最後、だとか、 ――見つけた。 姿が見当たらないと思って探していた、見慣れた茶色い頭をようやく見つけた。茜色に染まる講義室で、机にうつぶせるようにしてグースカ寝ている。らしいといえば、らしいけど、やっぱり、迂闊過ぎると思う。 もう講義も終わって、冷房なんかついていない講義室は幾ら窓を全開に開け放していても、蒸し暑いことには変わりなくて、こんな中でよく眠れるよな、と思ってしまう。 広い講義室にたった一人で居眠りしてるボンヤリに近づく。一つ手前の席、一段下の席に座る。……ほんとによく寝てる。さて、こんなとき、よくあるパターンが頭に浮かぶけど、どうしたものかな……。 窓から射す夕日がボンヤリの髪を照らして、輪郭を金色に染めている。こんな色を見ると、うっかり郷愁に誘われる。出逢った頃のこと。一番最初に出逢った日のこと。それから、高校最後の日のこと。あの日から、もう、3年。あの海辺で出逢い直してからは5年。一番最初に出会ってからは、もう、随分長い間。出逢えたんだ。まるで、何かの魔法に引きずられる様にして。 机の上に手を置いて、体を支える。古い木製の机が小さく音を立てた。あかりは目を覚ます気配が無い。随分静かに眠っている横顔に顔を近づけた。 最初のキスは約束のキスだった。また出逢うための約束の。幼い頃に何度も聞いたおとぎ話をまるで再現するように。子供の約束だ。でも、子供なりに、そこには切実な思いがあったはずだ。 ただの偶然なのか、それとももっと他の何かがあるのか、それは分からないけど、約束は叶った。二度目のキスは……意見が分かれるところだけど、出逢い直したばかりの頃の例のアレはノーカウントにしておく。一応。だから……二度目は、あの卒業式の日、灯台で交わしたものになる……と、思う。初めのキスはまた逢うために。二度目は、これからのために。 前の席に座ったまま、机に片頬を預けているあかりの顔から顔を離した。本当に触れるだけのキス。あかりは目を覚まさない。キスで目を覚ます? それはまた別の話だろうと思う。魔法なんて、あの卒業式と再会を果たした高一の春の二度でもうたくさんなのだし。それにそもそも、まだ多分、魔法の途中なのだろうし。 確かめよう、と言った。灯台で。二度目のキスを交わした時に。二度目のキスの魔法が何を起こすのか、何を起こしているのか、今はまだ分からない。いつか、分かる時が来るのかな。そのときが最後だなんて、思いたくはない。だって、 「……あかり」 ボンヤリの頬にかかった髪を指先で払ってやる。少し指先がかすったのか、軽く身じろぎした。いい加減、起きるかな。起きてしまうかな。それでも構わない。だって、もう何度も何度も魔法を繰り返している心地なのだから。 あの日から続いている日々の延長線上、その先に、これからもずっとおまえがいてくれたらと思う。魔法も何も関係なく、そのためになら、何でもするし、何でも出来ると思う。あの日、俺はもう手を離さないと言ったのだし、おまえも頷いてくれたのだから。だからとりあえず、そろそろ起きてくれないかな、と思う。こんなところでいつまでも寝てる訳にもいかないだろうし。海辺に流れ着いた、白い貝殻にも似た耳元に唇を寄せて囁いた。 最初、だとか (110808) back / next index |