妄想メランコリー
新羅さんを裏切っちゃった臨也さん。病んじゃってる正臣くん。
「臨也さん、ありがとうございます、わたし、わたし」
「うん、大丈夫だよ、大丈夫。俺に任せて」
泣き崩れる女の子を優しく抱き締めて甘い言葉を囁いて、世界中のほとんどの人が可哀想だと憐れむ場所に彼女を誘う俺のことを、
またみんな反吐が出ると吐き捨てるんだろう。
消えろって
顔をみせるなって
つらいよね、しってるよ。
たくさんいわれたから。みんなにいわれてるから。
言わないのは、たったひとりだけだったから。
『彼女を傷付けたら許さない、って。分かってたよね』
うん、知ってたよ。だからやったんだ。ただの確認さ。
会えば久しぶりだねなんて笑うから、大事な友達だよなんて適当なことを言ってみせるから、
ああもしかして期待してもいいのって少しだけ思っちゃったんだ。
「………ただいま。あれ、なんでいるの?」
「波江さんに女の子誑かしてるって聞いたんで」
「弱ってる女の子唆すなんて最低だよ紀田くん」
「弱ってる大人なら別にいいでしょ」
「……まぁ君よりは年上だったけど」
自分が愛用している将棋の盤で……崩し将棋?をしていたらしい可愛い少年に相応しくなるように、やんわりと笑顔を貼り付ける。
いまさらこんなことしたところで騙されてなんかくれないと分かっているのだけれど。
「女の子がじゃないですよ。分かってるくせに」
「…………」
「アンタが女の子のとこに行くのは弱ってるときでしょう」
「…もういい加減面倒だよ、それ」
きっかけはもう覚えてない。
たった一度、うっかり溢した涙を見られてからこの少年は瞳が潤む前に自分の前に現れる。
大した嫌がらせだと最初は笑っていたけれど、最近嘘でも笑えなくなった。紀田くんの意図がわからない。
自分を苦しめた人間の不幸を笑えるような強い人間では無いはずだ。
「ねえ臨也さん、寂しいんでしょう。俺ならアンタだけですよ。これからずっと、アンタ以外を好きになったりしませんよ。だからはやく二人きりになりましょうよ」
「もう聞き飽きたよ、それ」
「いい加減受け入れてくれればいいのに」
「君個人のために他の人間を投げ出せるほど君に魅力を見出せないから無理だって言ってる」
「いいじゃないですか、みんなには臨也さんなんて邪魔でしかないんだから。」
可愛いを詰め込んだような笑顔は無邪気な天使のようだ。常の自分ならああ面白いと愛しさを募らせているだろう。そこまで自分を理解した上で、今はこの少年がひどく煩わしい。
放っておいてくれないか。
自分に対して何人の人間が吐き出したかも分からない台詞が頭を過ぎる。
「俺には必要なんです。」
「俺に必要なのは君じゃないよ。」
「別にいいですよ。俺のことを必要としてくれる臨也さんが好きな訳じゃないですし。」
言い切った紀田くんの、やわらかい笑みがずるい。
人間っていうのは本当にバカだよね。
何も学ばない、同じことの繰り返し。
「なら勝手に言ってれば」
「はい。逃避行の用意ならもう万全です。」
「……きみとなんて、どこへも逃げられないよ」
わかってるのに、
手をとってしまう自分がひどく滑稽で
(裏切られるための嘘だと知って、)
(騙されることも出来ないなんて)
end
GUMIちゃんのでした。
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