short | ナノ

 お嬢さんを僕にください。

シズイザと四木さん。
地雷の恐れが多分にあります。わたしには地雷です。








「車が空を飛ぶようになったらどうしよう……」
「なんでそんな深刻な声なんだよ」
「池袋の空はシズちゃんのせいで毎日交通渋滞だよ……せっかく快適な空のドライブを楽しんでいるところに自販機が飛んでくるんだよ……かわいそう……」
「安心しろ、道路走ってんのと確率はかわんねえからよ。」
「……! ……ほんとだ…」
「……ドライブ、行きてーの。」
「俺、運転するより助手席の方が好きなんだよね。」
「…………」
「シズちゃん以外とはしたくないから、車が地面を走ってるうちはいいかなぁ…」
「…………」
「それより、シズちゃんとはアレ。道場破りとかしてみたいな。二人で!」
「ハ、なんだそれ。お前もやんのかよ。」
「うん。俺は武器がないと弱いから、ボコボコにやられてシズちゃんの闘志を煽る役する。」
「無理だな、一発殴られた時点で俺がキレてる。」
「……君は俺が好きだなぁ…」
「まぁそれなりにはな。」
「まぁ俺もなんだけどね。あ、みてみて一泊二日北海道の旅だって。いくらおいしそう」
「四万か……」
「ボーナス待ちかな?」
「……節約する…」
「じゃあお弁当だね。晩ごはんも食べにおいで、安くておいしいもの作ってあげるからさ。」
「いつもありがとな。」
「いいよ、シズちゃんとじゃなきゃ意味がないもの。」
「……そうだな。」
「うん、そうだよ。」





「……やっぱり、空気が違いますね。」
「ええ、そうですね。」
「ふ、ふふ。気持ちいい風だ。」
「ええ、本当に。」
「…………」
「…………」

「……手を、繋いでも?」
「…………」
「ありがとうございます。」
「手を繋ぐのに許可を取るなんて、使えない人ですね。」
「使えない人間の方が好きなんでしょう? ご要望通り免許証も置いて来ましたよ。」
「……頼んだ覚えがありません。」
「頼まれましたよ。朝食はいくらかけご飯でしょう?」
「俺、いくら嫌いなんですよね。命になり損なった死骸の群れを見るようでゾッとします。」
「……一月前の貴方に聞かせて反論をうかがいたいところです。」
「反論なんてありませんよ。ずっと、そう思っていましたから。」
「……そうですか。」
「ええ、そうなんです。」
「…………」
「五稜郭は夜ですよね。とりあえずホテルに荷物を置いて、トウモロコシ畑に行きます。甘いトウモロコシを食べます。」
「ええ、分かりました。」
「それから牧場にいって絞りたての牛乳を飲むんです。チーズ作りの見学をして、お土産に出来立てのチーズをもらいましょう。」
「素敵ですね。ワインを買って帰らなければ。」
「ええ、ええ。二人でワインをたしなんで、五稜郭の夜景を思い出して、ロマンチックな雰囲気に溺れて、それで」

「灰でも、まいてやりましょうか」





「最高に、幻想的になるでしょうね。」
「……どうでしょう。ただの粉ですから。」
「粉塵も舞えば煌めきますよ。試してみるといい。」
「……止めて、くれないんですね。」
「忘れてくれるなら、私には一番都合がいいですから。」
「はは、優しいなぁ四木さんは。」
「…………」



「……、手を繋ぐのには許可を取るのに、唇は無断で奪うんですね。」
「優しい男になりたくて来たわけじゃありませんからね。」
「……優しく、してくださいよ。」

「いま、くらい」



『北海道ですか?』
『ええ、一泊二日で。』
『それはまた、忙しない旅行になりますね。』
『俺がパトロンになれるなら、一週間はお休み頂きたいところなんですが』

『二人で同じだけ楽しめないと、なんの意味もないですから』



「…………」

(止めるなら、今ですよ)


ガラスの小瓶に詰まった灰にできることなんて何ひとつないと知って、小瓶ごと白い手を包み込む。
ひどい人だ、この人をここまで弱くしてしまった責任も取らないで。


毒を飲んだくらいで、
いなくなってしまうなんて。



(致死量の毒薬くらいで、自分達がこの人を手放すはずがないというのに)


冷たい風が頬に刺さる。
謝罪はしない。
罪悪感もない。

だからこれを、贖罪とは思わない。


(本当に欲しいなら、全てを捨てて逃げてしまえばよかっただけなのだから。)





end

2014/09/12

からのヴァンパイアシズちゃんを推したいです。

臨也さんに添い寝する四木さんの前に灰が舞って現れるシズちゃん。
「飲み干したら、くれるって約束だったよな。」
って言って臨也さんを抱き抱えてバルコニーから飛んでいけばいいですハッピーです。
でも臨也さんは地味に仕事人間なのでしれっと四木さんのところに舞い戻る。



prevnext

back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -