Present from friends 香月伊吹



(中略)

「もう、それはマサの分だろ。ぺんやも喉が乾いてたの?」
「クェ〜」
 ペンギンを膝の上に抱え上げ、音也は人間の子どもにするように視線を合わせて叱る。
「うん。わかった。今マサに水貰うからさ。気づかなくてごめんね?」
「クェ〜」
「うん、そうだね。でも、勝手に人の分取ったら駄目だよ。わかった?」
「クェ〜」
「そう、わかればいいんだ。ぺんやに悪気があったわけじゃないのは、俺もわかってるからさ」
その上、明らかに音也はこのペンギンと会話をしているように見える。この数か月でそろそろ見慣れてきた光景ではあるが、何度見てもシュールではある。
「マサ、悪いけどぺんやにも水貰える?」
「あ、あぁ……」
 見慣れているはずのトキヤですらそう感じるのだから、そうではない真斗にしてみれば尚のことだろう。唖然とした表情で音也とペンギンを見つめていたが、その言葉に慌てて深めのボウルに氷を浮かべた水を用意してくれた。
「……すまなかった。忘れていたわけではないのだが」
「クェ〜」
 ペンギンに向かって、真顔で謝るあたりが、真斗の面白いところだ。
 ペンギンの方は特に気にした様子もなく差し出されたボウルに顔ごとくちばしを突っ込んで水を飲んでいる。やはり冷たい水は好きなようだ。
「マサ、ありがとね」
「いや、礼には及ばん」
 にこにこと音也が礼を述べると、真斗は真面目な表情で水の入ったボウルを音也に渡した。やはり慣れた人間の手からの方が良いだろうという気遣いらしい。
 そう言えば、彼は実家で犬を飼っているのだったか。動物に対する気遣いは、その経験からくるものだろう。
「聖川さん、すみません」
「気にするな。俺もこういう生き物を間近で見る機会はなかなか無いしな」
 言葉通り、真斗はしげしげと水を飲むペンギンと音也を眺めている。
「そうですか」
 何となく、真斗がペンギンに触りたがっているように見えて、トキヤはどのタイミングで声をかけるべきかと少し考える。慣れない人間に触られるのは生き物にとって多大なストレスではあるらしいが、ここには自分も音也もいるし、真斗はこのペンギンに警戒をされるような行動はとっていないから、問題はないだろうと思う。
「大昔に、ペンギンは足に特殊な仕組みがあって、その仕組み故、氷の上でも平気で立っていられると聞いたことがあるのだが」
「あぁ、ペンギンは足の先まで身体に流れる温かい血液が循環するように、太い血管が通っているらしいですよ。それで氷の上でも霜焼けにはならないとか」
「……ふむ。あいつもたまには本当のことを言うということか…。しかし、その理屈だと冷たいところでは平気でも、熱い場所では人間と同じように火傷をしてしまうのではないか?」
「……まぁ、確かにそうですね……」
 無意識らしい独り言については触れずに、トキヤはペンギンの足を見る。
 あれだけ調べたにも関わらず、結局このペンギンの種類はわからなかった。
 最近はもう種類の特定は諦めて、ワシントン条約に抵触するような種類でないことだけ祈っている。
種類の特定はできなない為、本来は暖かいところを好む種類なのか、涼しいところを好むのかさえ確証が得られず室温の管理をどうすべきなのかがやや不安の種ではあるが、連日三十度を超えるここ数日の猛暑でも元気そうにしていることから、暑さに弱い種類ではなさそうだと思う。低気温でないと生きられない種の場合、徹底した低温の温度管理が出来る設備が必要となるから、音也とトキヤでの保護どころか引引き取り手を探すことだってままならない。だから、この点だけは運が良かったと考えるべきだろう。
「よし、ちょっと待っていろ。今、いいものを作ってやろう」
 トキヤの沈黙をどう受け取ったのか、真斗はペンギンを見つめて暫く考える様子を見せていたが、ふと立ち上がると棚から編み棒とサマーセーター用であろう綿の編み物用の糸を取り出した。いくつかの糸を見比べて色を吟味すると素早く編み始める。
「……聖川さん? 一体何を……」
「マサ、何か作るの?」
「クェ〜」
「この大きさなら、一時間もあれば出来るだろう。悪いが少し待っていてくれ」
 一時間もあれば、一体何が出来上がるのだろうか。



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