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 天使にはちみつ




「お久しぶりです、折原さん」

「    」

ちらりとシルクのシーツから片目を覗かせた天使が見定めるように自分を見つめる。

するり、シルクの滑る音で顔が見えなくなる。お眼鏡にかなわなかったらしい。忙しさにかまけて通えていなかったから、こうなるかもしれないとは予測していたのだけれども。

「忘れてしまいましたか?」

「すみません、毎日来るべきでした。」

もごもごシーツの中でうごく天使は、恐ろしく寂しがり屋で愛されたがりだ。少し飽いたら自分なんてすぐにその澄んだ瞳から追い出されてしまう。

そんなこと知っていた。ずっとずっと、天使になってしまうずっと前から。

「お詫びになるか、分かりませんが」

「蜂蜜、まだお好きでしょうか」

「   」

ガラスの小瓶の蓋をあけると、ベッドの上にシーツが滑り落ちる。露わになった綺麗な顔立ちは、見ない間にまた柔らかさを増したように感じる。

眺めていると、それだけで悪い思考が全て浄化されてしまいそうだ。

悪意なんて、きっと今のこの人にはひとかけらもないんだろう。
彼特有の無邪気な悪意も、愛しく思っていたのに。

「あなたのために、用意しました。」

「     」

「気に入っていただけると、嬉しいのですが」

素直に正直に、飾ることをやめた言葉でなくては天使に届かない。

こんな貢ぎ物に頼ってでも、あなたに振り向いてほしいんです。

ベッドの上に手をついて、嬉しそうに目を細める

姿があまりにしあわせに見えて


(人間だった彼に、この顔をさせられなかった自分の自業自得だと)


「     」




思いつめて、しまいそうだ。



end


2012/12/26



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