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 ひめはじめ



「姫はじめってさ、ひびきは可愛いのにねー」
「……お、おー…」

自分の膝の上で携帯を触りながら、特になんの抑揚をつけることもなく臨也が呟く。意味をわからずに言ってるわけではないだろう、響きはとか言ってるし。

なんでそんなことを突然と携帯を覗き込むと、気付いた臨也がひょいと頭を避けて画面を見せてくれた。

「なんかね、ついってぃあで回ってきたんだよ。」
「……下品な奴フォローしてんだなお前。」
「ふふ、そうかもね。シズちゃん、やっぱりこういうネタ嫌いかぁ。」

柔らかく笑って、臨也が携帯を机に放り出した。
体重を自分の胸に預けて目蓋を落とす無防備さに、甘えられてると自覚してくすぐったい首元からあったかくなってくる。

かわいい、すき。
つむじに口付けて心の中で呟くと、目を閉じたままくすくす笑って臨也が自分の右手を玩ぶ。
触れて、さすって、頬を寄せたり口付けてみたり。だんだん大きくなっていく心臓の音に、これだけ密着していて気がつかないはずがない。

臨也に放置された左手が、ほとんど無意識に細い腰をなぞってパーカーの下の素肌に触れる。

そういうネタ、テメェは好きなのか。

言葉にする代わりに耳を食む。
一度大きく震えてから、やっと瞳を露わにして自分を見る臨也が、なぜかいつもより幼く見えて、悪いことをしているような気分になった。

「ふ、ふふ…くすぐったいよ、シズちゃん……」

右手を拘束したまま顎を上げてまた瞳を閉じる。
期待されてると分かって、嬉しくて、心臓が震えてる。ゆっくり右手の拘束をほどいて小さな頭を支える。しなやかな髪も、柔らかい肌も、ふわふわ香るおいしそうな匂いも全部すきだ。

すき、すき。

それ以外に浮かばない。

すき、で、すき、が溢れてくる。

「ん……」

触れるだけの唇に、臨也が小さく息を漏らす。もっと、聞こえないけど、そう言われた気がした。

もう、いっかい。

深く求めるために息をつぐ合間に、細い指が、さっきまで自分の手を玩んでいた指が唇を塞いでキスを拒む。
たぶん、不満が顔に出てしまってた。
困ったように眉を下げて、痛いよ、とゆるやかに腰を上げる。首元に手を添えて方向を変える、それだけで熱が上がっていく。

自分がしたい行為を受け入れるための動作ですら焦らされているように感じてしまうのだから、自分も大概わがままだ。

膝を立てて、白い腕が首元に絡まる。ごくりと唾を飲み込んだ喉元に、赤い唇がおしつけられる。
甘く噛んでみたり、舌を這わせてみたり、右手にしたよりずっと直接的な戯れに理性の糸が張り詰める。好きにさせたいと、好きにされていたいと、もういいからはやく乱したいと。
混在する欲求を孕ませて、なされるがまま艶かしい姿を眺めていると、不意に臨也が身体を離して自分を見下ろす。

見上げた自分とかち合った視線に、今度は嬉しそうに、まるで無垢な子どもを気取ったような無邪気さで思い切り目を細める。

「俺はね、きらいじゃないよ、ああいうの」

視線で、意識を机の上の携帯電話に誘導される。ああいうの、と、ただ言葉を繰り返した自分が、臨也の言いたいことを理解できていたかどうかはよくわからない。

分かったのは、理性の糸が切れたことと、自分の手が臨也を引き寄せたことと、それから


「俺のこと、お姫様にしてよ。」


自分の恋人は、やっぱりこの世でいちばん可愛いんだって口元が弛んでしまったこと



引き寄せた勢いのままカーペットに押し倒して、酸欠になるまでキスをした。




end

2014/01/02



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