※小話まとめその5
学パロハオ葉でmemoからの格納と初出の計2本。


甘えたい日、というのがある。

「よう?」

こてん、と太股へ乗せられた頭に、ハオは小さく首を傾げた。ころりとした輪郭の丸い頭が、当然の様にそこへと陣取っている。猫が甘える様に額をすりよせてきた葉が、ハオの声に小さく顔を上げた。

「なぁに、ねこみたいなことして」
「にゃあ」

悪戯っ子の様な眼差しをハオに向けたまま、猫は可愛らしく鳴いて見せる。
その鳴き方も、本物の猫が甘える時に出す声とそっくりだった。甘えられた兄の方はと言えば、内心甘い溜息をつく。相手がそんな態度ならと、ハオも猫にする様に葉の顎裏を指先で撫でてやった。流石にゴロゴロと喉を鳴らしはしないものの、甘えたがりの猫はハオの膝の上で気持ち良さそうに瞳を細めている。
とんだ茶番だ。

「………どうしたの、急に。甘えたいの?」

ハオが少し癖のある葉の髪を指先で梳きながら問うと、甘い鳴き声がもう一度鼓膜を震わせた。すっかりハオの膝で寛いだ葉は、すりすりと嬉しそうに頭を擦り寄せてくる。そんな葉を見ていると、ハオはなんだかそわそわしてきた。胸の内側の薄い被膜を、指先でそっと摘まれて中を覗かれた様な。そんなこそばゆさが、身体の真ん中に堆積していく。

「……ぼくのねこは、随分甘えたがりだね」

ハオが困った様に呟くと、膝の可愛い猫は愛おしむ様にくすくすと喉を鳴らして笑う。次いで、葉を撫でていた手をじゃれる様に噛まれた。噛まれたとはいっても、そう強い力でもない。甘える様な、そして逆に甘やかす様な、そんな感触だった。
本当に、とんだ茶番だ。

「でも、いくら可愛いくてもねこにキスする趣味はないから、そろそろ葉に戻って欲しいな」
「なんだ、その理屈」

大真面目に言ったハオに、葉は思わずといった感じで吹き出した。
葉が声を上げて笑う度に、揺れた頭が僅かな振動をハオに伝えてくる。少し遅れてさらさらと揺れる髪が、太股を撫でてきて擽ったい。

「はお」

両頬へと伸ばされた葉の掌に逆らうことなく、ハオは上体を倒した。葉の腕が制服のワイシャツとハオの頬を滑り、するりと首裏に絡められる。膝に頭を乗せたままの片割れに軽く口づけたあと、ハオはぶっきらぼうに呟いた。

「……やりにくい」

むすっとしながら告げたハオの頬は、ほんのりと色づいている。照れ隠しなのはバレバレだ。
不愉快そうに歪んだ唇が、拗ねた様な甘い声音で「だから早く起きてよ」と呟く。そんな恋人に、葉は「甘えたがりだなぁ、ハオは」と言って、嬉しそうに笑った。



きみのためのぼく



甘やかされたい日、というのがある。

「よう」

目尻へと軽く触れたハオの唇に、葉は小さく口元を緩めた。
さらさらと肌を撫でていくハオの長髪がくすぐったい。柔らかい髪が肌を撫でる度に、嗅ぎ慣れた石鹸の甘い匂いが葉の鼻先を掠める。葉よりも体温の低いひんやりとしたハオの指先が、そっと頬を撫でてきた。その指先は丸い輪郭の頬をなぞり、緩やかに耳郭へと滑っていく。葉からも甘える様にハオへと擦り寄れば、額に柔らかく口づけられた。その淡い感触に葉がくすくすと声を上げて笑うと、赤茶の瞳が愛おしげに蕩ける。ハオがじゃれる様に葉の唇へと甘く噛みついた。それを受け止めながら、葉は愛おしむ様にハオの頭を撫でる。その途端、啄む様に細やかなキスを落とされた。

「よう、よう」
「んー…ふふ、はお」
「よう」

名前を呼べば、切れ長の瞳がとろりと甘く潤む。
その中に映り込んだ自分もハオと似た様な顔をしていた。その事実に、葉はこそばゆさを感じながらも淡く微笑む。忙しなく口づけてくるハオを捕まえて、今度は葉からキスをした。目尻や頬に軽く唇を寄せただけでも、ハオはくすくすと楽しげに声を上げて笑う。そんなハオの笑い声が耳に心地好くて、葉は仰向けに寝転んだハオの上へと覆いかぶさる様に身体を沈めた。すかさず肩へと回されたハオの腕に、小さく微笑む。

「よう」
「はお」

ハオの緩やかな心音が、合わさった肌から葉の中へと響いてくる。とくり、とくり、と僅かに揺れるそれは穏やかだ。その音が徐々に葉のものと重なり、一つになっていく。奇妙な程の安堵が身体を満たして、葉はぼんやりと意識を解けさせた。背中を一定のリズムで柔らかく叩いてくるハオの掌も、それに尚更拍車をかけていく。

「よーう?……ねむいの?」
「んー…」

さらさらと零れてきた葉の前髪を、ハオの指先が優しく掬う。頬へと触れる掌は温かい。じんわりと染み込んでくる体温が、葉の意識を端からゆるゆると解けさせていく。鼓膜を震わせる声音がくすぐったいのに、酷く心地好かった。

「よーう、ねるならふとんでねな」
「うぇー」
「いやなの」

不服そうな声を上げた葉に、ハオはくすくすと声を上げて笑った。
それに応える様に、葉はハオの頬へと額を擦り寄せる。猫が甘える様な葉の仕種に、ハオは笑みを浮かべたまま擦り寄せられた額へと軽く唇を寄せた。淡く響いたリップノイズに、葉がなんとも言えない顔をする。照れ臭い様な、困った様な変な顔だった。けれどそこに滲む仄かな喜色に、ハオはそっと口元を緩める。
ハオはそのまま身体を起こして、上に乗っていた葉ごとひっくり返した。
反転した視界にきょとんと目を瞬かせている葉へと、今度はハオがのしかかる。首元に顔を埋めると、葉の匂いが強くなった。

「おもてえ」
「がまんしなよ。ぼくだってがまんしたんだから」
「うぇえー」

葉の答えに、ハオは思わず笑ってしまった。声がちっともいやがっていない。
いつの間にか背中に回された葉の腕は、ハオの肩甲骨を辿るように撫でてくる。ハオが葉を真似して額を片割れの頬へと擦り寄せると、葉はかぷりと軽く耳朶を噛んできた。仕返しのつもりだろうか。それにしては随分甘い。
ハオは喉奥で笑いを噛み殺しながら、葉の顎裏に軽く口づけた。びく、とのしかかった身体が甘く痙攣する。それが悔しかったのか、葉が乱暴に髪を引っ張ってきた。

「いたいいたい」
「じごーじとくだ」
「失礼な。ようがその気なら合意の上だよ」
「…オイラはいいなんていってねえ」
「はいはい」
「きいてねえだろ」
「きいてるよ」
「うそだ」
「ほんと」

拗ねて尖った唇をあえて避け、むくれた頬に口づける。すると、一瞬恨みがましい目で睨まれた後に、葉から唇を重ねてきた。ギュッと閉じられた瞼が必死で可愛い。

「あー…なんか、どうでもよくなってきた」
「なにが」
「……いろいろ」

しみじみと呟いたハオに、葉が訝しげな顔をする。
眉間に寄ったしわすら愛しくて、ハオは笑いながらそこへ口づけた。途端、葉がへにゃりと眦を下げる。

「…はおのいうことは、ときどきよくわからんぞ」

そう言いながら指先同士を絡めてきた葉に、ハオは甘く笑った。

"ようだって分かってる癖に"。

そう思った。けれど、敢えてハオは口にしない。
濃密でとろりとした、甘い空気と絡められた指先に、その言葉は余りに無粋だ。身体の奥で燻る熱がある。けれどそれ以上に、今はこのままでいたかった。正確にはどうでもいいのではなく、「何でもいい」し「どちらでもいい」。
肌越しに伝わる体温。それがすべてだ。
そんな答えを口にする代わりに、ハオはもう一度、愛おしむ様に葉へと口づけた。

===

結局二人とも甘えたがりって話でした。

2012.12.13 memoから格納+初出

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