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 さようなら


しににいく臨也さんと送り出す六臂ちゃん。







やさしいひと
すてきなひと

君は僕の絶対で
世界はただ君だけのためにある。

やだな。
ああやだな。


だって君は、彼のモノ。



「臨也、どこに行くの?」
「……行かないよ、どこにも。」

にっこりと笑う。
この世の中で一番に美しい光景。

ざわざわざわ

じわじわじわ

うそつき、
だなんて君に言いたくはない。
行かないと答えるなら、よかったと目蓋を閉じるだけ。

真夜中

もうすぐ、2時になる。

お揃いのパーカーが黒いシャツに、無防備なハーフパンツが隙のないスラックスに。

ふたりで一枚の毛布より、そのコートはあったかいのかなぁ?

「心配してくれるんだね。」
「してないよ、不安なだけ。」
「不安?」
「臨也がいないと、不安なんだ。涙がとまらなくなって、しんじゃったらどうしようって。」

親指が目尻を撫でる。
冷たいよ。

臨也がいないと、
いるのに
ひとりのベッドは冷たい。

いなくなったら
きえてしまったら

体温は上がらなくなって
心臓も動くのをやめるだろう。

なんだかそれは、生きたいみたい。

生きるために臨也が必要だから、だからすがってるみたい。

そう

いうわけじゃ、ないのだけれど。

「俺がいなくなったら、六臂は泣くかな。」
「泣くよ。いなくならなくても、いなくなることを考えるだけでほら、わざとじゃないのに。」

ぽろぽろぽろ

一粒落ちるたびに、
肺に水が溜まっていく。

きっとこうして肺は機能を失って、自分は息が出来なくなる。

いかないで
いかないでと

言って、もしも


「ごめんね、六臂」

「――…」



「うん、いーよ。」
「ありがと、行ってきます。」
「いって、らっしゃい…」

ちゅう


額へのキスなんて
本当は嬉しくない

いらない

こんなのいらない

キスなんていらない

ごめんなんていらない

いて

いてくれればいい


しんでもいーんでしょう俺なんて。

彼が待つ場所へ

彼は待ってなんかいないのに


きずだらけになって
かえってきてくれるならいい
てあてしてあげる
なおしてあげる
またわらってくれるならいい

臨也が笑ってくれるなら



(でも彼は、それを許してはくれないでしょう?)


ファーコートからひとひら

落ちた羽根は、真っ白にみえた。



end

2014/09/08




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