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「……何話してるの紀田くん」
「あっいや、あー…臨也さんがヤンチャしてた頃の、ほら、色々?」
「………」
「ーっ、わんっ」
「あっ」
「シズちゃん、紀田くんが言ったのは全部作り話だからね。信じちゃダメだよ。」
「わんわん!」
「紀田くん、犬は嫌なんじゃなかったのか?」
「勝手に人で変な話作った罰だよ。地に足をついて吠えてればいい負け犬みたいに」
「…………」
「また臨也はそういうこと言う。」
「だってほんとだよ。シズちゃんシズちゃん、俺ケーキ作ってみたんだ。食べる?」
「っ食べる!臨也のケーキ、俺大好きだ!」
「あは、よかった。トロール達も呼んであげようね。」
「……紀田くんも、戻してやるよな?」
「…………」

「……っ、……静雄くん、ありがと。静雄くんは優しいなぁ誰かさんと違って」
「うんそうだね。俺はシズちゃんと違って優しくする相手を選ぶからね。」
「へええ、つまり俺は優しくする価値もないと。」
「ああよかった。そう聞こえなかったなら君の頭を心配するところだったよ」
「安心して下さいよ、世界一性格の歪んだ妖精に使えてるお陰で頭にはいつも皺が寄ってますから」
「はは、烏の小さな頭にいくら皺を寄せたところでねぇ」
「お前ら面倒くせぇぞ」
「「えっ!?」」

臨也さんが、一度は奪われた真実の愛を取り戻して数年。
名前から姿形まであの人の生き写しのような静雄くんが妖精の国の王になって、ここは自分が知らない頃のように優しい光の溢れる場所になっていた。
水面は陽射しを受けてキラキラ輝いて、草木は青々と生い茂る。自分を人間にしたあの臨也さんが産まれた場所だとは、どうやっても思えないくらい。

「紀田くん、失礼なことを考えてるね?」
「まさかまさか。ご主人様に対してそんな無礼、あるはずがないじゃないですか。失礼もなにも全部事実なんですから」
「どの口が言うのかな?」
「このくちへふお」

むに、と両方のほっぺをつねって臨也さんが額をくっつける。至近距離が目に毒だ。目に、だけじゃない。皮膚にも、心臓にも。

こんなに毒々しい人が、よくもまあ今の美しい世界を受け入れられたものだ。

「臨也、紀田くん、お茶入ったぞ。食わねえのか?」
「「食べ」」
「「…………」」

「フッ紀田くん、素直になっていいんだよ臨也さんの美味しいケーキが食べたいですって」
「臨也さんこそ素直になったらどうですか。いつもの感謝を込めて紀田くんにも食べて欲しいんだって」
「ハハハハ、だれが感謝してるって?」
「あはは、冗談ですよ。感謝してほしいなんて思ったこともありません。」
「言ったね?」
「言いましたよ?」

口だけで笑う臨也さんに、同じように口だけで笑って返す。
静雄くんが、また始まったとため息をついたのがわかった。

最後のは別に、嫌みでもなんでもなかったんだけどな。
臨也さんはともかく、静雄くんを怒らせるとしばらくお菓子を分けてもらえないので臨也さんと目を合わせたまま席に座る。
指先を振ろうとしてやめたのは、結局さっきのが図星だったってことでしょう。食べてほしいなら、最初からそう言えばいい。

そうしたら、自分だってちゃんと続きを言えるはずだ。きっと言える。言えるに決まってる。

『感謝なんてされなくても、俺が貴方に尽くすのは当然のことなんですからね』って今更なこと。


自分が摘んできた木の実を煮詰めた特製ジャムに弛んでしまった頬を見て臨也さんがニヤニヤ笑う。
おいしかった、だけじゃないですよ。

俺がいないと何もできないアンタが、ちょっと可愛いなって思っただけです。



end


2014/07/25




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