※学パロ葉ハオ


「なんだ、そいつ」

葉の言葉に、ハオはふと手を止めた。
腕のなかにいた三毛猫が、不思議そうに自分を見遣るのがわかる。

「おはよう」
「…はよ」

そう小さく言葉を交わしている間も、亜麻色の瞳はハオの腕の中にいる猫に釘付けだった。
葉は寝巻代わりの浴衣を着崩したまま、いつも以上に眠そうな半開きの目を擦る。
暖かい縁側でぬくぬくとまどろむ、日曜の午後。
のんびりとひなたぼっこをしていたハオへと寄ってきた、自分の弟と小さな来訪者。少し前に麻倉家の庭へと入り込んできた毛艶の良い三毛猫は、襖からひょっこりと顔を覗かせた葉に、甘える様な声音で人懐っこく鳴いた。先程ハオにしたのと同じ様に、大層愛らしく。
そんな猫に、眠そうな弟の眼差しはぴたりと固定されている。

「………」

じっと猫を見つめる葉に、ハオは愛おしむような苦笑を浮かべた。
興味の対象は無言で見つめつづける。幼い頃からの片割れの癖は、今も変わらない。それに気づいたのは、確か小学校に上がるか上がらないかの頃だった。ありの行列を延々と飽きずに見つめつづける葉を、ハオもすぐ隣から見つめつづけた。懐かしい過去に重なる仕種。それに口元を緩めながら、ハオは兄らしく弟を声音で手招いてやる。

「葉も触るかい?かわいいだろう」
「……ん」

そう告げた瞬間、葉が僅かに嬉しそうな顔をした。こういうところは、いつもより少しだけ弟らしい。
葉がハオの傍らに膝をついて軽く猫を撫でると、三毛猫は愛嬌たっぷりに甘く鳴いてみせた。
それに尚更頬を蕩けさせながら、葉は「うえっへっへっ」といつものように気の抜ける笑い声をあげて、幸せそうに猫を撫で続ける。そんな片割れに抱いていた猫を渡してやり、ハオは小さく微笑んだ。ころりとした丸い頭を、葉が今猫にしている様に撫でてやりたくなる。

「ん?」
「ううん、なんでもないよ」

その感情に抗うことなく、ハオは片割れの頭を数回軽く撫でた。
それを見ていた三毛猫が、催促するように短く鳴く。甘える様な鳴き声に小さく口元を緩めて、ハオはその耳の付け根をそっと撫でてやった。ピクピクと耳を小刻みに震わせてから、愛らしい来訪者は満足げに鳴いてみせる。

「こいつなつっこいなー」
「首輪がついているから、どこかの飼い猫じゃないかな」
「お、本当だ」

ハオの言葉に、葉が背中から抱えた三毛猫の首を確認する。それに抵抗することもなく、片割れに首を触られた猫はゴロゴロと喉を鳴らした。赤い首輪の隙間から指を差し入れて撫でてやりつつ、葉はその様子をみて蕩けそうな甘い笑みを浮かべる。

「かーわいいなぁ」

葉が頬を擦り寄せれば、三毛猫も応える様にその頬へとすりよった。すっかり一人と一匹の世界である。

……ハオはといえば、そんな風にすっかりデレデレの葉が少しだけ面白くない。

自分に愛想を振り撒いていた猫を後からきた葉に取られてしまったからなのか、猫に葉を取られてしまったからなのか。
はたまた、そのどちらもなのか。
そこまで考えて、ハオは反射的にその先の思考を放棄した。考えるだけ馬鹿馬鹿しい。
けれど、言い表し様のない不快感が腹の中に堆積していく。この感情は、ここ最近世話になっていたものだった。ハオの望む望まないに関わらず、それは足元に張り付いた影法師の様に纏わり付いてくる。
最近の記憶で一番古いものは、葉がクラスメイトの女子にちょっかいをかけられていた時のものだ。詳しくは知らないが、ホロホロ達も交えて数名の女子から遊びに誘われたらしい。四苦八苦しながらも、どうにか断っていた様だった。
確か、昨日葉が剣道場から帰ってくる時も、同じ道場に通う年上の女子から声をかけられていた。ほわほわしている癖に意外と力も強く、葉はいざという時案外頼りになる。おまけにお人よしな性格も相まって、葉に好意を寄せる女子は意外と多い。
そういえば、三毛猫はその殆どが雌だという。今二人の傍にいる猫も、確認はしていないが恐らくそうだろう。

葉の天然たらしっぷりは、種族性別問わず有効なのか。

そこまで考えてから、ハオは小さく眉間に皺を寄せた。
ああ、そうだ。これは、葉が興味の対象に夢中になっている時の感情と同じものではないか。
幼いハオは、その対象から葉の興味が逸れるまで、ただ片割れを見つめつづけることしか出来なかった。じっと一処に留まっているのが苦手なことも相まって、すぐにひとりで別の遊びを始めてしまうのが常だったが。それでも、なんだかんだで葉の様子だけは繰り返し確認していた様に思う。
今の状態は、まさにそれだろう。

しかし、自分ばかりというのは少々面白くない。

このままひとりあぶれているのも何だか釈だ。
そう言い訳にもならない戯れ事を心の中で小さく繰り返して、ハオはせめてもの抵抗にと、猫に夢中な葉の肩に頭からぽすりと寄り掛かった。この状態の葉に声を掛けても、気づかれないのは既知のことだ。意図的ではないにしろ無視をされるくらいなら、これくらいのアプローチが打倒だろう。
しかし。
その瞬間、ぎくんと片割れの身体が甘く強張る。予想外の反応に、ハオは小さく驚いた。けれどそれを表には出さないまま、ゆるりと唇を開く。寂寥とした感情が滲まないように、ゆっくりと。

「今日、ようの作ったカレーがたべたいなぁ」

片割れの肩に頭を置いたまま、ハオはできる限り何気なく聞こえるように告げる。
すると、一瞬変な間を挟んでから、葉はハオの頭に自分のそれを寄せた。こつん、と軽く頭同士がぶつかる感触がする。ハオがそれに少しばかり顔をあげると、額の上から深く長いため息が聞こえた。

「………ハオは、たまにずりぃよなぁ」

命中。
葉は、きちんとハオの意図に気がついたらしい。
呼吸ごと押し出すようにその台詞を吐き出したあと、片割れはぐりぐりとハオの頭に自分のそれを擦り寄せてくる。少しだけ癖のある葉の前髪が、額に触れてくすぐったい。

「ちがうよ。ようがぼくのことすきすぎるだけだよ」
「まぁ、そうなんだが」

…否定しないのか。
さらりっと告げた葉に、ハオは内心そう突っ込んだ。反射的に葉を見つめれば、同じくハオへと向けられた片割れの眼差しと自分のそれがばちりと噛み合う。
不意に絡んだ視線に、ハオは僅かに目を見開いた。まさか、葉が自分を見つめているとは思わなかった。何気ない仕種だったからこそ、ぎくりとする。
なんだか、ひとりで寂しがっているような気分だった。
ひょっとしたら、あの幼い頃に葉も自分をこっそり見つめていたのかもしれない。それに思い至った瞬間、ハオの中はぐるぐると忙しなくなる。
照れ臭いというか、気まずいと言うか、何と言うか。
あーとか、うーんとか眉間にシワを寄せてうんうん唸る葉の傍らで、ハオもなんとも言えない気分になる。唸りたいのはこちらも同じだった。
出来るだけ平静を装って感情を吐露したハオに、葉はなんでもないことのように即答し、触れてみせる。

……自分からすれば、葉の方がよっぽどずるい。

ハオのそんな思考に重なる様に、葉の膝で寛いでいた三毛猫が二人に向かって甘く鳴く。
それはどこか、「自分のことも構え」と催促する様だった。



落花流水の情



つまりは、そういうことなのである。

===

つまり、ラブラブということです(笑)
12121hitキリリク、「葉ハオでハオが軽くやきもちをやく話」でした。
今回は可愛らしくとのことだったので可愛く甘めにまとめてみました。
葉ハオもかわいいですよね。
リクエストして下さった匿名さまのみお持ち帰り可です。
Web上に転載される場合は、検索避け済みの媒体(サイトやブログ等でのみ)転載可とさせて頂きます。
お手数ですが、その際にはサイト名の「ラブストーリーは突然に」、もしくは管理人名「穂純」の明記を宜しくお願い致します。

お待たせしてしまって申し訳ありません。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
リクエスト有難うございました。

2012.12.28

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