不安しかないよ、どうして笑えるの

 いつも笑ってる気がした。そういう印象。流石に、本当にいつも四六時中笑ってばかりいる訳がない。それでも真っ先に思い浮かぶ顔は例の、笑っている顔だったから、堪え切れず苦笑してしまう。どうして、あんな風に笑えるのかなと不思議に思う。いつもいつも笑顔で、いつの間にか、傍にいて、そうすると、何故だか安心して。あの笑顔が好きだった。……好きだったのに、あの笑顔を向けられると辛くなったのは、いつからだったろう。そんなこと、改めて思いだそうとしなくても、よく分かっていた。分かったところで、波立つ気持ちを落ち着かせることも、出来はしなかったけれど。海鳴りが酷い。もうじき、この場所にあいつが来る。あの夜から一月近く。ずっと考えに考えて、準備して、心に決めたことを打ち明けるつもりだった。そうしたら、あいつは驚くだろうか、悲しむだろうか……泣いたり、するのかな。それとも全部違って、笑ったりするのかな。あっさり笑顔でサヨナラ、とか。たまに読めない反応をしてくる奴だったから、その可能性も捨てきれない。けれど、そんなことになったら、きっと耐え切れない。けれど……。瞼を閉じる。一時的な暗闇がやってきて、そこに見慣れた笑顔が浮かぶ。三年前の春以来、見慣れた笑顔。それを手放すのが、惜しい。辛い。それでも、言わなくちゃいけない。さよならだって。伏せた瞼の裏で、好きだった笑顔がゆらゆらと揺れる。


[2011.05.01]

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