※学パロ
ポッキーゲーム小話。短いです。


「葉、これなーんだ?」

ハオが楽しそうに笑いながら掲げた、赤い箱。
それを目にした瞬間、葉は小さく溜息をついた。
…またか。
飽きれ半分、感心半分でそう思ったのは否めない。何故かこの兄は、他人と話す時常に遠回りをしたがる。葉が相手だと、それは特に顕著だ。本音を隠すのが癖になっている。そう言い換える事が出来るのかもしれない。けれど自分から隠す癖に、本心ではその隠した部分を暴かれたいとも思っているのだろう。まるで宝探しをするようにハオが仕掛けてくる戯れは、唐突で理不尽だ。提示された僅かなヒントを元に、隠したモノを当ててみろと要求してくる。ハオの言動が突拍子もないのはいつもの事だが、毎度となるといい加減疲れるなぁと、葉はぼんやり思った。
しかし、なんだかんだでそんな風に複雑なハオも好いている。
そう思ってしまう辺り、どっちもどっちなのかもしれなかった。

「………ポッキー、だなぁ」

諦め混じりに、葉は求められた答えを口にした。
それはつまり、ハオに対する葉の応えでもある。「遊んでくれ」という言外の要求に、「是」の返事をしたのだ。怠惰な甘さを含んだその言葉に、赤茶の瞳が嬉しそうに細まる。

「じゃあ、別の質問。今日は何月何日?」
「………11月11日」
「そう。じゃあ、今日とこのお菓子の関連性は?」
「………ポッキー&プリッツの日…」

ご明答と、ハオは葉の答えに甘く笑った。
葉へと伸ばされたハオの掌が、ぽんぽんと軽い調子で頭を撫でてくる。幼い子供を褒める様なその仕種は、葉にとってなんだか気恥ずかしい。こうして葉を随所で甘やかしたがるのも、ハオの癖の一つだった。

「…それで?だからどうしたんよ」
「ポッキーゲームしようよ」

呆れ混じりで問う葉に、ハオは予想していた通りの答えを口にした。
その一言で、予想は確信に変わる。恐らくハオが望んでいるのは、葉が導き出した答えで間違いないだろう。相変わらずハオは面倒臭いなぁと、葉は愛しさ混じりに思う。その感情の半分は呆れ交じりの溜息に変わり、もう半分は意味のない遣り取りの延長として唇から零れた。

「………男同士でして楽しいんか、それ」
「僕は葉となら楽しい」
「………そうか」

あっさりと答えたハオに、葉は羞恥と嬉しさが混じりあった複雑な気分になる。
ここでいきなり真剣な声を出すのは卑怯だろう。そう思いながらも、葉は言葉を返すしかない。
でも、そんなハオも好きだ。だからこそ、余計に複雑でもある。

「食べる順番葉からね、はい」
「…オイラ、チョコの方食いてぇ」
「えー僕だってチョコの方食べたいのに…じゃあ半分に折って、チョコがついてるところでやるか」

ふむ、と頷いたハオは、葉の答えを聞く前に言葉を行動に移した。ぽきん、と軽い音を立てて折られたポッキーを、ハオの赤い唇が咥える。何気ない仕種のはずなのに、葉はどきりとした。柔らかい赤と、はっきりした黒のコントラストから目が離せない。

「ん」
「………ん」

そんな葉の戸惑いを知ってか知らずか、ハオは何でもない事のように葉の方を向いた。
当然、そこにはハオが咥えたポッキーの先端がある。何だか、妙な気分だった。いやに忙しない鼓動を持て余しながらも、葉は差し出された菓子の先に軽く噛み付く。すると、ハオに視線だけで早く食べろと促された。仕方なくかりこりと少しだけ食べて、動きを止める。暫くの間はお互いに菓子を咀嚼し、飲み下す音だけが淡々と響いた。これは、ポッキーを半分に折っておいて正解だったかもしれない。1本分もこんなことをしていたら、言い出しっぺのハオの方が葉よりも先に飽きるに違いなかった。
もう、唇が触れ合うまで1センチもない。
葉がそうぼんやりと思った瞬間、ハオの右手が腰に回り、不意に引き寄せられた。

「ん、ッ」

制止する間も与えずに、ハオの唇が葉のそれに深く重ねられる。
口内へと潜り込んできた舌先に葉が形ばかりの抵抗をすると、ハオの左手が葉の右頬に添えられた。腰を抱く右腕の力も強くなる。身体を横から抱きしめる様に密着させられ、そのまま上向かされた。上から覆いかぶさる様に、ハオからキスをされる。さらさらと肩から零れてきた長髪が、葉の肌を掠めてくすぐったい。葉からもハオの首に腕を回してキスに応えるのと、ハオの舌先が小さく小さくなった菓子の破片を葉の口内から攫うのは同時だった。けれど、キスは終わらない。当たり前だ。元々ハオが望んでいたのは、こちらの方なのだ。

「ん、ッ…」

ハオとのキスは、何だかいつも唇から食べられている様な気分になる。
好き勝手に口内を荒らされながら、葉は頭の片隅でぼんやりと思った。ハオの唇は、一見葉と同じで薄い。けれどキスをすると、ぱくりと上から覆われているような、そんな感じがする。何でだろうなぁと葉はいつも不思議なのだが、生憎そう悠長な事を考えていられる状況でもない。こちらだけ見て僕のことだけ考えていろと、ハオのキスは言外に要求してくるからだ。

「――僕の勝ち」

漸く唇を離されたと思ったら、ハオが満面の笑みでそんな事を言い出した。
そもそも、どうしたら勝ちだとか負けだとか決めてないだろう。
荒い呼吸の合間に、葉は飽和した頭で思った。けれどその言葉は結局音にならないまま、葉の喉奥へ唾液と一緒に飲み込まれていく。そもそも葉自身、ポッキーゲームのルールなんて知りはしない。端から菓子を食べ合うのはなんとなく分かるけれど、具体的に何をどうしたら勝ちなのか負けなのかはさっぱりだ。恐らく、ハオもそうだろう。否、この片割れの場合、ひょっとしたら遊びのルールくらいは知っているかもしれない。けれど、葉がそれを知らないのは確実に分かっているのだ。ハオはそれを理解した上で葉にこんな戯れを仕掛け、葉もそれを解っていながらハオの提案を受け入れる。そうすることでハオが喜ぶのを、葉は知っているからだ。そしてハオも、葉が全てを解った上で自分を甘やかすのを知っている。
結局、どっちもどっちなのだ。

「……うぇー…マジか。お前、変な事させようとか思っとらんよな?」

葉が態とそう口にすると、ハオは嬉しそうに笑った。
それは遠回しに、「甘えて良いぞ」と告げる台詞だったからだ。

「……変な事、なんて言わないさ」
「本当かよ」
「うん」

頷くと同時に、ハオがそっと瞼を閉じる。
やっぱりそれかと、外れなかった予想に葉は甘く苦笑した。たったこれだけのことを言うのに、コイツはどれだけ遠回りをするんだ。そう思わないでもない。それはハオの仕掛けてくる戯れと同じく、何処までも唐突で理不尽だった。けれどそんなハオのことさえ、やはり葉は好いている。この不器用で隠したがりの、酷く面倒な片割れを心底好いているのだ。

「……オイラからちゅーして欲しいんなら、さっさとそう言えよ。ばぁか」

ハオに軽く口づけた後、葉は照れ混じりに告げた。
その瞬間、ハオが甘く笑う。隠れんぼをしていて「やっと見つけてくれた」と喜ぶ様な、そんな笑みだった。



探しものなら目を閉じて



それでも見つけてくれるって、信じてるんだ。

===

精神的に葉ハオなハオ葉が好きすぎて生きるのが辛いです。
ハオさまも葉くんも可愛すぎる。

2011.11.11 初出
2011.11.28 memoから格納/加筆修正

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