short | ナノ

 LOHAS

LOHAS= Lifestyles of Health and Sustainability。 シズちゃんがまーくんで臨也さんが山田くんでセ ルティが部長さんで新羅さんはなんか居てます。 pixivの再掲です。



「うぇ、シズちゃん茶道部なんて入んの?」
「おう。だからテメェは入んなよ」
「えええ、なんでよ。シズちゃんが入るなら俺も入るよ」
「だめだ。テメェが入ると部が荒れる。テメェはすぐに暴力に訴えるからな。野蛮なやつだ。」
「うわぁ、シズちゃんにだけは言われたくないなぁ」
「とにかくテメェは来んなよ。余計なことすんなよ。考えたら俺のこれまでの失敗は全部テメェのせいだった気がしてきた」
「あっは!いくらなんでも理不尽すぎるよシズちゃん。」

まぁそんなところが好きなんだけどさぁ

そう言って臨也が来んなと言ってるの入部届けに『茶道部』ときったねぇ字を書く。別に読めない字でもねぇが、こんな綺麗な見目の割りにはきったねぇ字だ。ボールペン習字部にでも入ればいい。

小学生から一緒にいて、こいつが俺を褒めるのは人間離れした力とそれに伴う理不尽さだけだ。こと臨也に関して理不尽なつもりはないが、それまでなくなったら俺は臨也の中で暴力だけの人間になってしまうので甘んじることにする。

俺はそんな野蛮なだけの人間じゃない。ちゃんと人に優しくできる人間だ。所謂幼馴染みである臨也は、誰よりもそれを知るべきだ。

「…………」
「あ、シズちゃんもしかしてクラス忘れたの?D組だよD組。出席番号は二十ー…」
「あああああもううっせぇだまれ!!」
「えええ……俺の100%の善意になんてことを」
「ああそうだな。テメェの善意が害悪でしかねぇこと分かってんのに高校まで生きながらえさせちまって悪かった。今息の根を止めてやるからよぉ」
「ほらもうー!すぐに暴力に訴えるのはシズちゃん!だめだよ、俺殴るような怖い子茶道部の人に入部拒否されちゃうよ!」
「っ……チィ」
「っていうかまず男が茶道ってのがねー…いや悪くはないんだけどさぁ」
「うっせぇ、他にも入部希望の男子いたっつの」
「まじで?もしかして時代は茶道男子なの?ええー、茶道はじめて更にモテちゃったらどうしよう。俺はひとりなのにー」
「テメェの頭の花畑全部燃やし尽くしてぇわ」
「俺それやってるシズちゃんみたーい!」
「……絶対しねぇ死ね」
「ええー?」



『静雄!本当に来てくれたのか!』
「ああ。」
「え、ヘルメット?なんでその人メット被ってんの苦しくないの?」
「『………』」

ゴッ!

「っつ……!なっ、なにいたいよ!?」
「痛くしてんだよ!テメェセルティに失礼な口聞くんじゃねぇ!」
「はぁ?別に失礼なことなんて言ってないし……っていうかなんなの、なんで呼び捨て合って―…」

がらっっ

「やぁセルティ!放課後真っ直ぐ君に会いに来れるなんて俺はなんてしあわせなんだろう!愛してるよセルティ!」
『新羅……!い、いきなり変なことを言うな他の部員もいるんだぞ!』
「ええ?でも仕方ないじゃないか。僕の君への愛は言葉にして表現しないと体の中で溢れて爆発してしまう―…あれ?」
「……あっ」
「……?」
「きみ、えっきみこの学校だったの!?」
「こっちの台詞だよ!えっ覚えてくれてるの?」
「はは、君みたいな印象的な人間忘れるはずがないだろ?まさかこんなところでまた会えるなんて!」
「ほんとに……え、お前茶道部なの?」
「うん!愛しの彼女が部長のこの部活に入らないはずがないだろう?」
『……新羅、知り合い、なのか?』
「!セルティごめんね、君がいるというのに再会にうつつを抜かすだなんて…!紹介するよ、こいつはー……あれ、君って誰?」
「……お前やっぱり馬鹿だな。えっと、部長さん?さっきは失礼なことしてゴメンナサイ。一年D組の折原臨也です。そいつとは中学のとき会ったことがあって、あって……だからなにってわけじゃないけど」
「へえ!折原くんって言うんだね。俺は岸谷新羅、新羅でいいよ。これから同じ部活になるみたいだし!」
「じゃあ俺も臨也でいいよ。」

「『………』」

目の前で繰り広げられる再会劇に、ヘルメット越しにセルティと目を合わせて眉を寄せた。セルティが眉を寄せたかどうかは知らない。優しいやつだから戸惑っているだけかもしれない。

少なくとも俺は、いま理由もなく
苛ついている。

中学、中学っつったら臨也が1500w電子レンジっつー通り名付けられてキレまくってたころの話だろうが。こんなぬっるい野郎と名前も交わさずに仲良くなるだなんて信じられねぇ。再会した瞬間に顔が火照るほどに喜ぶだなんて、そんな相手がこいつに居ただなんて……沸々と、湧き上がってくる。だめだ、だめだ。これじゃあだめだ。ただの理不尽な暴力になってしまう。これをやめるために、これ以外の自分を臨也が認めるように、そのために俺はセルティのいる茶道部に入ろうとしてるんだから。

「………」
「へー、新羅なんか様になってない?かっこいーじゃん」
「臨也は外見がいいからちゃんとしたら俺よりずっとかっこいいよ。絵になる。」
「……ありがと」
「もちろんセルティとは比べ物にすらならないけどね!」
「ん。比べられたくもないから大丈夫」

けらけらと笑って新羅と臨也が丁寧に茶器を扱う。三年のセルティはたいてい自分たちより部活に来るのが遅くて、だからそれまでの間新羅は『臨也で我慢』している。らしい。つい口をついて出た『随分仲いいんだなアイツと』なんていうともすれば嫉妬にも聞こえるような寒気のする台詞に飄々と臨也が返したのはそんな捻くれた答えだった。

「………」

臨也は昔からこういうところがある。俺と違って人当たりがいい分周りに人が集まるというのに、『べつに、俺が好きなわけじゃないから』だとか当然のように人のことを決めつけていた。それを特に否定も肯定もしたことはないけど、へらへらしてるわりに頑固なやつだからどうせ俺の言うことなんて聞かないからこれからも口を出すつもりはない。

そんなことより今の俺は和だ。和を持って尊しとなすのだ。セルティも言ってた。争いは何も生まない。こうして臨也と新羅に苛つきながらキレずに臨也の手元を眺めている。これも茶室という閉鎖空間のおかげだろうか。やはり茶道ってのは素晴らしいもんなんだ。

『遅くなって悪い。』
「セルティ!待ち侘びたよ!!」
「……部長、おつかれさまです」
「…………」

セルティに飛びついた新羅に遅れて立ち上がって臨也が自分のとなりに腰を落とす。きゅん、と胸を締め付けられたのは別にときめいたわけじゃない。新羅をみる臨也の目がなんか気に入らなくて、こっちを向かせてやりたくなっただけだ。

「……テメェでも、茶道はできねぇんだな」
「ん?俺ってそんなになんでもできるように見えるかなぁ」
「中三のとき、いろいろ手ぇ出してただろうが」
「あー…あの時はね、うん。部活のスケットとかやってたら人気者になれるかなとか思ってた時期が俺にもありました。」
「だいたい部室壊して辞めてたよな……やっぱりテメェ茶道部やめろ」
「あはは、今度は大丈夫だよ。だってシズちゃんが止めてくれるだろ?」
「…………」
「俺、シズちゃんと一緒にしか部活来るつもりないからさ。友達もいないし」
「……新羅がいんだろ」
「いてもあいつ、部長がいるときはしゃべってくんないじゃん。つまんない」
「…………」

貼り付けた笑顔を崩さずに自分だけに聞こえる声で言う臨也に、どこかほっとしてる自分がいる。

口に出して愚痴を言える程度か。

なら、いい。本当に本気のこいつは誰にも俺にだってなにも言わないで思い詰める節がある。
俺がそれに気付いたときは力づくでも吐かせるから問題はないが、たまに抱えて勝手に溺れそうになりやがるから厄介な奴だ。電子レンジはちゃんと機能させるために結構なメンテナンスを要するのだ。

「部長、そろそろ部活始めませんか?」
『あ、ああ!ほら新羅離れろ!』
「ちぇー」
「…………」



「折原!」
「……那須島せんせい?」
「んだあいつ」
「古典の教師じゃん。うぇー…なんだろ、俺あいつ嫌いなんだよねぇ。せんせー、なぁにー?」

にこ、と無邪気な笑顔を作って臨也が那須島に駆け寄っていく。

「こら、なんですかだろ?茶道部に入ったんだってな」
「あは、怒られちゃった。はい、お茶できる男ってかっこいいなと思って!」
「そうかそうか。俺が顧問だから、なにかあったらいつでも相談しに来いよ」
「……はぁいー、よろしくお願いしますなすじませんせ」
「…………」

(死んだな)

ぴき、臨也のこめかみに浮かぶ血管がこの教師にはみえないのか。
馴れ馴れしく丸い頭に触れた那須島の手の指が一本ずつ折られていく、はずがなかなか臨也は動かない。
首をひねると、やっとおもむろに臨也が那須島の手首を掴んで、

「じゃあ俺達、次移動教室なんで行ってきます!」
「おおそうか。またな」
「はいまた!」

掴んで、そのまま外しただけだ。

どういうことだ?

ぐっと今度は自分の手首を掴んで早足になる臨也に合わせて歩いてると、なぜか校舎裏についた。
あれ、次理科室……

がァん!!!

「………」
「っざけんなよあのクソセクハラ教師!!気色悪ぃ手で触ってんじゃねぇよ腐んだろうが!!」
「………」

痛くねぇのか、と聞けるほど自分は無神経な人間じゃない。かと言ってカッとなった臨也を冷ませるような気の利いた人間でもない。

とりあえず、臨也があの教師の馴れ馴れしい手を許容したわけじゃないことに安心した。あんなのを許すくらいならキレやすいままでいてくれた方がいい。

「あーあー苛々するむしゃくしゃする。ねぇシズちゃん次バックレない?ゲーセン行きたい」
「……あいつ、潰した方がスッキリすんじゃねぇの」
「だめだよシズちゃん、そんなことしたら入学早々問題になっちゃう。茶道部に入りたいんだろう?俺はシズちゃんの希望を尊重するよ。シズちゃんが茶道部に入ってどうなるかがみたいんだよ。だから、俺は頑張って我慢する。」

ぱらぱらと臨也が殴った壁が砕ける。大して力もねぇくせにどんだけアドレナリン出してんだよテメェは……。
赤く腫れた手を取ると、ほんの少し臨也の表情が和らいだ気がした。

「俺可愛いからさ…あのセクハラ教師に狙われちゃうと思うんだ……ねぇシズちゃん、ちゃんと俺を守ってね」
「そりゃあアレか。キレたとき抑えりゃいいのか」
「そうそう。シズちゃんといっしょに俺もLOHAS目指すんだ」
「……テメェには無理だな」
「シズちゃんよりは可能だよ。池袋の自動喧嘩人形の名前は伊達じゃないからねぇ」
「うっせぇ1500wレンジ」
「いやそれまじでやめて。ださいから、俺に似合わないから!」
「ぴったりじゃねぇか」

すぐに熱くなる。

額に額をあてて笑うと、臨也の顔がカッと真っ赤に染まる。
ほら怒った。
思う通りの反応が面白くてまた笑ってしまう。そしたらこいつはまた声を上げる。

テメェはこのままでいいんだよ。

このままで、成長した俺を見つめ直すべきだ。

「で、どうすんだバックレんのか」
「授業をサボるなんて不良のすることだよシズちゃん。俺はただ腐った牛乳飲んで気分が悪くなったシズちゃんを介抱してて遅れただけの優等生君なんだから巻き込まないでよね」
「……ああ、いい度胸だなァ臨也くんよォ」
「だろ?男は度胸と愛嬌だよ」
「……混ざってねぇ?」
「あは!よく気付いたねぇ、シズちゃんかしこい」
「テメェよりバカな奴なんてそういねぇだろ」
「やだなシズちゃん、それが愛嬌ってやつなの」
「……救いようがねぇな」

臨也が愛嬌というそれにまんまと機嫌をなおしてる自分も。


そのうち、新羅といる臨也にも苛つかなくなってくるのだろうか。
そうなったらそれはとてもロハスな気がする。

想像して、ぴくりと右手が震えた。

(あ、だめだ殴りてぇ)

「あ、シズちゃんが殴りたい顔してる」
「………」
「俺が殴ったとこ上書きしていーよ!」
「殴りてぇのはテメェだよ黙れ」
「あは!こわぁい」
「………うぜぇ」

(分かってんじゃねぇよ、くそ)



ロハスな男への道程は、なかなかにけわしいらしい。



end


2013/06/18



prevnext

back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -