猫ごっこ 8
『……っ!!!!』
キス、したのか?
頭の中が沸騰しそうになる。
一体なぜ!?
「はい、お仕置き完了」
スザクが嬉しそうに俺の鼻をちょん、とつつく。
馬鹿な…!
今のがお仕置きだというのか!?
何か間違っているぞ、スザク――!!
「やっとおとなしくなったね、ルル。いい子だ」
…確かに効果は抜群であったようだが。
宥めるように、頬をそっと撫でられる。
でも、おかげで胸が焼けるように熱い。
まさか、こんな形でスザクとキスをするなんて思ってもみなかったし…。
しかし、熱く感じたのはそれだけではなかった。
体中が、熱い…。
『なん、っだ…。苦し、……?』
はぁはぁと急に息が乱れる。
体温が、異常なまでに上がっていく。
「ルル…?どうしたの?」
スザクの声が聞こえるが、目が霞んでよく見えない。
『ス、ザク…』
声を出そうとしても、それは音にすらならなかった。
変だ。
俺は、おかしくなってしまったのか?
体が動かない。
それなのに、熱さと苦しさだけが俺を容赦なく襲う。
ドクン。
全身に、大きな痛みがほとばしる。
それと同時に、体中の熱が一気に引いていくのがわかった。
徐々に、呼吸も整ってくる。
ぼんやりしていた視界も、ゆっくりと鮮明さを取り戻していた。
――今のは、なんだったんだ?
俺は、一体…。
しかし、それはすぐに理解することになる。
「ルルー、シュ……?」
スザクが、目を大きく見開いて俺の名を呼んでいた。
ルルじゃなく、はっきりルルーシュと。
どうしたんだスザク。
そんなに驚いて俺のことを見て。
そしてようやく俺は。
自分の身体の違和感に、気付く。
細長い五本の指。
肌色の肌。
俺、は。
俺は、人間の姿に戻っていたのだ。
急にスザクと目線の高さが合わさる。
先程までそうしていたからか、自分の顔にはスザクの手のひらが当てられたままだった。
俺は固まっていた思考を、必死で働かせようとする。
なんで?
どうして俺は元に戻った!?
それも、こんな…。
最悪のタイミングで!
スザクに見られた。
ばれてしまった。
俺が、さっきまで猫だったということ。
しかも、それを利用してスザクに近づいていたことも…!
絶体絶命とはこのことだ。
絶対に嫌われた。
俺のこと、好きだって言ってくれていたのに!
もう終わりだ。
ここから逃げてしまいたい。
だが、俺はもっと大変なことに気付く。
自分が、服を着ていなかったのだ。
今まで猫だったので、当然のことながら何も身につけていなかった。
全裸で相手の布団にいるというだけで、十分すぎるほど変態じゃないか…!!
俺は恥ずかしさで堪らなくなる。
顔面に、またさっきの熱が集まってきているような気がした。
…死にたい。
泣きそうな顔を隠して、俺は布団から飛び出した。
早くこの部屋から出なければ。
早くスザクの前から消えなければ。
俺は久々に動かす二本の足を、必死に走らせた。
だが、すぐに後ろから腕を掴まれ、あっさりと停止させられてしまう。
「待ってってば、ルルーシュ!」
「…離せ、スザクっ!」
「そんな格好でどこに行くつもりなの!」
「……っ」
俺は改めて自分の現在の状態を思い出し、言葉に詰まる。
「う、うるさい!俺のことはほっといてくれ…っ」
これ以上恥ずかしいところを見られたくなくて、腕を振りほどこうとする。
しかし、
「…そんな格好のまま、君を外に出せるわけないじゃないか!」
後ろから羽交い締めにされてしまい、余計に身動きがとれなくなる。
肩の上から回された両腕に、ぎゅっと力がこめられる。
「ほっとけるわけ、ないじゃないか…」
掠れた声で耳元で囁かれる。
なぜか自分よりも余裕の失われたその声に、俺はいつの間にか抵抗することも忘れてしまっていた。
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