※小話まとめその4
学パロハオ葉でmemoからの格納と初出の計2本。
1本目(前半)にちらっといかがわしい表現があるので、苦手な方はご注意下さい。


めちゃくちゃにして欲しいなと、時折酷く思う。

それは肌を重ねた後、ハオと一つの布団にぬくぬくと包まっている時に思う事が多い。鼻先にある柔らかい長髪からする石鹸の匂いに混ざって、ハオの匂いがする。温もって混ざり合った体温のまま片割れに擦り寄ると、小さく笑われた。耳朶に触れた吐息がくすぐったい。そのまま、甘やかす様に髪を梳かれる。葉はハオと違って、髪の手入れなんてものを大してしていない。だからあまり指通りも良くないだろうに、ハオは良く葉の髪を触りたがった。髪の手入れに関しては、ハオからしょっちゅう小言を頂戴する。やれ洗い方がどうの、やれ拭き方がどうのと、葉にとってはどうでもいいことをハオは延々と語るのだ。
けれど、そんな時間も案外嫌いではない。
怒った様に、拗ねた様に、甘やかす様に、時には愛おしむ様に小言を言うハオが、葉は酷く好きだった。「じゃあやってくれ」と葉が言うと、文句を言いながらも嬉しそうに細まる瞳が好きだった。
混ざり合った体温の様に、ハオの言動が葉へと混ざって溶けていく。それは、愛おしいことだった。
以前よりも少しだけ指通りの良くなった自分の髪を、葉はこっそりと気に入っている。

「よう、ねむいの?」

ぼんやりしているとうっかり聞き流してしまいそうな柔らかい声で、ハオがきいてきた。
確かに、少し眠いかもしれない。否、多分眠い。ハオといるとき、葉は大概眠いのだ。ハオが受け入れてくれると知っているから、ハオの傍にいるといつの間にかくてん、と身体から力が抜ける。おまけに、ぬくぬくとした布団は心地好かった。ハオと一緒だからこそ、混ざり合った体温が尚更葉を眠くさせる。
葉が甘える様に額をぐりぐりとハオに押し付けると、軽い笑い声が葉の鼓膜を震わせた。はいはい、わかってるよ。そんな仕種で、ハオが葉の身体に腕を回す。汗が引いた肌同士がぺたりと隙間なく密着した。そうするとハオの匂いが一層濃くなって、葉の中はゆるゆると満たされていく。それと同時に、何だか酷く疼いてもくる。
その感触がもっと欲しくて、葉はまたハオにぐりぐりと額を擦りつけた。そうされたハオは、少しだけ困った様な顔をする。沈黙。暫くすると、宥める様に唇を撫でられた。そんなハオの指を葉が催促するようにがじがじと甘噛みすれば、赤茶の瞳が尚更困った様に揺れる。

「きょうは、もうだめだよ」

ハオは、相変わらず鼓膜を摺り抜けそうな声で喋る。
何がダメなのか、葉には良くわからない。受け入れる側の自分がハオを欲しいのだ。それなのに、ハオは何故かいつもダメだという。別に、もう一回くらいしたって壊れやしないのに。

こういう時は、めちゃくちゃにされたいと酷く思う。

それは、別にいやらしい意味だけではない。けれど、葉にはそれを上手く言葉にすることができなかった。できないからこそ、ハオには言わない。理性的な癖に変な処で動物っぽい思考のハオが、葉の言葉を誤解するのは解りきっている。別に、そう解釈されるのが嫌な訳ではない。例え葉がいやらしいだけの意味合いでそう告げたとしても、ハオは別段拒みはしないだろう。ただ、物凄くうろたえそうな気はする。それから照れそうな気もするし、酷く喜びそうな気もする。けれど、今の様に困り果ててしまうとも思う。きっとどれも正解だ。
けれど、そういう問題ではないのだ。
そういう部分とは別に、『これ』は葉にとってもっと様々な意味合いを含んだ言葉だった。きちんと相手に伝わる表現を見つけられるまで不用意に口にしてはいけない類の、大切な言葉だった。

「おねがいだから、そんなにこまらせないで」

ぼくだって、がまんしてるんだよ。
そう甘く掠れた声で囁いたハオに、葉の背骨がざわりと蠢いた。
困らせるつもりはなかったのだけれど、ハオは相変わらずダメだという。お互いに欲しがっているのにダメだというハオが、葉はやっぱり良くわからない。
けれど、それで良かった。
ちっとも意味は解らないけれど、そんなハオだからこそ葉は好いていた。恐らく、ハオの『それ』も葉の『これ』と同じで、不用意に口にしてはいけない類の言葉なのだ。お互い、相手に伝わる言葉を見つけられるまで決して口にしない。けれど、そんな日は永遠に来ないのだということも解っている。そういう類の言葉だった。それでも、酷く大切な言葉だった。愛おしい、言葉だった。
そして、口にしなくてもその言葉が相手に伝わることを、お互いに理解していた。

「よう」

葉の鼓膜をふわふわと撫でていたハオの声音が、急に輪郭を持った。

「はお」

だから、葉も小さく口を開いて、『それ』を音に紛れ込ませた。
ハオの指先が、するりと葉の頬へ滑る。キスでもされるのかと思ったら、ただ優しく頬を撫でられた。ひょっとしたら、自分の方がハオよりよっぽどいやらしいのかもしれない。
けれど、それも仕方のない事だった。葉はハオを好いているし、ハオだって葉を好いている。葉がハオにそんな気持ちを抱くのは、ハオがそういう眼差しで葉を見つめるからだった。

「よう」

こういう時、めちゃくちゃにされたいと酷く思う。
けれどそんな葉を、ハオは優しく腕の中に包み込んだ。ハオの匂いが濃密さを増し、お互いの体温が更に混ざり合う。どちらがどちらのものか解らない程、解けて溶けて融けていく。
だから、葉は何も言わずにハオを抱き返した。
不服ではある。けれど、不満ではない。
それは、葉がそんなハオを好きで堪らないからに他ならなかった。



熱が生まれるとき



「はお」

か細い声音に振り向いたのは、反射的なものだった。

「よう」

そして相手の名前を呼んだのも、無意識的な、習慣に近い行動だった。
開いた襖に、葉はぽつんと立っていた。立ち方はいつもと同じだ。けれど先程ハオの名前を呼んだその声の印象が、視界から捉えた葉の姿を酷く心細げな、不安定なものに見せた。
そんな弟の姿に、ハオは読書の手を止める。葉へと正面から向き直ったのは、これまた習慣的なものだった。直感、と言い換えても良いかもしれない。自分へと真っ直ぐ向き直ったハオに、葉はそろそろと近寄ってきた。そのまま、畳へと胡座をかいたハオの前に、ぺたんと座り込む。俯いたその目尻は、淡く色づいて濡れていた。とくりと跳ねた心臓に、ハオは一旦無視を決め込む。
黙ったままの葉に、ハオは声をかけようと唇を開き掛けた。けれど、それは葉のか細い声で遮られる。

「……ぎゅってして、いいか?」

ハオの心臓が、もう一度とくりと跳ねた。

「……どうして?」

数瞬の沈黙の後、ハオは静かに問い掛けた。
普段の葉ならば、わざわざこんなことを訊きはしない。葉は触れたくなれば、ハオの髪でも身体でも好きに触る。枕にだってする。もちろん、勝手にだ。そして、ハオも葉にそうする事を許していた。
それなのに、今日は何故わざわざ訊くのか。
そこに純粋な疑問を感じて、ハオは葉に問い返した。しかし、葉は俯いたまま口をつぐんでいる。

「………言いたくないの?」
「………」

ハオがそっと確認すると、葉は一度だけ小さく頷いた。
そんな片割れに、ハオは暫く逡巡する。
こういう時の葉は、少々扱いが難しいのだ。

「……わかった。いいよ。……よう、ぎゅってして?」

悩んだ末に、ハオはそう口にした。
『おいで』でも『抱きしめて』でもなく、小さな子供の様に口にしたのは、葉に合わせたからに他ならない。それを口にするのは、正直気恥ずかしかった。それでもハオがどうにか告げると、葉の腕が自分へと伸びてくる。
こてん、とハオの肩に頭を乗せ、葉は片割れの背に腕を回した。

「……よう、ぼくも…その、ぎゅってしても、いい?」

問い掛けたハオに、葉はこくこくと何度も頷いた。
葉に許可を得たハオは、そっとその背中に腕を回す。細いのに、硬くて筋張った背中だった。宥める様に肩甲骨を掌でそっと撫でると、ハオの肩に鼻先を埋めていた葉が緩く吐息をつく。すりすりと首筋に頬を擦り寄せられて、ハオはそっと安堵した。どうやら、ハオから触れるのは構わないらしい。葉の仕種から察するに、それはどうも歓迎されているらしかった。ねだられている、という方が的確かもしれない。

「よう」

だから、ハオはそっと葉の髪を撫でた。
頭の形を辿る様に、指先を髪へと滑らせる。ころりとした丸い頭だった。撫でるのは少し楽しい。ぴょこぴょこと跳ねた毛先を弄ぶと、片割れは擽ったそうに小さく頭を振った。

「はお」

葉は、相変わらずか細い声でハオを呼ぶ。
鮮やかなオレンジ色のヘッドフォンが、ハオの頬へと無遠慮に当たる。それを付けた葉は好きだけれど、今は少しだけ邪魔だった。葉へと簡単に許可をとってから、ハオはその鮮やかなオレンジを取り払う。唯一の色味が無くなってしまうと、葉はモノクロになった。葉がハオに与える温もりだけが、葉は葉なのだとハオに示している。

「はお」
「なぁに、よう」
「はお」
「よう」

ハオの問いに、葉は答えない。
ただハオの名前を呼び続ける。だから、ハオも無駄な質問はやめて、ただ名前を呼び返した。すると、嬉しそうに葉が額を擦り寄せてくる。だから、ハオは愛しくなって、そんな葉をそっと抱き返した。ゆったりとしたリズムで、お互いの心臓が鼓動を刻んでいる。

「はお」

不意に葉からキスを求められて、ハオは少しだけ驚いた。
けれど、それも一瞬だ。軽く口づけると、葉がまたすりすりと擦り寄ってくる。どうやら、お気に召して頂けたらしい。
だから、ハオは葉の耳朶にも柔らかく口づけた。けれど、葉は小さく頭を降って唇から逃げる。どうやら、これはお気に召さなかったようだ。基準が良くわからない。

けれど、それで良かった。

わからなくて、ままならなくて。
それでも葉が自分を選んでくれるなら、それだけで良かった。

「よう」
「はお」

ハオが名前を呼んで抱きしめる腕に力を込めれば、葉の腕も応える様に力を強めてくる。
柔らかな体温、呼吸。そして、淡く重なる鼓動。
足りないものは、なにもない。
根拠のない充足感に満たされながら、ハオは口元を緩める。葉の表情は見えない。けれど、その口元もハオのものと同じ様に微笑んでいる。
そんな気がした。

===

不服と不満が同じ意味なのは承知の上で、あえてニュアンスの方を重視して使っています。ご理解の上、お目こぼし頂ければ幸いです。
何て言うか学パロハオ葉は二人の世界過ぎて、書いている私すらたまに置いてけぼりです。

2012.12.13 memoからの格納+初出

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