はじめたことを、終わらせたかった

 はじまりは春のこと。ずっと、そう思っていた。けれど、そうじゃなかった。今さら気がついても、きっともう、手遅れなんだと思う。灯台の欄干に手を置き、そこから見える景色に目を細めた。夕日が眩しい。それはあの日と変わらない光景だった。
 茜色の夕日。照らされて金色に輝く海、悲しいおとぎ話、打ち消すように、約束してくれたこと。全部覚えているのに、記憶のあの子が彼だと気づかなかった。今日、ここに来るまで。
 ――最初でも途中でも、もっと早く気がついていたら、何か変わったのかな。これも、今さらなこと。「会いたいな……」冬以来、遠く離れてしまった人のことを想う。また、会いたい。思うだけで、何もできずに、ここまで来てしまった。――終わらせなくちゃ。小さく呟いて、それでも去りがたくて、茜色に染まる海を眺めていた。ようやく心を決めて振り返ったとき、遠く離れてしまったはずの、懐かしい人の声が鼓膜を震わせた。


[2011.04.30]

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