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 天使にはちみつ

天使になった臨也さん。総愛で、門臨、新臨、波臨要素が強いかもしれないです。

logの再掲です。



なんか知らないけど羽根が生えた。
と思ったら声がでなくなった。

『    』

ついでに字もかけない。
相手が言うことは理解できるのに自分から何かを伝えられない。
ネットもだ。どれだけ面白い話を目にしても自分はレスポンスができない。
これじゃ情報屋なんてできない。
発狂しそうな事実だったけど、不思議とすんなり受け入れられてしまった。しかたない、だって俺は人じゃなくなってしまったわけで、愛する人間にまた嫌われる根本的な要素ができてしまったわけで。
どうせ愛されないのなら、もういいかな、なんてね。

羽根はたためるけど、まとわりついてくる。普通の服はちくちくして着れないからシルクのシーツをまとっていると、波江さんが背中の広く空いたシルクのワンピースを作ってくれたからそれを着て、シルクのシーツのベッドで生活する。
欲しいものが少なくなった。
ちくちくする足を我慢してキッチンの棚に手を伸ばす。瓶に入ったはちみつと、銀細工のスプーン。
目当てのものを抱き締めて、ぱたぱた走って階段を駆け上がる。羽根も一緒にぱたぱたして、3段に一回くらい、身体がふわりと浮いた。

『   』

瓶の蓋が固い。すごく固い。なんであいてくれないの、いらっとして床に叩き付けた。

『これ、欲しいんすか?』

金色の髪をした少年が床に転がる瓶を拾う。うなずくと少し嫌な顔をしてからきゅっと軽く開けて差し出してくれた。

『  』

口を開けて、じっと見つめる。まだ?はやくほしい、焦らすなんてひどい、羽根をばたつかせて抗議すると少年が慌てて銀のスプーンで金色の蜂蜜をすくった。
とろりと口内に甘い蜜がとろけて幸せになる。満足した、ぱたん!優しく包むシルクにも幸せを感じて今日はもう眠ってしまおうと思った。
起きたらまたあの少年が居るのだろうか、できるなら、波江さんが居てくれればいい。
蜂蜜みたいな金色の髪は嫌いだ。





太陽がきらきらしてる、目覚めはわるい。

『   』

眩しいからぷいと目をそむける。蜂蜜みたいな金色が太陽に煌めいて、見てられない。

『蜂蜜なら、食うん、だよな』

恐る恐るといったように小さな瓶を手にする青年にうなずく。昨日とは違うように見える。少しばかりの不信感を抱いて、じっと見つめると逸らされた。
目を逸らすのは疚しいことがあるからだ。ばさっ!と羽根を広げて威嚇して逃げる。波江さん、いないのかい?
ちくちくする足を我慢して階段を駆け降りると、いた。紅茶を淹れる彼女に抱きつくと、ひとなでしてから角砂糖を口に押し入れられた。波江さんの紅茶用なのにいいのかなぁ?甘いから俺は幸せだけど、幸せだから、いいか。
波江さんに甘く甘えていると金色の青年が階段を駆け降りてきた。

『悪かった』

って必死な顔で。じっと見つめて、近寄ってみる。いまは波江さんが居るから、怖くても大丈夫。そっと頬に触れてみても青年は目を逸らさなかった。いいよ、怒ってないよ、でも言葉にならないから笑ってみた。
伝わるといい、そんなことより蜂蜜ちょうだい。





枕を抱きしめたり持ち上げたり投げてとったりして遊ぶ。ふかふか枕好きだ。たまに抜けた羽根を突っ込むともっとふかふかになる。すてきなことだ。

『    』

楽しく遊んでいると、今日は大人の人が来た。白いスーツが、なんだか嫌いだ。
枕を抱き締めてベッドの端に逃げる。じぃ、見つめると見つめ返されてこっちから逸らす。きらいだ、いや。

『好きだと、聞きました。』

逃げてるのにベッドの奥まで歩いてきて、大人の人が跪く。ちらりと覗いてみると小さな瓶にとろりと輝く金色の、…はちみつは、好き。少しだけ近づいて、少しだけ唇をあけると大人の人がごくりと唾を飲み込んだ。だめ、それは俺のなんでしょう。目を閉じてねだるとひやりと冷たいスプーンの感覚のあとにとろける甘味。いつもと違う花の香りで、幸せな気持ちになった。この人はきらいだけど、この蜂蜜をくれるならまた来ればいいと思う。





波江さんが今日は居ないの。代わりに波江さんがいつもつけてるペンダントがそばにいてくれてるの。
冷たい金属のそれは、波江さんみたいでどこか優しい。
波江さんが居ない日は、蜂蜜は我慢で可愛い花の砂糖菓子を口にする。
最初の少年がまた来た。ふわふわしたそれはなに?

『   』

ぱくぱく口を動かすと少年が桃色のそれをふわりとちぎる。雲のような、重なった糸のような、砂糖菓子によく似たあまい匂いに誘われてぱくんと噛みつく。少年の指ごと。
舌の上で溶けるそれは、熱をもった少年の指先で甘味を増す気がした。
おいしい、もっと。まだ甘さの残る指をひとなめして解放して、ん。と口を開けたのに少年はひどく慌てて逃げてしまった。
波江さん、やっぱり君じゃなきゃだめだよ。





ぽたぽた落ちてくるのがなにかわからなかった。目から滲んで、頬を伝うそれを手で掬って舐めてみると甘くなかった。
おいしくないのはきらいだ。今日は嫌な日だ。波江さんに甘やかしてもらうんだ。はやくきて、波江さん。
じっと波江さんが来るドアを見つめる。たん たん ぎし あれ、音が変だ。波江さん、太ったのかな。

『    』

ぎぃ、と開いたドアから出てきたのは、波江さんじゃなくて男の人だった。
不思議、大きいけど怖いくない。笑うときっと可愛い。
少しだけ興味を惹かれてベッドの端までだけ近付いてみると、男の人が帽子を脱いで優しく笑った。やっぱり、可愛い。
釣られて笑う。君は蜂蜜がなくてもきていいよ。
両手を差し出すとふわりと抱き抱えて抱き締めてくれた。すき、きみはすきだ。だってきみは、

『相変わらず軽いな』

『    』

首に腕を回すと少しちくちくしたけど、離れたくないよ、きみと。





空が暗くなるのが、きらいになった。
帽子の人が行ってしまった。瓶に詰めた星なんて、いらないからずっといればよかったのに。
彩り鮮やかな星を瓶の中でからんと回すとぎぃと呼んでないのに金色の青年が来た。なんのようだ、いまは蜂蜜より大事なことがあるんだ。
じぃ、と睨み付けると青年が困ったように俯いた。
知らない、興味なんてない、でも蜂蜜をくれるなら、情けない顔を隠す場所くらい提供してあげてもいい。





うるさい、うるさい、うるさい!
こんな目覚めは初めてだ。お前はだれだ、なんだ、でていけ、きらいだ!

『羽根が生えた上に蜂蜜と砂糖菓子で生きてるなんて本当に興味深いよ。血管には蜂蜜が流れてるんだろうね』

いい気持ちで寝てるのに、勝手に俺のベッドに座ってうるさいやつだ。甘い匂いもしない、使えないやつだ、きらいきらいきらい!
波江さん追い出して、こいついらない、きらい!
布団を被って羽根をばたつかせてると
『窮屈じゃない?』笑いながら布団を剥がれた。ひどい、こいつ俺にいじわるをする、許さない
きっとめいっぱい睨み付ける。
あ、れ?

『   』

『うわぁ、見事だね。動かしてみてよ。へぇ、やっぱり彼女器用だね。よく似合ってるよ』

へらへら笑って白衣の眼鏡が無遠慮に羽根を撫でる。ばか、なにやってんだよ、ばか。遅いんだよ、ばか。
またあの美味しくないのが溢れてくる。熱い手がそれを掬うのに、耐えきれなくなって抱きついた。
ぽんぽん、とゆっくり叩かれて止まらない。美味しくないのは嫌いなのに。
ぽたぽた、ぽろぽろ、遅いんだよ、ばか、最初にこいよ、お前は、俺のこと、もういいよ、ばか。
やっぱり声は出ないから美味しくないなにかを溢し続けながら、白衣の眼鏡に一生懸命笑った。





天使はひどい偏食家で、
甘い甘いはちみつと砂糖しか口にしないんだよ。

馬鹿だよね、もっと甘くて愛しいものがあるっていうのに。

絵本を閉じて笑った貴方に、見えないものをどうやって食べるのと一蹴したけれど

『    』

頬に手を添えれば蕩けるように顔を綻ばせる。やっぱり嫌な奴ね貴方って。

こんなに美味しそうにされたら、あげないなんて言えないじゃない。





天使に蜂蜜を
あるいは一欠片の愛を


end

蜂蜜もお砂糖も甘い甘い愛の代替品でしかないのです。



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