※小話まとめその15
memoからの再録2本。後半の方が若干いかがわしいので、苦手な方はご注意下さい。


噛み付いてみようかな、と何とは無しに考える時がある。

「…………」

ぼんやりと目を開けた先にすよすよと眠る片割れの姿を見つけて、ハオはもう一度だけ、ゆっくりと瞬きをした。
葉は瞼を閉じてハオの向かいに丸まったまま、気持ち良さそうに寝息を立てている。じん、と鈍く痺れた左手は、どうやら葉の頭が原因らしい。当然の様に自分の腕へと乗った片割れのそれに、ハオの唇からは吐息の様な甘い苦笑が漏れる。
右手で抱き寄せながら、痺れた左手を葉の頭の下から引き抜く。そうすれば、無意識に擦り寄ってくる片割れが愛しい。もぞもぞと動いていた弟も、どうやら無意識の内に居心地の良い場所を決めた様だ。意識のある状態で触れ合うときと同じ場所に収まったころりとした頭に、ハオの唇からは再び甘い吐息が漏れる。ぴたりと密着した身体は、温かかった。日も長くなり、日差しが強さを増した最近でも、夜は多少冷える。触れ合った皮膚から混じる体温。その温度に、とろりと瞼が落ちてくる。葉の吐息が肌を撫でて擽ったい。

「…………」

ぼんやりとした眼差しのまま、ハオは葉の髪に指先を潜らせた。ぴょこぴょこと跳ねる髪を梳き、弄べば、葉が憤るように少しだけ頭を振る。自分の肩口へと甘える様に額を擦り寄せてくる葉に、ハオはもう一度、愛おしむ様に微笑んだ。こんなに信頼されて無防備な仕種で甘えられると、堪らないものがあった。

噛み付いてみようかな、と何とは無しに考える時がある。

そう、今が正にその時だ。
信頼しきって甘えてくる葉は、ハオにとって堪らなく愛おしい。髪の一本一本から爪の先まで隈なく愛で尽くして、どろどろに甘やかしたくなる。
けれど、少しだけ。
ほんの少しだけ、その全幅の信頼を裏切りたくなる時があるのだ。

「気持ち良さそうに寝ちゃって」

とろりとした口調で呟きながら、ハオは緩く片割れの頬を撫でる。
そうすれば、葉は甘く頬を撫でる手に擦り寄ってきた。その事実が、愛しい。ハオの指先が自分を傷つけるなどと疑いもしない彼が、葉が、堪らなく愛おしかった。

例えば、その頬に自分が噛み付いたら、彼はどんな顔をするだろうか。

そんな思考を遊ばせながら、ハオは結局、柔らかい頬に小さな口づけを落とす。そうすると、穏やかな寝息を立てていた葉の頬が淡く緩んだ。マヌケとも言える緩んだ笑顔に、今度は僅かに声を上げて笑う。

「ほんとう、たべちゃいたいなぁ」

そう笑い声混じりに言葉にして、ハオはもう一度葉を抱き寄せた。
甘くその頬に噛み付くのは、葉が起きてからにしよう。
悪戯を企む子供の様なことを思いながら、ハオはゆるりと目を閉じる。

きっと、葉はそんな自分も受け止めてくれるに違いないのだ。



砂糖とミルクは入れないで



「…ん、っ」

さらりと剥き出しの肌を滑る滑らかな感触に、葉は小さく声を上げた。
鎖骨の窪みに淡く歯を立てていたハオの欲に濡れた眼差しが、僅かに動く。寝巻がわりの浴衣の袂を乱した不埒な指先が、するりと胸骨の上を甘く撫でた。探る様な感触に葉がびくりと肩を跳ねさせると、赤茶の瞳が甘く微笑む。

「ようは………してるときに気持ちいいと、いつもそうする」

悪戯っぽく吊り上がったハオの唇が、濡れた吐息混じりに葉の耳元で囁いた。とろりとした声音に鼓膜が甘く痺れるのと同時に、耳朶へと柔らかく歯を立てられる。剥き出しになった葉の喉がひくりと跳ね、ハオの後頭部を抱えた手の平の力が強くなった。

「かみ」
「ん、っ?」
「かみ、あたるときもちいい?」

吐息が絡む様な距離で、濡れた声音が甘く囁く。
わかっているだろうにあえて尋ねてくるハオを、葉は潤んだ眼差しで睨みつけた。ぺちりと軽く片割れの頬を叩き、倒された布団の上で体ごとそっぽを向く。拗ねた葉を宥める様に、ハオの唇が甘くその背を追いかけてきた。

「おこった?」
「ぁ、ん…」

囁くのと同時に、かり、と淡く首筋を噛まれ、吸い付かれる。
ちくりとした甘い痛みに、跡をつけられたのだと葉が理解するまで時間はかからなかった。

………怒ってなんかいないと、わかっている癖に。

そう甘える様な気持ちで、葉は僅かに吐息を漏らす。
不躾なハオの唇は首筋を伝い、浴衣の袂を下げて肩甲骨へと滑っていた。

「は、…ぁ」

肩口を撫でる絹糸の様に滑らかな感触に、ぞくりと葉の背骨が震える。片割れの唇から漏れる甘い吐息に、ハオがたまり兼ねた様に葉の背中へと柔らかく歯を立てた。しかし、葉の身体が次の刺激を期待した瞬間。ハオは、ぴたりと動きを止めた。それを訝しむ間もなく、ころりと身体を反転させられる。

「………なんだよ」
「………いや」

眉根を寄せながら問えば、ハオが何処か戸惑う様に呟いた。

「………やっぱり、髪、撫でて」

ようにそうされるの、すき。
そう甘えた声でねだるハオに、一瞬目を見開いたあと。
葉はちいさく「ばか」と囁いて、甘く自分の肌を撫でるハオの髪に指先を絡ませた。

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2014.12.17

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