over write
シズイザからのデリイザ的なファンタジー的なあれです。
・シオンさんとショコラちょこちょこらさんがこれの過去未来を書いてくれます。URLはまたそのうち!
xxx
きゅい きゅい
『……おいしい?』
『あ?』
『おいしそうに飲むなと思って。』
ばかにするでもなく、感心したように言う臨也になんかこっぱずかしくなった。実際にうまいんだし、恥ずかしがる要素なんざねぇんだが、なんとなく見られたくなくてうるせぇと返した。
「俺シェイクって最後まで飲みきれないんだよね。」
「ん。」
「えっ?いいの?」
「飲みたいならそう言えよ」
「…察してくれるからドタチンのこと好きだよ」
「おう。」
場所は公園で、あいつの相手は恋人ではなく同窓生の男で、なのにいまの会話はまるで恋人同士の模範回答に見えた。苛つく、ふざけんな、テメェは誰のだと、そう思ってるといつの間にか自分は立ち上がっていて自分が座っていたベンチは消えていた。
「…………きみ、さ」
「池袋に来んなっつってんだろうが」
「……他になんか言うことないの?ドタチン完全にとばっちりじゃん。」
「知るか。テメェなんざと居てるからだろうがこの害虫が」
「………」
「…静雄、今のは謝れ。付き合ってる奴に言うことじゃねぇだろ」
「…ああ、そういえばお前は知ってたのか」
臨也を背中に庇って、門田が眉を寄せる。
知ってて今みたいなことをしたのか。ならとばっちりも何もないだろう。
「……ドタチンドタチン、巻き込んじゃって悪かったね」
「今回はお前に非はねぇだろ。んなことより静雄、今の臨也に謝れ。」
「あは、ドタチン優しい」
にこりと臨也が門田に笑いかける。わかりやすい作り笑い。
それを見て少しだけすっとする。
「…付き合ってくれてありがと。じゃあ俺帰るね」
泣きそうな顔は、俺の言葉に傷付いたからだ。お前なんかに臨也は慰められないんだ。
自然と上がる口角、傷つくお前は俺だけのもので、だから、俺が慰めるんだ。
絶対に俺から離れないように。
(エゴだなんて、だからどうした)
*
「がいちゅう、だって」
「がいちゅう…」
なんでそういうひどいことを平気な顔して言えるんだろう。さも自分が正しいみたいにさ。その害虫と恋人なくせに。
とぼとぼ歩きながらさっきの言葉を反芻する。ひどいな、ひどいなぁ
今日うちに来るって言ってたから迎えに来てあげただけなのに。
「ひどいなぁ」
こんなにひどいことを言うくせに、彼は今日もうちに来て、俺のこと好きにして、勝手にどこかへ行っちゃうんだ。どうせ。
俺からはなにも言えないって知ってるから、どんなにひどいことでも平気でできるんだ。
俺がどれだけ好きか、大好きか、シズちゃんしか見えてないか、全部わかってやってるんだ。
ばかみたい。
こつんと石を蹴ってみる。
白線からはみ出ないように歩いてみる。
しゃがみこんで、蟻さんの行進を応援してみる。
じわじわ、いじいじ
『しんで』も『きらい』も言えない。
彼のきげんを窺って、我慢して、泣きたくなって
こんなの俺じゃないのに、まるでこれが当然みたいに振る舞うシズちゃんは、やっぱり俺のことが嫌いなんだ。
それでも俺は、
好きをやめれなくて、どうしても大好きで、離れられなくて、
「すき、」
砂に描いたらくがきに何度も呟く。応えてくれなくても、よくないけどどうしようもないんだ。すき、
だいすきなんだよ、きみが。ねぇ、シズちゃん、きっといつまでも届かなくても。俺はきみが、きみのことが
ねぇ、きみも、少しくらい、こっちをみてくれてもいいじゃないか
「ねぇ、おにーちゃん」
「……ん…」
「おにーちゃん、もう暗いぜ、うち帰らないと心配されんぞ?」
「………」
いつのまに眠ってしまったんだろう。ベンチに座った覚えもないけど、そんなに疲れてたんだろうか。
こんな怪しい大人を起こしてくれた、どこか見覚えのある少年の頭を撫でる。
「いいんだよ、おにーちゃんはひとりだから。きみこそ大丈夫?送っていってあげようか」
身の丈に合わない大人用の白いヘッドフォンが特徴的な少年だ。
「ううん、ううん。俺は大丈夫。おにーちゃんひとりなのか?」
「………うん、おにーちゃんはね、ひとりだよ」
「ひとり、ひとりか」
繰り返す少年の言葉が雪みたいに心のなかに積もっていく。
冷たい
体の芯まで冷えてしまいそうな言葉だ。
「じゃあ、俺が一緒に居てやるよ」
「ほんとに?嬉しいなぁ」
「…嬉しい?」
「うん、嬉しい」
「………そうか!」
ぱああと少年の顔が綻ぶ。金色の髪がまるで太陽みたいで、触れられた手から順にあったかくなっていくのを感じた。
君が笑うと嬉しいよ。きっと俺にはそれしかないから、君のひとつひとつが俺の体温を変えるんだ。
小さな手のひらに包まれて、またふわりと柔らかい眠気が襲ってきた。
(好きなんだよ、俺はきみが、シズちゃんが)
*
泣いてたから
泣いてたから、笑ってほしいと思ったんだ。
「臨也、臨也起きて」
「ん……?」
「おはよう、臨也。」
「……ん、おはよ」
小さな手で目を擦りながら臨也がうとうと船を漕ぐ。起ききれてないのが可愛くてよしよし頭を撫でるとそのまま手のひらに体重を預けられた。
起きる時間ですよ、可愛いひと。
「しずちゃん、きょうはおねぼうさん?いつもおれ、おきたらひとりなのに」
「違うよ。早く起きたけど、臨也の寝顔が可愛くて動けなかったんだ。」
「!おれ、もういっかいねる!!」
「だーめ。起きてる臨也はもっと可愛いから、ちゃんと起きて俺の相手して」
ぷにぷにのほっぺたを手のひらで弄んで言うと、うん!と元気よく頷いて臨也が起き上がる。
ベッドの上に立ち上がる自分の座高くらいしかない少年を引き寄せて、可愛い、大好きを繰り返す。
「おれもしずちゃん、すき、だぁいすき!」
「ん。嬉しい、臨也、ちゅうしていい?」
「………やだぁ」
「やだ?なんで?」
「がいちゅう」
「え?」
「がいちゅうとなんて、しずちゃんちゅうしたくないもん。」
ぷいっと顔ごと逸らされて、殺意が生まれる。当然だけど臨也にではなく、
「臨也が害虫なのか?」
「いざや、がいちゅうなの。」
「俺は違うと思うな。臨也は人間にしか見えない。」
「しずちゃんがいった」
「俺は言ってない。俺は臨也にそんなこと言わない。臨也のこと、愛してるから。」
抱き締めて告げると、臨也がやっと自分を見てくれる。ほんとに?と笑うから頷く。嘘なんかつかない。
「おれも、しずちゃんあいしてる」
「ちゅうしていい?」
「しずちゃん、したいの?」
「うん、したい。ちゅう以外も、いっぱいしたい」
「いいよ、しずちゃんがしたいこと、ぜんぶいいよ。おれしずちゃんのことだいすきだから、なんでもするよ」
きらきら目を輝かせて、縋るようにひどいことを言う子どもを宣言通りちゅうと唇で食べる。
おいしい、ごちそうさま。
ねえ君が大好きなシズちゃんはここにいるよ。だからもう、どこにもいかないでね。
こくんと頷いた笑顔に満足して、包み込むように抱き締める。
そうして、折原臨也が池袋から消えた。
(上書き、完了。なーんて、ね)
end
物理的にちいちゃくなった臨也さん。
2012/2/12
これをひとは丸投げと言います。
シオンさんちょこら、楽しみに待ってますー!
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