※神ハオ、未来王ハオ、葉の三兄弟パロ 備考:神ハオ(葉王)と未来王ハオ(ハオ)は双子、葉くんは二人の年子です。 葉くんの兄ちゃんズの呼び方は、神ハオが「にいちゃん」、未来王ハオが「にーちゃん」です。 「にいちゃん」 弁当箱を抱えて駆け寄ってきた葉に、葉王は愛しそうに相好を崩した。頭半分だけ小さな弟に目線を合わせ、くしゃくしゃと葉の丸い頭を撫でている。 「ちゃんと全部食べられたかい?」 「おう、旨かったんよー」 「そうかい、それは良かった。じゃあおやつを用意してあるから、手を洗っておいで」 「はぁい」 葉王に満面の笑みで答えた葉が、ぱたぱたと洗面所に駆けていく。 中2にもなって、何をはしゃいでるんだか。 ハオは二人のやり取りの一部始終を見ながら、そう思った。しかし、葉も葉だが兄も兄だ。正直甘やかし過ぎな感は否めない。 そう思いながらハオが菓子入れの中の煎餅に手を伸ばすと、葉王の繊手にぴしゃりと手を叩かれた。 「こら、ハオ。食べるならお前も手を洗っておいで」 「いいよ、面倒臭いし」 「だぁーめ、それまでお預けです」 「んだよ、兄貴のケチ!」 「なんとでも言いな。僕は痛くも痒くもないからね」 そう飄々と言い放つと、葉王は湯呑みの茶を一口啜った。同じ男とは思えないくらい、厭味な程に優雅な仕種だった。それが似合うからまた鼻につく。 「ところで、葉が最近変なんだよね」 「は?」 不意に憂い顔で切り出した葉王に、ハオは眉を顰た。 ハオには、葉はいつも通りちっちぇえワンコみたいにころころ走り回ってる様にしか思えなかったからだ。 顔色も別に悪くないし、さっきぱっと見た感じでも怪我の類もしてはいない。第一、葉は感情がすぐ顔に出る。落ち込めばしょんぼりするし、嬉しければデレデレの顔でへらへら笑うし、少しいじめるとすぐぴーぴー泣く。だから嫌な事があって落ち込んでも、自分か兄のどちらかが気づく筈だ。第一ハオが気づかなくても、目敏い兄が葉の変化に気づかない訳がない。葉王は過保護なくらい葉のことを愛でて可愛がって世話を焼いているからだ。 「いや、ハオの言いたい事もわかるよ。僕も特に葉が怪我したとか体調崩してるとか、そういうことはないと思うし」 勝手に人の思考読むなよ。 ハオは今まさに自分が考えていたことをぴたりと言い当てて来た兄に、内心そう突っ込んだ。否、双子だからか単に考える事が似ているだけなのは分かっている。けれど、正直あまり良い気はしない。 「でも、最近葉が制服を汚して帰ってくるんだよね」 「何処でもすぐ横になって昼寝するからだろ、アイツ」 「いや、それくらいならちょっと埃っぽいくらいじゃないか。でも、明らかに転んだ様な跡とかがあるんだよ。この間はなんでか知らないけど、ずぶ濡れで帰って来たし」 理由聞いても何も言わないんだよ、と葉王は渋面を作った。 制服を着ていなければ女に間違われるくらい整った顔立ちの中で、長い睫毛が僅かに揺れる。僕と同じ顔でそういう悩ましげな顔すんなっての。ハオは内心そう毒づく。それがまた似合っているから以下同上だ。 「言わないんだったら何にもないんだろ」 「わからないよ。葉は、僕らに似て案外意地っ張りだからね」 「僕は兄貴程じゃないよ」 「はいはい」 不満たらたらで言い返したのに、軽く流されてしまった。 一見温和だが、怒らせると誰よりも怖いのがこの兄だ。正直なところ、味方にはしたくても敵には絶対に回したくない。 「だから、とにかくハオも少し気をつけて見てあげてよ。可愛い弟だろう?」 「ただのチビなちんくしゃだろ」 「素直じゃないなぁ」 かなり本気でそう宣ったハオに、葉王はくすくすと軽やかに笑ってみせる。 全く本気にしていない顔だ。 朗らかに笑う兄の表情からそれを察して、ハオは小さく溜息を付いたのだった。 ……そんな遣り取りをしたのが、一週間程前のことだったろうか。 頭の片隅で記憶を引出ながら、ハオは階下で繰り広げられる遣り取りに視線を落とす。 ぴょこぴょこと跳ねた癖毛と、色鮮やかなオレンジ色のヘッドフォン。 それを視界にとらえ、ハオは小さく鼻を鳴らした。 「……兄貴、アレみてみなよ」 「うん?」 ハオが軽く顎をしゃくってみせれば、隣にいた葉王が不思議そうに窓の外を覗き見る。 その手には、すっかり帰宅の準備が整えられたカバンが握られていた。それもそのはずで、今は丁度下校時刻である。ハオと葉王も、今まさに帰宅しようとしていたうちの一人だ。 帰宅の準備を終えたハオが兄を待っている間に、何気なく視線を向けた窓。その先に見慣れた姿を見止め、ハオが兄に声を掛けたのである。 ハオの声に反応した葉王がその視線を辿った瞬間、赤茶の瞳が大きく見開かれた。 「ッ…ハオ、あれ…!」 「どうも、兄貴の感もあながち間違ってなかったみたいだね」 咄嗟に片割れを見遣った葉王に、視線を落としたままのハオが小さく応える。 二人の視線の先、二階の教室の窓から見える人気のない校庭。 そこには二人の年子の弟と、その葉を追いかけまわす見知らぬ少年の姿があった。 「……って、兄貴?」 その姿を見止めた瞬間、傍らの葉王の空気がすっと冷える。 驚いたハオが隣を見やれば、今まで見たことがない様な冷たい顔をした兄の姿があった。 「ハオ、行くよ」 そう断定口調で言い切った瞬間、葉王は踵を返して教室から出ていく。 そんな兄の姿に溜息をついてから、ハオはちらりと窓の外の見知らぬ少年に視線を走らせた。 ―――自業自得とはいえ、ついていない。 「ご愁傷様」と、ハオは心の中で小さく呟いた。 自分たち兄弟の仲で怒らせると一番怖いのが、何を隠そう、普段は虫も殺せないような顔をした葉王だ。 本気になった葉王を相手にしては、葉どころかハオも適わない。一矢報いることができるかすら危うい。特に、過保護な兄はハオと葉が傷つけられるのを心底嫌う。斜に構えたハオとは違い、その分危害を加えてきた相手に対する怒りも直線的だ。 いざとなったら自分が止めるしかないのだろう。そう溜息をつきつつも、ハオはハオで葉を追いかけまわしている相手に対して苛立っていた。 うちのチビをいじめていいのは、僕だけだっつーの。 そう内心毒づきながら、ハオも兄の後を追った。 *** 「うえええ〜いいかげんにしてくれよぉ…!」 荒く呼吸を乱しながら、葉は情けない声で叫んだ。 しかし、どうもそれが相手の怒りを逆なでしてしまったらしい。 「貴様、ふざけるな!真面目にやれ!」 頭のトンガリを更に尖らせ、転校生の道蓮は葉を怒鳴りつけてみせる。そんな蓮に、葉はぐったりとしながら続けた。 「オイラはやだっつってるだろ〜…!」 「知るか!」 再び追いかけようとした蓮を見て、葉も逃げ出そうとする。 しかし、そんな葉の視界を誰かがふいに塞いだ。ついでに、ぼすんっと相手にぶつかってしまう。しかし、相手はぶつかってきた葉をしっかりと抱きしめた。そう、まるで自分を盾にして守ろうとするかの様に。 「何だ、貴様らは…!」 急に自分たちの間に割って入ってきた相手を、蓮が怒鳴りつけている声が聞こえる。 しかし、その言葉を向けられた相手は綺麗に蓮を無視して、まず葉に声を掛けた。 「葉ッ…!もう、大丈夫だからね…!」 「…うえ?」 そう綺麗な顔を泣き出しそうに歪めながらひしっと葉王に抱き着かれて、葉は目を見開いた。 何故、ここに兄がいるのだろう。 そんな疑問を抱えたまま、状況が呑み込めない葉を置き去りにして、背後からも聞きなれた声が響く。 「お前が今追っかけまわしてる、こいつの兄貴だよ。…それで?お前、うちのチビになんの用なのさ?」 蓮を挑発する様な口調で、ハオが不敵な笑みを浮かべている。 ハオの言葉へと続く様に、葉王もキッと蓮を睨みつけた。なんというか、雰囲気が物凄くこわい。 「…君、確か交換学生の道蓮くんだよね?いったいどういう謂れがあって、うちの葉を追いかけまわしているんだい?」 返答によっては、容赦しないよ。 そうあからさまに続きそうな兄達の言葉に、葉は震え上がった。 (ふ、ふふふふふたりともめちゃくちゃ怒ってるんよー!!) 葉はそう、心の中で絶叫した。 確かに、蓮に追い掛け回されて困ってはいた。困ってはいたが、流石にこの兄二人の怒りを向けられては堪ったものではないだろう。現に、先ほどまであれほど威勢が良かった蓮が、今は石のように沈黙している。 「あ、葉くん!」 「お前らこんなところにいたのかー!」 しかし、その状況を打開する救世主が現れた。 葉と蓮のクラスメイトであるまん太とチョコラブが、二人の姿を見つけて駆け寄ってきたのである。 が、しかし。 一触即発の雰囲気を見て、お人よしの二人はビシッと硬直した。ちらりと、兄達の視線が流れるように二人を捉えたから、尚更である。 「なんだ、まん太じゃないか」 「……二人とも、事情を知っているなら教えてくれるかな?」 興味なさ気に呟いたハオとは対照的に、葉王の浮かべた微笑はひやりとしている。目が全く笑っていない。 「ッ……に、にいちゃん!にーちゃん!ち、ちがうんよー!!」 「「何が違うのさ」」 その場の空気に耐え切れず叫んだ葉へと、寸分たがわないユニゾンが響いた。 それに一瞬怯みそうになりながらも、葉は涙目で続ける。 「オ、オイラ、別にいじめられてたとかじゃねーぞ!?」 「「…え?」」 これまた二人同時に聞き返した葉王とハオに、今度はまん太とチョコラブが続ける。 「ええっと…あの、本当に、蓮くんが葉くんをいじめてたとかじゃ、ないです…」 「ただ、その、なんつーか…体育の授業の100メートル走で、葉が蓮に勝っちまって…」 「「……は?」」 二人の言葉に、葉王とハオはぽかんとした。あまりに予想外の展開過ぎて、咄嗟に反応ができない。 まん太とチョコラブの援護射撃を受けて、蓮が勢いよく叫ぶ。 「いじめなど、そんな卑怯な真似をするか!俺はただ、もう一度勝負をしろとそこの麻倉葉に勝負を挑んでいただけだ!!」 「だからぁ〜!オイラめんどうくせぇから嫌だつってるだろ〜!?あんまりにもお前がしつこいから、一度もう一回やったけどお前負けたじゃねぇかぁ」 「うるさーい!あんなのは俺の実力ではない!」 うんざりとした様に続けた葉を、蓮が怒りもあらわに怒鳴りつける。 そんな二人のやり取りをみて、葉王とハオは顔を見合わせた。 「……じゃあお前、ずぶ濡れで帰ってきたっていうのは」 「蓮から逃げとるときに、花壇の方に逃げ込んだら事務員のおばちゃんが丁度花の水遣りしてて、水かけられちまったんよ」 「……それじゃあ、制服のズボン汚して帰ってきたのも?」 「蓮に追っかけまわされてこけただけだ」 あっけらかんと答えて見せた葉に、顔を見合わせた葉王とハオは、暫く経ってから深く長い溜息をついた。 「……バカらしい」 「…とりあえず、蓮くん。うちの葉はそういうの好きじゃないし…なんなら、今度うちに遊びに来て、ゲームとか別のもので決着付けたらどうかな?」 勘違いして、怒ってごめんね。 そう困った様に続けた葉王の一言で、とりあえずその場は丸く収まることになった。 *** 「……まったく、人騒がせな」 三人で並んで帰途についている最中。 苛立ち交じりに溜息をついたハオに、葉王は困った様に応えた。 「まぁ、いいじゃないか。ハオ。葉に怪我もなかったし」 「良くないよ。兄貴の感もたまには外れるんだね」 「そりゃあ、僕だってただの人間だもの」 葉を間に挟んだまま、ハオと葉王は会話を続ける。 二人の間で僅かに跳ねる様に歩く葉の足取りは、酷く楽しげだ。 「でも、ハオってば何だかんだで葉のこと心配だったんだね。あんなに怒っちゃってさ」 「……葉のこといじめていいのは、僕だけなんだよ。あんなガキが勝手にしてるのかと思ったら、腹が立っただけさ」 「素直じゃないなぁ」 「でも、オイラにいちゃんたちが来てくれて嬉しかったぞ」 にへらっと笑いながら不意に会話へ混ざってきた葉に、葉王とハオは顔を見合わせた。 葉王の右腕とハオの左腕は、それぞれ葉が片腕ずつ抱いている。 「にいちゃん、にーちゃん」 心配してくれて、ありがとな。 ウエッヘッヘといつものゆるい笑い声を上げながら告げた葉に、葉王は蕩けるように微笑み、ハオは小さく鼻を鳴らした。 葉に抱かれた二人の腕は、ほんのりと温かい。 何だかんだと言ったって 僕ら二人とも、この弟が可愛くて可愛くて堪らないのだ。 === 元々はこの落描きが元ネタの、7000hitキリリクss『葉くんの友達がわざと葉くんにちょっかいをかけているのを偶然見かけたハオ兄達が、苛められていると勘違いして必死で葉くんを守る』というお題でした。 ゆん様へ差し上げさせて頂きます。 突発的なネタでしたのに、お声かけ下さって嬉しかったです。私自身も兄ちゃんズと葉くんのやり取りを楽しく書けました。 書いている間中「ハオ」と「葉王」がゲシュタルト崩壊しそうでしたが(笑)。 お持ち帰りはゆん様のみOKです。転載は検索除け済みの媒体(ご自身のサイトやブログ等)で、当サイト名「ラブストーリーは突然に」、もしくは管理人名の「穂純」をご記載の上でお願い致します。 完成までに長々とお時間を頂いてしまいましたが、少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。 2012.12.13 top |