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 なんてしあわせなメリーエンド




「きみ、なんでいきてるの?」

幼い、こどもの声が聴こえる。
うえをみてもみぎをみてもひだりをみても、もちろんしたもなにも見えない。
目蓋があいてるかとじてるかもわからない、まっくらで、静かな場所。
幼い、たどたどしい声だけだ。

「まあ、いきてるならいきてたほうがいいのかな。おいしかったし。」

やわらかい手のひらが、確かめるように自分の首筋をぺたぺた触る。



「……あー……」

すんなり開いた目蓋の先では、コウモリのような羽根を広げて胡散臭い美少年が自分を見つめていた。

「シズちゃん、どうしたの?こんなところでお昼寝、だめなことだよ?」
「いいんだよ。休憩時間なんだから」
「そうなの?そっか、だめかと思って起こしちゃった。ごめんね。」
「……いざや、腹へってねぇ?」
「へってない。シズちゃんいなかったから、トムさんにもらったよ。トムさん、もっと野菜食べた方がいいと思う。やっぱり、シズちゃんのがいい。煙草もすわないし。」
「…………伝えとく。」

答えると、臨也がこくりと頷いて立ち上がった。羽根を一度大きく広げて、羽ばたく。太陽と青空を背景にした姿はひどくちぐはぐで違和感がある。
コウモリの羽根に、赤い瞳。
折原臨也は、正真正銘吸血鬼だ。
朝起きて夜眠るし、にんにく料理も平気な顔して食べるけれど。
どれだけ太陽の光を浴びても肌は白いままだし、人間の血を飲むときにいちばんしあわせそうな顔をする。
確かに吸血鬼なのだけれど、折原臨也は特殊な吸血鬼だ。
吸血行為になにも伴わない。
首筋にふたつ鋭い穴は空くけれど、それだけだ。化け物になることはないし、後遺症も血が薄い人間に多少貧血様の症状が現れるくらい。吸血鬼を駆逐することを旨としている教会がいまのところ害はないと判断したこともあり、エクソシスト自ら献血を申し出てやってるくらいだ。
俺の負担を減らすためにとトムさんが最初に言い出してくれたそれは、正直余計なお世話以外のなにものでもないけれど、それを言えるほど自分は素直じゃない。結果結局できるのは臨也に選ばれるために、健全で健康的な生活をしておいしい血の生成に勤しむことくらいだ。

「……次から、見つけられるとこで寝るようにしねぇと…」

首を鳴らして飛んでいった臨也をゆるく追いかける。いたいけな子どもを見守ることだって、大切な仕事だろう。

「わ、わー!きだくん、すごい!」
「だろっ?俺の紙飛行機は町一番なんだぜ!」
「へー!すごい、すごいねえ!」
「いざやくん、ぼくも、つくった…!」
「みかどくんもつくれるの?わあ、かわいいー!これ、おれのはねとそっくり!」
「いざやくん、わたしも……」
「あんりちゃんも!わあ、いいないいな、おれもつくりたい!」
「…………」

バッサバッサと羽根を羽ばたかせて臨也が同世代の子どもたちと紙飛行機作りにはしゃぐ。
微笑ましい光景だ。吸血鬼っていうのはやろうと思えば案外健全に生きられるらしい。
まるで無邪気な子どもだと、いや違う。このときの臨也は、確かに無邪気な、無垢な、人間となにも違わない、ただの可愛すぎる子どもだった。


「最近、喉が渇いて仕方ないんだよね。」

暗い部屋で気怠げに呟く臨也は、いつの間にか子どもたちを追い抜いて青年と称される容姿になっていた。

「……飲むか?」
「だめだよ、あんまり飲んだら、死んじゃう。」

君には死んで欲しくないんだと続ける、唇は渇いていた。
最近、笑顔を見ていない。

「飲まないと死ぬなら、飲めばいい」
「やだよ、君の血は、飲まない」
「でも」
「シズちゃん、ねぇ、ちゃんと聞いて」

紅い瞳が、自分を映す。
吸い込まれるように、溶かされるように、自分が瞳の不純物になって消えていく。


しあわせだ、と、思った。

「君には、死んでほしくないんだ。」

口角を吊り上げた臨也の、
笑顔を、久しぶりに見れたんだから。


(ぜんぶ飲み終わったら、俺がお前を生かしてやるな)



自分はきっと、最初からこれを望んでた。




end

2013/10/31


ハッピーハロウィン!



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