、臨也さんがびっくりしたみたいな顔をしてびっくりした。
臨也さん相手に声を荒げるなんて、この世の中で片手に入るくらい無駄なことだと言うのに、つい。

「……人の頭を覗くなんて、流石嫌われることが日常の人は怖いものがないですね。」
「……冗談に決まってるだろ。カラスの頭を見たところで、まず思い出があるかすら疑わしいのに。」
「それを言うならあんたのは静雄くんに関するもの以外黒で塗りつぶされてそうですよね。全部忘れたい思い出でしょう。」
「そうだね、そんな中蘭くんに食べられそうになってるひ弱なカラスは失笑映像として輝き続けてるけどね。」

「ハイ、臨也と紀田くんがフォークの形で喧嘩」「ハイ、それは『よくある喧嘩』にまとめられてたね」「ハイ、かいしゅー」

「……?」

流れるような嫌味の応酬をしながら歩いてたら、甲高い声で自分の名前が呼ばれた。
しっ!と立ち止まった臨也さんから覗くと、静雄くんと仲良しのゴブリンに似た小さな生き物が球体を道のわきの溝へ投げ捨てるのが見える。

「あの溝って…」
「うん、下水道みたいなものだよ。思い出の廃棄場に通じてるんだ。」
「へー…」
「記憶の棚には限りがあるからね。こうして大事な思い出だけを残していくんだよ。」
「へー…」

「ハイ、臨也の子守唄」「ハイ、必要」「ハイ、そろそろ流しとこうか」「ハイ、せーの」

「「お、おお……」」

ビュン!と風をきる音がして、球体が高い塔に向かって飛んでいく。
唐突に、臨也さんと喧嘩して杖を人間の国の城までぶっ飛ばした静雄くんのことを思い出した。

「こ、この俺がゴブリンを格好いいと思うなんて…!」
「い、いや、あれはもはや静雄くんですから…」

意味があるのかわからない謎のフォローを入れて、ゴブリンが球体を飛ばした塔を見上げる。あれだけ高いのに、今の今まで気にならなかった。

「あれはね、司令塔。シズちゃんの考えはあそこで決められていくんだよ。」
「あそこにもゴブリンみたいなのが?」
「ううん。あそこにいるのはもっと可愛い、シズちゃんのデフォルメみたいな… ……行ってみる?」
「……さすがに大変なことになりませんか?」
「んー…、一回遊びに行ったときにはシズちゃん熱出して倒れたからなぁ…」
「……なにやってんすかアンタ…」
「行ってみる?」
「共犯者にはなりませんよ。」
「はぁ、本当につまらない烏だ。」

わざとらしくため息をついて、臨也さんが踵を返す。
どうやら向かっていたらしい。
ゴブリンたちに背中を向けて大人しく手を引かれると、今度は大きなアーチに辿り着いた。

『夢を作る場所』

アーチに掲げられている施設名の分かりやすさに静雄くんらしさを感じてなんだか嬉しくなる。純粋で真っ直ぐな彼は、やっぱり心の根から素直みたいだ。

「きょうのゆめのナイヨウはー???」「きょうはかなしみさんがタントウのはずだから、イザヤとケンカしよう」「なんでケンカしよう」「このまえの、キダくんとイザヤがケンカしたときにしよう」「そうしよう」「イザヤ、ミカタしないとすぐスネるからな」

「…………」
「なんつーか、よく見てますよね。」
「うん、シズちゃんがよく君の味方をするのは俺の機嫌を損ねたくないからで君が正しいわけじゃないってことがはっきりしたよね。」
「アンタそんなにポジティブでしたっけ?」

今度はピクシーたちが舞台装置を組み立てて、自分たちとよく似た服を着る。静雄くんの夢ではこんな風に見えてるのかと微笑ましい気持ちになると、一人のピクシーの掛け声で舞台に薄いベールのようなものが降りた。

「……!」
「あれすごいよね、たかがピクシーがまるで俺だ。」
「話し方まで同じに聞こえますね。」

『ちょっと紀田くん、どこ行くの!』
『アンタのおつかいですよ! 泉井から情報取ってきたらいいんでしょう!?』
『っ、は、はやく、行きなよ! ついでに食い殺されればいい!』

「…………」

うわぁ、これ見られてたのか。
自分を殺しかけた泉井のことを愛おしげに話す臨也さんに苛立って、らしくなくカッとなってしまったのを覚えてる。
待ちくたびれたのか泉井に会いにきたのか追ってきた臨也さんの飄々とした態度に流されて、怒っていたことも忘れていたけれど。

『……臨也』
『……シズちゃん…。』

『紀田くん、烏のまま行ったのか。』
『……蘭くんの住処は遠いから…』
『紀田くん、烏のとき泉井蘭に殺されかけたって』
『……何が言いたいの。』
『後悔すんならいじわるすんなよ。』
『っ、な、何様のつもりだよ君は。』
『臨也こそ何様のつもりだよ。紀田くんに甘えてんじゃねーよ。』
『っ……! 君に、言われたくない。』
『ッ、逃げんのかよ!』
『出掛けるだけ! お土産、持って帰ってくるから!』
『臨、っ……』

窓を開けて、臨也さんが飛び出す。
一人になった静雄くんが俯く。

『俺には、怒ってすらくれねーくせに』

「それは違うよシズちゃん!!」
「えっ!?」
『『?!!!』』
「シズちゃんを怒らないのは気を許してないからじゃなくてシズちゃんがいい子だからで』
『イザヤだ!!』『イザヤ!!』「ホンモノ!?」「ニセモノ!?」
「い、臨也さん、大騒ぎになってるんですけどコレって気づかれて大丈夫なん」
『意地悪しないのだって、意地悪なんて出来ないくらいシズちゃんが可愛いからで』
「タイヘン、ヨウリョウたりない!」「シズオ、おきる!」
「あーもう! 絶対だめなやつじゃないですか!」
「俺は君が大好きなだけなんだよ、シズちゃん!!」



「…………夢…?」
「シズちゃんっ!!」
「えっ?!」

目を擦って目覚めた静雄くんに臨也さんが抱きついた。
びっくりしながら背中を叩いてあげるところも、静雄くんが臨也さんに愛されるひとつの理由だろう。たかが烏の自分から見ても彼は格好いい。

「どうしたんだ、まだ夜中だろ?」
「こわい夢見たから、一緒に寝ようと思って!」
「……そうかよ…。」
「うん、寄って!」
「臨也でも、夢見たりするんだな。」
「よく見るよ、いろんな夢。シズちゃんも?」
「うん、俺も……。…臨也は、夢も覗けたりするのか?」
「あは、さすがに出来ないよ。シズちゃんの夢なら入ってみたいけどね!」
「……そうか…。」
「うん、だから、どんな夢か教えてね。俺も、シズちゃんには教えてあげるから。」
「……いま」
「ん?」
「すごい、いいゆめみた。かなしかったのが、すげーしあわせになった。」
「……そっか。よかった。」
「うん、おやすみ臨也。臨也もいい夢みれたらいいな。」
「……うん、おやすみ。」

二人には少し小さなベッドで身体を寄せる二人のなんて絵になることか。
窓から飛び立とうとして、さっき見たばかりの光景を思い出した。
自分の中につもる球体は、きっとこの二人だけで眩しいくらい輝いてるんだろう。

月が二人をやさしく照らす。

今夜は、烏ですらもいい夢がみれそうだ。



end

2016/09/08



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