short | ナノ

 Shall we xxx?

「可愛いね、前髪。」
「ありがとう新羅。ねえセルティ、君はどう思う?」
『えっ?』
「女の子からの意見を聞きたいんだ。どうかな、変じゃない?」
十二月、寒い日。
長い脚を見せつけるように組みかえて、臨也が小首を傾げる。正直『そんなことより今までどこで何をしてたんだ』と臨也の問とは全く関係のない答えを打ち込みたいところだったが、心優しいデュラハンの彼女は彼にとって適切な返答を模索してやることにした。
『二年前よりも若く見えるな。』
「……分からないな、新羅どっち?」
「若いは誉め言葉だよ。証拠に僕は少し嫉妬してる。」
「はは、それは信憑性が高い。」
嬉しそうに笑ってみせる臨也に、セルティの影がどよめく。
彼女の知る彼は、こんな風に笑う男ではなかった。
もっと嘲るように、あるいは愛しげに、なんらかの含みを持たせた笑顔が頭部のない彼女の脳裏に浮かぶ。
「いいコートだね。これからはその色でいくの?」
「どうだろう。美人の店員さんに勧められたら、次は白でも買うかもしれない。」
『勧められて買ったのか?!』
「うん。変?」
『へ、変では、ないが』
スマートフォンに動揺をそのまま反映させてセルティが臨也を凝視する。実際のところ彼女に目はないが、臨也ははっきりと視線を感じたらしく苦笑で返した。
「明るい色の服を着ると楽しい気持ちになれるって聞いてさ、ほら、お誂え向きに会わない期間があったことだし?」
イメージチェンジするなら今しかないと思ってね。と凡そ自分の知る彼には似つかわしくない真っ赤なコートを羽織る臨也に、いよいよ動揺が恐怖に変わったセルティが新羅の肩に手を伸ばす。その手を一度撫でて「送ってくるね」と立ち上がった新羅もまた、柔和な笑顔の下で嫌な予感に神経をざわめかせていた。
そうでなければいいと、きっとそうなんだろうと。
「臨也、セルティに聞いたんだけどね」
靴紐を結ぶためにしゃがんだ臨也に、新羅が話し掛ける。
「静雄君が、君とうまくやれていたならなんてもしも話をしていたらしいよ」
「そうなんだ、人間って変わるものだね。」
「うん、本当に。」
ワックスをつけているのかパーマをかけたのか。ふんわりとウェーブのかかった栗色の髪を見て、新羅は似合わないと思った。
「じゃあまた。」
「うん、また」
かつて自分の数少ない大切な友人だった彼は、きっと死んでしまったのだろう。それがあの日なのか、自分が知らない空白の期間なのかはしらないけれど。
「臨也、おかえり。」
敢えてそう言った理由は、新羅自身分かっていない。
思ってもいないことを、と。
かつての友人ならきっと看破しただろうと、懐古的になる自分に自嘲の笑みをひとつ浮かべて、新羅はくるりと踵を返した。



「思ってもないことを。」
「なにがです?」
「いいや、君には関係のない話だよ。」
右手で前髪をかきあげて、臨也が唇で弧を描く。
「セルティは若く見えるって褒めてくれたよ。」
「そうですか、社交辞令もわからなくなりましたか。若作りが痛々しいですよ臨也さん。」
バイクに跨がった黒髪の青年が吐いた悪態に、臨也が嬉しそうに笑う。
「なんでも、シズちゃんがえらく大人になってるらしいよ。これだから、嫌だね彼って。」
同じ《嬉しそうに》でも、セルティや新羅の前で見せたものとは明らかに違う。彼女達が見たならば、恐らくは胸を撫で下ろした後に、そんな自身を後悔するであろう含みのある笑みは、彼が池袋で築き上げた折原臨也以外の何物でもなかった。
「言ってあげないと、自分が化け物だってことも忘れるんだから」
黒髪の青年に抱きつくように、軽やかな足取りで臨也がバイクの後ろに跨がる。
舌を打たれたことに気付いたが、彼にはそれが愛しくて仕方ない。
愉しげな鼻唄を歌って、ねぇ紀田君、といつのまにか自分と同じ背丈になった青年の背に額を寄せる。
「次は、俺が勝つよ。」
「まぁ、勝ったところで引き分けなんですけどね。」
「いいんだよ、あんな化け物に勝ったところでなんの自慢にもならない。」
「なら負けたままにしとけばいいのに」
「だからって、あんまり似非を増やされるのも気分がいいものじゃないからね。」

「仕方がないから、形だけでも生き返っておくよ。」



黒髪の青年はまた舌を打って、臨也に気付かれないよう小さく笑う。
首元を擽る上質なファーの付いた黒いコートは、自分には不相応な高価なものだったが、買ってよかったと思った。
実際のところ、自分の行為が彼に与えた影響なんてあってないようなものだと理解してはいたけれどそれでも。

おかえりなさいと、唇だけで紡いで青年はバイクのグリップを握る。

―やっぱり、俺には似合わないな。

サイドミラーに映る黒い自身を見て、臨也を送ったらその足でドラッグストアに行こうと彼は思った。美容院で黒く染めた髪をもとに戻すために。
安いパーカーが似合うような、安っぽい金髪の紀田正臣に戻るために。



彼が在ることで起こりうる惨事なんてもの、臨也を失う絶望を知った彼にはあまりに些末なことだった。



end

2014/12/18




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