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 初めての恋は叶わない

*前サイトから引っ張ってきたのです。



シズイザ企画『はつ恋』さまへ捧げます。
題:(あなたを信じることは、あなたに騙されることだった。)
静(→)←臨で、新臨とトムシズっぽいようなぽくないようなです。ただ新臨はともかくトムシズはただの臨也さんの妄想です、すみません。



xxx


好きだ。と彼は言った



夢なのかな

と、思ったんだ





「シズ、ちゃん」

「ん…」

何度も怒られたを渾名で呼んでも、彼は照れたように(少なくともこのとき俺にはそうみえた)俯くだけだった

身体からじわじわと暖かく生温く血が温度をあげる

ありえないと思いながらもしかしたらという期待に抗えずにそっと彼に近づく

「俺も、好きだよ」


抱き締めたときに硬直した身体に、気づいたことなんていくら彼でも気づいただろう


やっぱりねと自嘲して更に強く抱きしめる



本当に夢じゃないのかな、夢ならよかったのに



(所詮、この程度なんだね)







「よかったじゃないか」

「よくないよ、最悪だ」


珈琲を手渡して新羅がくすくすと嫌な笑い方をする

「どうしてだい?大好きな静雄がやっと君のものになったんだよ」

「わかっててそういうこと言うんだよね君は」

「もちろん。」


じぃと睨みつけると一層笑みを深められた。さすが俺と付き合ってるだけある、嫌な奴だ。


「馬鹿だね、相変わらず」

「…ああ、そうだね」

「好奇心から聞くけど静雄はどうなの?」

「遭っても眉をしかめるくらいになったよ」

「へぇ」

「あと話しかけたら聞いてくれるかな…この前10分くらいで煙草一箱空いて笑った」

「はは…頑張るねぇ」

「ほんと、よくやるよ」


もう少し演技でもなんでもできないものか

まあいかんせん相手が俺だからなぁ




「あ、静雄だね」

「うん。シズちゃんだね」

「出ないの?」

「………出たくないなぁ…」

ため息と共に呟きながら携帯を手にとる


「もしもし」

『臨也か、仕事早く終わったから―…』


前の電話の出だしと一言一句変わらないんじゃないかと思えるようなテンプレ台詞。

かわいい見方をすれば緊張してるようにでも見えるだろうけどそんなことをするには俺は物を知りすぎている。


「…毎度君の図々しさにはかける言葉も見つからないよ」

「いいだろ別に。シズちゃんを待つ時間って恐ろしく長くて心細いんだ」

「かわいいこと言うね君」

「……だから放り出さないでよ」

「はいはい」


毎度と言われる程新羅の前でシズちゃんからの電話を出てているのはもちろん偶然なんかではなく、シズちゃんの仕事が早く切り上げられそうだという情報が入り次第新羅の家に転がり込んでいる

正直いくら俺でも迷惑かけてる自覚くらいないわけがない

だけどシズちゃんからの電話のタイミングがわからなかった頃みたいに、突然かかってきた電話にひとりであたふたしてるのは嫌だった


最初は、それなりに喜んでたんだ

仕事が早く終わったからと度々連絡をくれて、仲良くしようと思ってくれてるってだけで嬉しかった。

でも

会ったら顰めっ面話せば煙草

口を開けば


『     』





いくら俺だって、ネタを知ってたって

傷つきくらい、するんだ





「でもやめないんだね」

「言っただろ、近づけるくらいにはなったんだよ」

「まあ大きな進歩だね。次は目を合わせて会話してみるとか?」

「…目、ねぇ…」

「ん?」


「「……………」」



「俺と合わせられてもねぇ…」

「シズちゃん最近合わせてくれないねぇ」

「「……………」」

「新羅肩かして」

「本来セルティのものなんだからね」

「セルティごめんね」

「はい」

「ん。」


今日はいつもより少し遠い所らしいからまだ大丈夫

今のうちに戻らないと。

大嫌いなシズちゃん、俺を見つけて苛立つシズちゃん、殺気立って規格外の行動をするシズちゃん

ひたすら俺を抹消しようとする馬鹿で単細胞なシズちゃんを思い浮かべていくと少しずつ俺の大好きなシズちゃんが浮かんでくる

本当に俺のこと大っきらいだよなぁと思うと少し笑えてきた


ぴん、ぽーん


「「…………」」

「早くない?」

「早いね」

「…もう大丈夫かい?」

「……あと五秒」

「うん、がんばって」


新羅の肩にもたれかかって





よん


さん


めり

ドカッッ!!


「「!?」」

「チッ、居てんじゃねぇか」

「あ」

「ちょっと!何するんだい静雄!っ…ドアがぁあ…!!」

「なにしてんのシズちゃん」

「テメェがちゃっちゃと出てこねぇからだろうが」

「3秒しか経ってないじゃないか!修理とか色々高いんだからね、わかってるのかい!?」

「まぁまぁ新羅、修理代は払うからさ」

「それまでこの家のセキュリティーはどうしてくれる気だよ!ああ、セルティごめんよ俺が」

「ノミ虫、行くぞ」

「シズちゃんは横暴だな…すぐ来てくれるように頼んどくから勘弁してよ」


がっと掴まれた手首が痛い。機嫌悪いのは分かるけど、そんなに嫌なら誘わなきゃいいのに馬鹿じゃない

道すがら馴染みの職人に新羅の家のドアの修理を依頼して、引かれるままに早足で歩く道がシズちゃんの家に向かっていると気づいた

「シズちゃんの家向かってる?」

「ああ」

「ふうん…」



ちょっと、うれしいかも

以前『そのへんで茶ぁ飲んだりしゃべったりしてたらいいんじゃねぇか』と言われて以来ずっとそればっかり。

君はよく躾られたわんこかと何回言おうと思ったか。

でも家に連れてってくれるなんて、もしかしてちょっとは絆されてくれたのかな、なんて


「何笑ってんだテメェ」

「え、シズちゃんち行けるの嬉しいなと思って」

「…………別に…」

悪意なく笑って言うとシズちゃんが少し視線をずらして頬をかく

可愛いな、なんて思ってしまって


「付き合ってるなら、部屋に呼ぶくらいしてやれって」

思い上がるな、って





「……『トムさんが』」


自分の声が聞こえた





「………………帰る」

「っは?」

「ごめんシズちゃん、仕事、残ってたんだった」

「待てよ、さっきまでテメェ新羅の家で」

「ごめんって、忘れてたんだ」

「ざけんな、テメェが忘れるかよ」

「わすれて、たん、だって…」

「ッ…んなこと言って、テメェそんなに―…」

「田中トムだったら、帰してくれるよ」

「なっ……」


もう、さいあく、さいあく

シズちゃんなんかさいあく



「じゃあね、ばいばい」



なく、な 泣くな

いまさら





『いっそ恋人にでもなっちまえば痴話喧嘩ですませられて楽なのになぁ』

笑い話の一週間後シズちゃんに好きだと言われた


『付き合った奴傷つけんじゃねぇぞ』

ぎこちなく肩を抱きながら報告してから一度もシズちゃんに殴られていない無論、物を投げられることもなくなった


『今日は早く上がれそうだし会いに行ってやったらどうだ?』

それから律儀に毎回毎回毎回毎回毎回




『トムさんが』

シズちゃんの頭には最初っからそれしかなくて、

何年間も培ってきた俺への憎しみや嫌悪感より田中トムへの信頼や好意の方が大きくて、




嫌いって言われるより、好きって言われる方が傷つくなんて笑える







「もしもし」


「あはは、何言ってんの?仕事だって言ったじゃん」

「……うん、ごめんね」



「ありがとう、俺も」







(あなたを信じることは、あなたに騙されることだった。)


それでも、俺は




「好き、だよ」





(10分と少し)

(電話したとすれば、ちょうどいい時間)



end



シズイザ企画サイト、『はつ恋』さまに捧げます。




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