Hello my friend 水片聖



(中略)

「は?ペンギンを……拾う?」
 堪らずトキヤは音也に聞き返してしまう。普通では到底考えられない事柄だった。
 ペンギンの種族によってはレッドデータとして危惧されているものもあるというのに。そんな生き物を、捨て犬や捨て猫と同様に拾ってくることなど、とても有り得る話では無かった。
「そんなこと、ある訳ないでしょ」
「でも、本当のことなんだよ」
 音也の話によると、このペンギンは段ボールの中に収められ、捨てられていたらしい。
 彼がそのペンギンのいる段ボールを見付けたのは、昨日の夜。バラエティー番組の収録を終えた、帰り道だった。最初は彼も子犬か子猫だと思ったようだ。このままでは可哀想だから、飼い主が見付かるまで世話をしてやろうと、道端に置かれた段ボールへと近付いたのだが、何時もと様子が何処か違っていたようだ。聞き慣れた鳴き声が聞こえない。そっと段ボールを覗いてみると、その中にこのペンギンがいたのだという。
「昨日は雨が降ってたし、そのままじゃ可哀想だったから。それに、この子が助けを呼んでいたんだ」
 この子が助けを呼んでいたから。
 これは音也の、口癖だ。
 学生の時から、音也には収拾癖に似たようなところがある。捨てたれた子犬や子猫を見付けると、そのようなことを言って連れ帰ってしまうのだ。音也がこのようになった原因は、幼少時代の出来事が関係している。自分には家族と呼べるような存在が居たけれど、この子たちにはいないから。だから、家族になれる人を見付けてあげたい、力になってあげたいのだ。と、音也が自分に告げたことがあった。
 そうやって彼が連れ帰った動物たちは、同じ寮に暮らす友人たちに手伝って貰い、どうにか飼い主を探してきた。
「それで、このペンギンも捨て犬や捨て猫と同じように、貴方は飼い主を探してあげるつもりですか?」
「うん」
「……音也」
 トキヤは眩暈を覚え、堪らず溜め息を吐き出した。
「犬や猫じゃないんですよ?そう簡単に飼い主が見付かるとは、到底思えません。いっそ、水族館に引き取って貰った方が手っ取り早いと感じないのですか?」
「それはダメだよ!」
「何故、ダメなのです?」
 水族館ならペンギンが快適に暮らしていける設備が、十分整っているではないか。
「だって、それはこの子が嫌がってるから」
「貴方は、ペンギンの言葉が分かるんですか?」
「分からないよ。でも、嫌だっていうのは、俺にも分かるんだ」
「何を根拠に?」
「俺の勘だよ」
「貴方の勘?そんな曖昧で不確かなもの、私は信じられません。水族館に引き取って貰うのが嫌なら、元いた場所にそのペンギンを戻して来なさい」
「嫌だ!」
 腕の中に収めたペンギンをぎゅっと抱き締め、頑なに首を縦に振ろうとはしない。
「猫や犬とは訳が違うんですよ。貴方はまたそうやって、友人に迷惑を掛けるつもりですか?」
「飼い主は、俺が責任を持って見付ける」
「では、見付かるまではどうするつもりなんです?」
「それまではちゃんと俺がこの子の面倒を見る!」
「本当に?」
 そう訊ねたら、音也は力強く頷いた。



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