※小話まとめその7 ハオ葉ハオで色々なお題に沿ってハイパーショート小話18本。息抜きなので数は多いですが一本一本は短いです。 設定、シチュエーション等は疎ら。 「ねむい」 一言そう言って、葉は僕の肩口へと額を緩慢に擦り寄せた。 日なたでくつろぐ猫の様に、ゆるりと瞳を閉じて見せる。僕は何も言わずにその頭を撫でた。好き勝手に跳ねている髪の撫で心地は、決して良いとは言えない。 それでも奇妙に心地好くて、僕は小さく笑った。 === 「あのねぇ…」 ハオに呆れた様な溜息をつかれても、オイラは傍から離れなかった。 普段下ろされている髪は無造作に後頭部で括られ、ハオが動く度に毛先がゆらゆらと揺れている。 「猫じゃないんだから」 そう苦笑混じりに告げるハオの髪に、オイラの目線は相変わらず釘付けだった。 === 「なんだ、びっくりしたぞ」 不意に背後から抱き着いた僕に、葉は瞳を瞬かせながら振り向いた。 そのまま葉の右手が僕の頭へと伸びる。 「ハオは甘えただなぁ」 分かってるならちゃんと構えよ。そう内心悪態をついてから、僕は頭を撫でてくる葉の掌に満足して目を閉じた。 === 「ハオのそういうとこ好きだぞ」 …嘘つき。 否、嘘ではない。葉が僕を好いているのは僕だって知っている。 けれどそれと同時に、その『好き』が僕と違う意味なのも僕は知っているのだ。だから、僕は視線を外して何も答えなかった。 その時葉が困った様に笑っていたのを、僕は知らない。 === なんだかお互い馬鹿みたいだ。 そう思ったのは否めない。ハオも珍しく動揺しているのか、平静を装いながらも指先は忙しなく動いている。触れ合った唇は、温かかった。その淡い温度を繰り返し胸の内側で反芻する。そうしたらなんだか堪らなくなって、オイラはぎゅっとハオに抱き着いた。 === 「葉、あーん」 そう簡潔に告げて菓子を取り出した僕に、葉はへらりと笑った。 素直に開かれた唇へと、僕は甘い砂糖の塊を放り込む。金色の瞳の白猫が、そんな僕らを葉の膝から見上げていた。 君の事も好きだけれど、今はごめんね。 呑気に笑う葉を構いながら、僕は心の中で小さく謝った。 === 「ねぇ、結婚しようよ」 葉と一緒にいたいんだよ。無理強いはしないけれど、そろそろ『うん』って言って欲しいな。 そう甘えた声で告げるハオに、オイラは笑った。今ので丁度199回目。何度聴いても嬉しい言葉ばかりだったけれど、オイラからプロポーズしたらどんな顔をするだろうか。 === 「今日はオイラが"えすこーと"するんよ!」 そう宣言して僕を町に連れ出した葉に、僕はなんだかくすぐったい気分になった。 パタパタと駆けていく落ち着きの無さは、ちっともスマートとは言えない。けれど繋がれた掌が温かかったので、僕は大人しく口をつぐむ事にした。 === 「なんだ、そんなしょげて」 腹減ってんのか?と呑気に笑う葉に、僕はムスッと唇を尖らせた。 キスを仕掛けること7回。その度に鈍感な葉にかわされては拗ねたくもなる。けれど「今食うもん持っとらんから、これで勘弁な」と言って葉が頬に口づけてきた瞬間、どうでも良くなってしまった。 === 「にいちゃん」 にへら、と笑いながら擦り寄ってくる葉に、僕は内心困り果てていた。 同じ顔、同じ声、同じ身体。けれど片割れの態度からは、葉が僕の抱く感情に気づいているのかいないのか判然としない。鼻先にある髪からは甘い匂いがする。抱きしめたらもう戻れないと解っていたのに、僕は葉の身体をそっと抱きしめた。 === 「は?」 眉間にシワを寄せて聞き返してきたハオに、オイラはへにゃりと眉尻を下げた。 綺麗な顔をしたハオが怒ると迫力があってこわい。 「今度の土曜にクラスの女子と出掛けるだ?ダメに決まってるだろ」 「断れ」と断言したハオに、オイラは小さく頷いた。ハオと繋いだ右手と頬が、やけに熱かった。 === 「…どう、だ?」 試着室からおずおずと顔を覗かせて問う葉に、僕はくらりと目眩がした。 七分丈のズボンからすらりと伸びた細い足首。控え目な鎖骨と華奢な首筋が衿元から覗いている。はっきり言って非常に良い。けれど、僕は葉を元の服に着替えさせた。 ……他人に見せるなんて勿体ない。 === 「…ようのばか」 ムスッとしながらぼそりと吐き捨てたハオに、オイラは内心溜息を着いた。 原因は分からないけれど、どうやら拗ねているらしい。こういう時は甘やかすのが一番だ。そう判断したオイラは、ハオの身体をそっと抱きしめて頭を撫でた。 === 付き合い始めてからもう3ヶ月。 それなのに、葉から一度もデートに誘われない。 葉の性格からして恋愛事が不得手なのもわかる。でも僕から誘うのは違うのだ。告白は僕からしたのだから、やっぱりデートくらい向こうから誘われたい。だから僕は今夜も悶々とした気分を抱えたまま、葉と色々な場所へいく想像をする。早く現実にしてくれないかね、まったく。 === 「僕葉の作る卵焼き好きだよ。毎日食べたいくらい」 卵焼きを頬張りながらにこにこと笑うハオに、オイラはうっかりキュンとした。なんだ、そんなに可愛い顔して。だから、こんな言葉がつい口から出たのも、しかたがないと思う。 「大学卒業したら、毎日作ってやるんよ」 === 『あっためて食え』 ぶっきらぼうな、眠気の滲む簡素な文字に視線を落とす。 その隣には、文字や言葉とは裏腹な程、丁寧にラップをかけられた料理があった。冷たい料理と一枚の紙切れ。それから奇妙な程の温度を感じる自分がおかしくて、少し笑った。じくりと痛んだ胸には、知らんぷりを決め込む。 『人参嫌い』 綺麗な文字で無愛想に綴られた言葉に、葉は小さく、困った様に笑った。 皿の上には丁寧により分けられた人参だけが、昨晩と変わらず乗っかっている。環境が変わり、顔を合わせる時間が減っても、こういう所は相変わらずだ。 「にいちゃんの癖に」 そう呟いたら何となく幸せで、けれどやはり寂しくて、もう一度、困った様に笑うしかなかった。 === 「おはよーなんよー」 キッチンに足を踏み入れた瞬間、満面の笑みで出迎えられて、ハオは硬直した。 「飯できてるぞ」 そうなんでもない様に続けて、件の相手はふにゃりと笑う。 「……締め切りまで、まだあるだろ」 「まぁな。でもお前の場合は特別だ。冷蔵庫すっからかんだったぞ」 何食って生きてんだよ。 そう突っ込まれては何も言えない。事実、集中すると食事すら面倒臭くなるのは確かだ。そして、腹が減っているのも、紛れも無い本心だった。 「とっとと食え。冷めるぞ」 そう促されて、渋々と席につく。大人しく湯気の上がる食事に口をつけると、葉が吐息だけで笑ったのがわかった。 「……仕事の為に渡してある合鍵だ。プライベートにまで口をだされる謂れはないよ」 悔し紛れに、ぼそりと口にする。 それを聞いた葉は、ぱちぱちと瞬きを繰り返してから、また、へらりと笑った。 「だから、お前は"特別"なんよ」 なんでもない様な声音で、けれど鼓膜に染み込ませる様にゆっくりと呟いてから、葉は食事を再開する。 ……その強引さが、不思議と不愉快ではない。 そう思った瞬間、ハオは頭を抱えたくなった。 繰り返し点滅するシグナル。これはまずい。そう判断するのに、時間はかからなかった。何故、寄りにもよって三十路間際の同性に、なのか。 「誰かと食う飯はうまいなぁ」 馬鹿馬鹿しい。 そう思うのに、へらへらと笑うその顔が、嫌いではない。それが、堪らなく不愉快だった。 === それは、偶然だった。 忙しなく人が行き来する舞台裏。そのほんの僅かの間を縫って行われた、ささやかで何気ない、一瞬の行為だった。何故それが自分の目に止まったのか。それすら疑問を抱く程の、秘めやかなものだった。 距離があった為に、会話は聴こえていない。今更かもしれないが、盗み聞きする気も、盗み見る気も微塵も無かった。 ただ、わかってしまった。 何気なく伸びた指先。それが肩までの黒髪を一瞬、柔らかく撫でて。 「 」 何事か囁いた唇が、猫の様につり上がる。その僅かな触れ合いの後、二人はあっという間に離れた。そっけない態度とは裏腹に、ハオの艶やかな黒髪が、そっと名残惜しむ様に靡く。それだけで、わかってしまった。 自分の恋は、もう叶うことはないのだと。 始まる前に、終わっていたのだと、気づいた。気づいて、しまった。その夜は、途切れることなく泣きつづけた。 瞬きの刹那 === そんな感じでざざっとハイパーショート小ネタまとめでした。 以外使用したお題(診断なので重複有)一覧です。 『幸福の条件=隣に君がいること』/『どうしても目が離せない』/『後ろから抱き締める』/『片思い×2』/『はじめての、ちゅう』/『よそ見しないで』/『101どころか200回目のプロポーズ』/『カッコイイデートがしたい』/『振り回されっぱなしだけど満足です』/『全部がほしい』/『ツンデレじゃないツンツンだ』/『エッチなのはいけないと思います』/『ツンデレじゃないツンツンだ』/『毎晩の妄想デート』/『つまりは「結婚してください」』/『大学生で一緒に暮らしてる設定でお互い好きあっているが、素直になれないハオ葉』/『二人とも26才の設定で片想いの相手に猛アタックするハオ葉』/『芸能界パロで付き合ってる二人を第三者視点から見たハオ葉』 2012.12.13 memoから格納+初出 top |