ハローハロー、聴こえますか?
シオンさんに捧げた
バイバイダーリン、ハローハニーの続きで金髪サンドです。
顔を真っ赤にして焦る臨也さんは可愛い。それはもう目の前の元カレさんが地球を割れそうなくらいには。
「ま、正臣くん、手」
「臨也さんが元カレに拐われないようにです。……嫌…?」
「はずかしい、ってば…!」
「…………」
依然真っ赤になって可愛い反応をしてくれる臨也さんに元カレこと平和島静雄が生唾を飲み込む。
臨也さんは嫌われものの自覚が半端じゃないので、異常なまでに被害妄想が激しい。あのあと臨也さんに聞いた平和島静雄に振られるまでのあらましからも多分そうだろうなとは思っていたけど、やっぱり別れたつもりは毛頭ないらしい。
臨也さんと平和島静雄は結構な相思相愛の微笑ましい恋人同士だった。まあずっと臨也さんが好きだった俺はその件に関してひきつり笑いくらいしか出来なかったけど。
よく喧嘩もするけど、気付いたらすぐに仲直りする。喧嘩したことを知るのはだいたい臨也さんの「こんなことがあってね」って惚気だった。
だいたいはしょうもない痴話喧嘩なので平和島静雄も大変ですねと返していたけど、今回は違った。
潰れたドア、なぜか俺のあげたテディベアにナイフを振りかざして泣いてる臨也さん。
本気じゃないことなんかすぐにわかった。臨也さんがどれだけ平和島静雄を好きか、嫌と言うほど近くで知っていたんだから。
でも、言った。臨也さんが、臨也さんの口で、はっきりと俺に言ったんだ。
「…とりあえず、臨也から手ぇ離せ」
「なんでアンタに命令されなきゃなんないんすか?恋人の手ぇ握って文句言われる筋合いないと思うんですけど。」
「っ臨也は俺のだっつってんだろうが!!!」
「えっ?」
「……………」
臨也さんが目を丸くする。それに思いっきり眉を寄せる平和島静雄。同情なんてしない。するはずがない。この人のこれは今に始まったことじゃない。もしも今まで知らなかったっていうなら、それはアンタが悪い。嫌われ妄想と捨てられ妄想にかけて、臨也さんの右に出る人なんて居ないんじゃないかと感じるくらいに根拠のない不安だけで人との関係を切り離してしまう人だ。
「な……なにに驚いてやがんだテメェは」
「なんで俺、シズちゃんのなの…?」
「はぁ!?」
「っ……!?」
びく!と跳ねた臨也さんが咄嗟に自分の後ろに隠れる。
「なんで隠れんだよ!!」
「だっ…意味わかんない、なに怒ってるの…こわい…」
「い、臨也さんが怖いっつってんだろ。もういい加減にしてくださいよ、アンタがどう思ってようが俺達は」
「…………黙れ」
「ッ………」
「ちょっと、正臣君脅さないでよ。馬鹿じゃない、何に怒ってるか知らないけど正臣君は関係なー…ひゃっ!?」
たった一言、地鳴りのような一言に、たじろいだ自分を庇って臨也さんが前に出る。あっ、と思ったのに、手を伸ばしたはずだったのに。届かなかった手は空気を掴んで、泣けるほど簡単に臨也さんは平和島静雄の腕に収まってしまった。
「…し…ずちゃん……?」
「悪かった。」
「え?」
「ひでぇこと言って悪かった。…傷付く拗ね方すんなよ、別れたとか、言うんじゃねぇ」
「っ…し、シズちゃんが…っ…」
「キスも、したくないって?」
狼狽える臨也さんに、平和島静雄が見たこともないような甘い顔で耳がとろけるような低い声を出す。
慣れた手付きで、なんの躊躇いもなく。反射的にかそっと目を瞑った臨也さんに小さく微笑んで、自分の存在なんて忘れてしまったのかと思っていたら、高い背で自分を見下して挑発的に笑う。
「………や、やだっ」
「「!!」」
唇が触れる直前、絞り出したのは駄々をこねる子どものような言葉で。びっくりしたように目を開けて自分を見た臨也さんに平和島静雄が舌打ちする。
「ま、さおみくん…?」
「臨也さん、もう俺の恋人でしょ。臨也さんが言ったんでしょ、他の奴に抱き締められたりしちゃ、いやだ…っ」
なんて情けないことしか言えないんだ自分は。でもここでもう痴話喧嘩に巻き込まないで下さいよなんていつもみたいなことを言って、せっかく手に入った場所を平和島静雄に返すなんて絶対にいやだ、嫌だ。
「ふざけんな、別れてねぇんだからずっと臨也は俺の恋人だ」
「臨也さんは別れたと思ってる!」
「勘違いだな、今誤解は解けた。俺の臨也の我が儘に付き合ってくれてありがとうな」
「っ、……」
臨也さんは平和島静雄の腕の中で固まって自分と平和島静雄を見比べて困ったように眉を下げている。ちがう、アンタを困らせたいわけじゃない、だって分かってた。平和島静雄がアンタと別れるわけがないって分かってた。
それをアンタに伝えなかったのは俺の故意で、だから俺はこうなったときアンタが俺を選んでくれるように、迷わずに自分の恋人は紀田正臣だと言ってくれるように手を尽くせなかった俺が悪いんだ。
そんな、アンタが罪悪感を感じる必要はどこにもない。
「………し…ずちゃん…」
「ん?」
「は、離して、よ」
「……やだ、触んのいつ振りだと思ってんだよ…。なぁ、トムさんに電話するからテメェの家行こうぜ、臨也」
「…………」
くしゃ、と臨也さんの額にキスを落としながら平和島静雄が甘えるように臨也さんの名前を呼ぶ。
「だ、だめ、きちゃだめ」
「…………なんで?行きたい」
「だめだよ、だって、正臣君…やだって」
「……ガキにはもう十分だろ」
「な、なんなのシズちゃん…今まで外でこ、こんなくっついたり、そんな、言ったり、しなかったのに、いきなり…」
「「…………」」
さっきまでと立場が逆転してしまったように、真っ赤な臨也さんを見て満足そうな平和島静雄と、地球なんて割れない情けない自分。
「…したかったけど、お前嫌いかと思ってたから我慢してた」
「嘘、シズちゃん我慢なんてしないだろ」
「してる。今も、無理やりキスしない…臨也に怒られたくねぇから」
嘘だ。俺が臨也さんにしてるの見て、可愛いって知っただけのくせに。拒否されたのが怖くて出来ないだけのくせに。
「適当なこと…言ってる……」
「言ってねぇ、それにこのガキのことも殴ってねぇだろ?殴って、臨也が同情したら困る。…意外と優しいもんな、お前」
「…………」
きら、と臨也さんの瞳が輝いた。嬉しかったんだ、今の言葉。自分のために平和島静雄が我慢してることも、優しいって言われたことも。
俺は、臨也さんのことこんなに分かるよ。地球どころか電柱も折れないけど、臨也さんを喜ばせるために頑張る、頑張るから。
「臨也さん、」
「…………」
さっき平和島静雄に怖いと言ったのとよく似た目で臨也さんが自分を見つめる。平和島静雄のとこに戻りたいのに、自分の存在が邪魔をしているんだ。でも俺は、あんたがいないともうだめなんです。ねぇだから
おねがい捨てないで、
「振っても、いいですよ」
あ、れ
言いたかったはずの言葉が、どこかでぜんぜん違う言葉に変化した。
「正臣君…」
「俺からは、絶対、別れたくないから」
泣くのを必死で我慢して、臨也さんに伝える。
数日でも、なんて思えない。こんなことなら、近付かなければよかった。
「………正臣君、泣かないで」
「泣きたくも、なるでしょうが」
「…………やだ、正臣君が泣くの、やだ…」
「だっ…て…っ」
「正臣君、おいで。ぎゅってしてもいいから、泣かないで」
「っ、何言ってんだテメェ…!」
「だって、正臣君、俺の恋人だもん。」
「っー…!」
「ね、俺が言ったんだよ。付き合ってって。」
動揺した平和島静雄の腕をほどいて、臨也さんが自分に向かって腕を広げる。
「シズちゃんと、こういうこと、家でもあんまりしなかったんだよ」
正臣くんだけなの
「別れてなかったなら、シズちゃんの言った通りになっちゃった。最低だね、俺って」
「っ、臨也、」
「やっぱり別れようよシズちゃん。俺、ほんとに浮気しちゃったから」
自分のことを抱き締めて、臨也さんが平和島静雄に向かって小さく笑う。
「ごめんねシズちゃん、俺、正臣君のこと好き…」
「「っっ……!!」」
「でもごめんなさい正臣君、やっぱり俺、シズちゃんのこと好きみたい。」
「えっ」
「いま、シズちゃんが優しくしてくれて、全身が沸騰しそうなくらい嬉しいんだよね。もっと撫でてって思っちゃう」
「っ、んなもん、いくらでも撫でてやる、」
「それと同じくらい、俺がぎゅってして正臣君に喜んでほしいなって、俺がしたことで正臣君が笑ってくれたらしあわせだなって思うんだ」
俺と平和島静雄を交互に見て、臨也さんが笑顔を作ってみせる。眉を下げて、無理やりに笑顔を作ったような、こんな顔させるために伝えたんじゃないはずなのに。これじゃまるで、軽蔑してた平和島静雄と―…
「こんな浮気性な恋人、だめだよね。本命がどっちなのか、自分でもよく分からないんだ。」
「なら俺と付き合いましょうっ!」
「えっ」
それはまさに脊椎反射。
脳より早く、まばたきより早く、涙を隠そうと目元に伸びた手を奪って、この瞬間、臨也さんは俺の腕の中にいる。
どちらのものでもないとアンタが言うのなら、
引け目を感じる必要はどこにもないでしょう?
「っ、ふざけんな!わかった臨也、わかったから別れんのやめようぜ。」
「へっ」
「「俺が!!」」
「いっしょにいていちばんになれるように、いっぱい頑張りますから!」
「こんなガキ、どうでもいいと思わせてやるから!」
重なった声を無視して愛しいひとにしがみつく。
51対49でも、ぜろこんまいちの差しかなくても、もう一度選んでもらえたら二度とよそ見はさせない俺になってみせるから
ハローハロー、聴こえますか?こんなに必死なわたしのこえ、聴こえないはずがないですね!安心して俺を選んでくれるのを、
いつまでだって待ってます。
end
2012/8/29
金髪サンドが大好きです。
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