short | ナノ

 ガラスのハート

震えるシズちゃんが好き。

だって可愛いの。

頬に触れる、唇を塞ぐ

きらきらきら

シズちゃんが震える度に心が震えた。

でも、もう、いらない。



「ねぇシズちゃん聞いていい?」
「……なんだよ」
「君って、ヴァローナのこと好きなの?」
「…………」

むっとした顔になる。
怒ってる。
怒られてる理由は分かってる。

「今、聞くことか」
「んー…する前に聞いたら、怒って帰っちゃっただろ?」

あったかい布団の中、俺に手を握られて今日もシズちゃんはきらめいていた。
きらきらきらきら、
直視するには、あまりに眩しすぎる。

「……好き、に決まってんだろ。初めて出来た後輩で、それにアイツはいい奴だ。」

睨みつける、眼孔鋭く
うん、うん、だろうね。

「……テメェなんかより、よっぽど」
「うん、じゃあもう終わりにしようか」
「…………」


「は?」

目を見開いて、次に眉を寄せて
握っていた手を掴んで、痛い、砕けてしまいそうだ。

「ふざけてんのか」
「ねぇシズちゃん、君俺のこと好きなの?」
「は?」

「選んで。ヴァローナか、俺か。」

手に込められた力が弱まる。
戸惑う、躊躇う程度にはきっと愛されていた。

それだけでしあわせだ。

きらきらきらきら

シズちゃんの睫毛から、落ちる、零れる。

「な、んで」
「俺は、シズちゃんのこと好きだったよ。本当に。好きじゃなきゃ、俺はこんなことできないし、したくもない。きっとシズちゃんも、程度に違いはあれど同じようなこと思ってくれたんじゃないかなって思ってる。でも、うん。だめなんだ、俺がだめ。無理。」
「………むり…?」

たたみかけた言葉にキレることなく、最後の単語を繰り返す。
かわいい、すき。

あいしてた。

「俺以外をみるようになったシズちゃんなんてもういらない。君に触れたくない。触れられたくない。君をみたくない。俺を見ないでほしい。だから、もう二度と来ないで。」

弾く。
力のない手はそれだけで簡単に振りほどけた。

立ち上がる、服を着る
シズちゃんと過ごすために借りたようなマンションだ。しばらくしたら解約しよう。

「………いざや」

寝室を出ようとしたところで、名前を呼ばれる。
振り向くと、震える。

でもちがう、それじゃない。
俺が好きだったのはもっと



「ばいばい」





いきなりごめんね
でもどうしても最後にもう一度愛し合いたかったの。

なにも知らない振りをして、
なにも知らない君ともう一度。

ヴァローナ、じゃないことに
気付いたから君は震えたんだろう。

柔らかい女の子。
小さくて、笑顔が優しくて、
俺とはまるで正反対の

彼女に触れられて震えた君は、
いままでみたどの瞬間よりも愛しかった。

すき、スキ、好き、だいすき。

永遠に続けばいいと、柄にもなく思ってたよ。
だからもう、もういいや。

きらきら、きらきら

足元から落ちていく。

ガラスで出来たハートの破片は、
汚れていてもきらめくらしい。



end



2013/08/17

きっと誤解。





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