サンドイッチの話 (*ヒーローたちの幼少時ねつ造妄想です。ご注意です) コウの家は何もかもアメリカナイズされていた。親父さんの趣味だ。演歌よりもオールディーズ、味噌汁よりもスープ、トヨタカローラよりも古い外車、あるいは、バイク。そうでなければ、coolじゃねぇ、という訳だ。最初は面食らった。もちろん。 そんなコウの家じゃ、おにぎりの代わりにサンドイッチが定番だった。しかも、それには並々ならぬこだわりがあった。 「うまいサンドイッチには何が不可欠か、分かるか? ルカ」 いつかの日曜日の朝、台所にはみんなが集結していて、父さんは乾いた布巾で丹念にまな板をぬぐっている。母さんは、その横でサンドイッチに挟む具材をこしらえていて、コウはボールでマヨネーズをかき混ぜ、俺はレタスの水気を布巾で吸い取っていた。みんな、それぞれに割り当てがあった。 ごつくてデカい背中ごしに「分かるか?」と聞かれたものの、どう答えたらいいのか分からない俺は、斜め横に座ってガチャガチャとマヨネーズをかき混ぜているコウの顔を見た。コウはどこかウンザリとしたような顔をしていて、「またその話かよ」とぼやいている。“また”。俺の知らない“家族”の共通の話題。俺が知るはずのない話。 それは仕方ないことだと自分に言い聞かせて、顔を伏せた俺の足をコウが軽く蹴った。コウは菜箸を持ったまま何かジェスチャーをしている。右手を前に後ろに引いて、動かして、まるで、何かを切るような仕草……。 「ナイフ?」 思わず呟いたら、それまで背中を向けて作業していた父さんが、いきなり振り返って、 「よく分かったじゃねぇか、ルカ!」 とデカい声で言った。 別に答えを答えた訳じゃなくて、コウの妙な仕草を見たせいで、つい、口にしてしまっただけのことなのに、そんなこと、父さんには関係ないみたいだった。 「うまいサンドイッチには、よく切れるナイフが必要不可欠だ。どんなに良い材料を集めても、これがないと始まらねぇ。いいか、よく覚えておけ」 そんな講釈が続く。 俺はコウの顔を見た。ヒーローブラックは素知らぬ顔でガチャガチャとやかましくマヨネーズをかき混ぜている。その日の午後のことはよく覚えていて、今でも鮮明に思いだせる。顔を伏せて自分の仕事に没頭するコウの仏頂面と、ラシュモア山みたいにデカくてごつい父さんの背中、俺たちのやり取りをクスクス笑いながら聞いていた母さん、うまいサンドイッチに必要不可欠なアイテム…………あっという間に、家族の会話に巻き込まれたみたいで、少しくすぐったい気がしたことも。 2011.05.10(幼少妄想パートワン。コウちゃんちのお弁当の定番品について。ねつ造もいいとこで申し訳ありません……) << >> [HOME] |