※小話まとめその14
memoログのハロウィン話1本、ポッキー&プリッツの日話1本、初出のクリスマス小話1本の計3本。
全て学パロです。


「とりっくおあとりーとー」

間延びした声音で告げた片割れに、ハオは僅かの沈黙を挟んでから、困ったように眉尻を下げた。
生憎、今は菓子類の持ち合わせがない。
葉はと言えば、そんなハオをせっつくでもなく、ふにゃりと笑いながら応えを待っていた。ことりとハオの肩口に頭を乗せて、もぞもぞとすり寄ってくる。そんな仕草からなんとなくその言葉の意味を察して、ハオは僅かに首を傾げると、葉の唇に軽く口付けた。

「ん」

それに、葉が擽ったそうに笑う。するりと頬を滑り、後頭部へと延びてきて甘く首へと絡められた腕に逆らうことなく、ハオは葉に覆い被さる様に上半身を沈み込ませた。
少しだけ長い口付けの後。どちらからともなく絡んだ視線に小さく微笑みあう。

「Trick or Treat?」

そう悪戯っぽく囁いたハオに、葉は「家帰ったらケーキ作ってやるんよ」と嬉しそうに笑った。

お互い、それとなく構ってもらうための言い訳を探している。
まったくもって、幸せで馬鹿げた話だ。


===


「ああ、安売りしてたから買ったんよ」

「珍しいね」、そう一声かけたハオに、葉はゆるりと笑ってそう答えた。
赤茶の視線の先には、赤と黒のパッケージと、緑と白のパッケージがそれぞれある。「ふぅん」、と気のない応えを返したハオの瞳が、ひとつ瞬く間に悪戯な色を宿した。温そうに炬燵へと包まる片割れが買ったカラフルな箱へと、しなやかな指先が伸びる。カタリという紙箱が擦れる小さな音に、亜麻色の瞳がちらりと動いた。僅かに開かれたその唇が音を発する前に、ハオの指先が無造作に菓子の開け口を開く。
バリバリ、と独特な音をさせて開いた箱の中身を取り出し、薄いビニール袋も素早く開いた。
そこまでをきょとんと見ていた片割れの瞳が、不意に不満そうな色を浮かべる。

「……オイラのなんに」

そう尖らせた唇が不満げに告げる。それに小さく微笑み、ハオはとろけるように甘い仕種で摘んだ菓子を葉へと差し出した。

「ん」
「うえ?ん、っ」

一瞬事態が飲み込めずにほけっと緩く開かれた唇へと、ハオは菓子の先端を差し込んだ。それに目を白黒させた葉は、不思議そうな顔のままぽりぽりと菓子を咀嚼する。一本食べ切って飲み込んだところで、ハオが頬杖をついたまま、新しい菓子を差し出してきた。葉は意味もわからないまま、それをまたかみ砕いていく。ゆったりと寛いだハオが甘い眼差しで自分を見つめてくるから、どことなく落ち着かなかった。にこにこと笑う顔は酷く満足げで、幼い。小さな子供がお気に入りの猫を甘く可愛がるような、そんな印象だった。

もしかして、これは餌付けなんだろうか。

そう思ったものの、それほど嫌な感じはしない。自分が購入した菓子で餌付けをされるというのも妙なはなしではあるが。
そう葉が思考を頭の片隅で遊ばせている間も、ハオは満足そうに微笑んだままだ。
自分の気まぐれが起こした、ハオの気まぐれ。
それに小さく苦笑し、葉は甘い菓子をかみ砕く。

もうすぐ距離がなくなる無防備なその指を噛んだら、ハオはどんな顔をするだろうか。

そう考えて、もう一度微笑む。
きっと「仕返し」と甘く笑って、唇に噛み付かれるのだ。
そんな予想を立てながら、葉は柔くハオの指先に歯を立てた。
視線を上げれば、赤茶の瞳が意地悪く微笑んでいる。それとは裏腹に酷く優しく指先が顎を掬い上げるのを感じながら、葉はゆるりと瞼を閉じた。


===


「おお、降ってきたなー」

空を見上げた片割れが上げた声につられるように、ハオも僅かに顎先を上げた。
暗い曇天からは、ぽつぽつと白く冷たい花弁が降ってくる。

「ああ、通りで」

冷え込むわけだ。
そう言葉にする代わりに、繋がれた冷たい指先に力を込める。繋いだ先の葉の掌は、ひどく暖かい。

「たまおが言ってた、ホワイトクリスマスって奴だなぁ」

ホールケーキの入った箱を抱えた葉が、嬉しそうに笑う。
そう、今日はクリスマスだ。白い雪と、白いケーキ、それから、苺の様に淡く染まった頬と、イルミネーションよりもキラキラと輝く瞳があふれる日だ。そんな彼の隣りで、自分が過ごせる日だ。
僅かに弾んだ声音で告げる葉の鼻先がほんのりと赤くなっていて、それが妙に愛しくて、ハオは思わず唇を寄せた。



満ちる純白



「冷えちゃったね。帰ろうか」

赤くなった片割れの頬を淡く撫でると、ケーキの箱を持つ葉の手に力が籠った。

===

memoからの再録+初出

2014.12.17

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