※学パロ 「デートすんぞ、ハオ」 満面の笑顔で宣った葉に、ハオは一も二もなく頷いた。 「……葉」 しかし。 十数分前の浮かれ様は何処へやら、現在ハオの機嫌は低空飛行の真っ最中だった。 「ん?なんだ」 「………デート、って言ったよね?」 「おう」 あっさりと頷いた葉に、ハオは深く長い溜息を着いた。 葉は不思議そうに首を傾げる。そんな葉の手には、ハオの機嫌下降に一役買っているサラダ油のボトルが握られていた。 何故二人のデート先にそんなものがあるのか。 理由は単純明解である。 「普通、デートでスーパーには来ないだろ」 これはデートじゃなくて夕飯の買い出しだ。 ハオがなんとか喉奥から搾り出した声音は、世界一のバリトン奏者とも張り合えそうな低音だった。 そう、今二人がいるのは、最近出来た50円均一スーパーだ。 不機嫌さを隠そうともしないハオに頓着した様子もなく、葉はへらりと笑って見せる。 「良いじゃねぇか、だって50円なんだぞ?」 何がどういいのかさっぱり解答になっていない葉の言葉に、ハオの唇からは再び溜め息が零れる。 「意味解らないんだけど」 「何がだ?卵も牛乳も野菜も全部50円何だぞ、すげぇだろ」 だからそういうことじゃないっての! ハオのそんな心の叫びは、愛しの葉にさっぱり届かなかったらしい。 「あ、タイムセールやってるんよ!ちょっと行ってくるな!」 満面の笑みを浮かべた葉は、嬉々とした様子で走り去って行った。 かっこかっこと硬い床を叩く軽快なサンダルの音が、その背を追い掛けていく。 何故か、ここに来てから葉はずっとあの調子だった。奇妙な程に生き生きとしている。むしろ、笑顔が輝きすぎて眩しいくらいだ。 げんなりとしたハオの手元に残ったのは、カゴ一杯の食品とトイレットペーパーだった。 『デートすんぞ、ハオ』 そう、ハオは葉の言葉と笑顔に全力で騙されたのである。おまけに、珍しく葉から手まで握られたのだ。これでは騙されたっておかしくはない。 いや、だがしかし。 相変わらず、自分はそんなに葉との触れ合いに飢えているのか。手を握られたくらいでなんだ。葉の笑顔がちょっと、否、かなり、否、限りなく可愛いからって何だというんだ。デートとか言われてちょっと、否、かなり嬉しかったとか馬鹿か。 そして浮かれた結果が、これである。 葉本人にだますつもりは一切ないのだろうが、ハオが何とも言えない気分になっているのは紛れも無い事実だった。 「……そんなにいやだったか?」 数十分後。 両手にスーパーの袋を下げた葉が、同じく両手いっぱいに荷物を抱えたハオへと問いかけた。その瞳には不安そうな色が見え隠れしている。 「……別に」 そんな片割れに、ハオはムスッとしながら応えた。別に、嫌ではない。それは紛れも無い本心だ。けれど、それにしたってデートで流石にスーパーはない。 「うーん…デートでスーパーってだめなんか?」 「ダメっていうか…ふつう恋人同士のデートでスーパーにはいかないだろう」 そう不満たらたらなハオに、葉はぱちぱちと瞳を瞬かせた後、あっさりと告げた。 「好きな奴とどっか行けばデートだろ」 「えっ」 「えっ、ちがうんか?」 そう不思議そうに首を傾げる葉に、ハオは数回口を開閉させた後、呆れたように溜息をついた。 なんだ、その基準は。 そう葉の言葉を反芻して、ハオは気恥ずかしくなる。つまり、アレか。誰と行くのかが重要であって、どこに行くのかは問題ではない。葉にとっては、たとえ夕飯の買い出しであっても好きな人間と…ハオと出掛ければ、どこでもデートということになる。そういうことか。 「本当…ばかみたいだなぁ、ぼく」 そう困ったように笑うハオの顔を葉が覗き込む。そんな葉に小さく微笑んで、ハオは一言応えた。 「明日も、一緒に買い出し行こう」 デートだもんね。 そう告げれば、亜麻色の瞳が嬉しそうに笑った。 ―――その数日後。 葉に「なぁハオ、今日この遊園地んとこまで行かんか?」と告げられ二つ返事で頷いたハオが、遊園地近くの激安スーパーに連れて行かれたのはまた別の話である。 ラブミー・ベイビー! いや、愛されてるのはわかってるけど! === 去年は大人しい雰囲気だったので、今年ははっちゃけてみました(笑) 50円スーパーの話をみて葉くん好きそうだなぁと思ったので、葉くんにきゃっきゃして頂いたという。 検索除け済み同人サイト様のみWeb上転載可。載せる際には当サイト名か管理人の名前のどちらかをご記載下されば幸いです。 配布期間は終了しました。貰って下さった方々ありがとうございました! 2周年本当に有難うございます! 2013.08.04 top |