みんなでおひるごはん(後)



「そういえば」と琉夏くんが不思議そうにわたしの顔を見つめる。その口元にはケチャップごはんが一粒くっついていて、取ってあげたいなあと思う。何となく、気恥かしくて言い出せないでいたけど。

「今日はなんで、ごはん作りに来てくれたの?」
「え?」
「俺ら、今週おまえから誘ってもらったとき、断ったでしょ。他に用事があるって考えなかったの?」
「それは……」

琥一くんも琉夏くんと一緒にわたしを見つめる。何も言わないながら、わたしが突然おしかけた理由が気になっているみたい。ここに来た理由。それは、とてもシンプルな理由ではあるのだけど、こういう行動にでた原因はなかなか込み入っている。


* * *


現在の状況を、今までのあらすじ風に言うと、こんな感じになる。
本当なら会う約束をしいなかった日曜日のお昼。食生活の心配が付きまとう男兄弟2人の家に押しかけて、3人でワイワイと賑やかにお昼ごはんを食べている。
その発端というほどでもない発端は、その週の前の日曜日にかけた電話だ。このところ毎週のように3人で会っていたのに、その日の誘いは断られてしまった。琉夏くんが言った通り、何か他に用事があるのかな、と思わなくもなかったけれど……。少し思うところがあったので、次の日、学校で直接訊いてみた。割とストレートに。

「琉夏くん」
「ん? なに、美奈子」
「あのね。もしかして、お金ない?」

確か2人ともそろそろお給料日だったはず。つまりまだ、お給料は手元に届いていない。そして今は月末。
果たして、琉夏くんは沈黙してしまった。

「………………」
「………………」
「……美奈子」
「うん、なに?」
「アメちゃん、食べる?」

ポケットから取り出したらしい、飴玉のカラフルな包みが琉夏くんの手のひらに乗っている。差し出された手を、手で押し戻して言った。

「はぐらかさないで」

琉夏くんは困ったように眉尻を下げて、少し笑って見せた。

「大丈夫。少し忙しいだけ」

――大丈夫。
男の子が、こんな風に“大丈夫”と言って笑う時は要注意だ。大抵の場合、あまり大丈夫じゃなかったりする。

心なしか、いつもよりフワフワ感が増している気がする琉夏くんの背中を見送りながら、思った。――もしかしたら、おせっかいかもしれない。でも、いつか聞いた2人の食生活を考えると、いてもたってもいられなくなった。何かの足しになればいい……これだって、どこか押し付けがましい考えなのかもしれないけれど、でも、何か、わたしに出来ることがしたかった。

つまり、これが事の経緯。かいつまんだ、今までのあらすじ。


* * *


「だって……」
「だって?」
「心配だったから……」
「心配?」
「琉夏くんと琥一くんが、ちゃんとごはん食べてないんじゃないかって。お腹すかせてるんじゃないかなって、考えたら、他のことなんて、手に着かなかったんだもん……」
「…………」
「…………」
「な、なに? 二人とも……」

すると、目の前の二人が盛大に吹きだした。おかしくてたまらない、と言う風に声を上げて笑う。ひどい! とわたしは憤慨してしまう。

「ひ、ひどいよ! 二人とも! 何がそんなにおかしいの?!」
「…………ご、ごめん。だって、美奈子、まるでお母さんみたいなんだもん。言い方」
「お、お母さん?」
「『ごはん食べてないんじゃないか〜』って、ほんっと、母親みたいだ」
「……本気で心配したんだから! 笑うなんてひどいよ」
「ごめん、ごめん……でも、おかしくってさあ」
「ま、俺らがもっとしっかりしろって話だな」
「だな。ごめん、美奈子。今日は来てくれて助かったよ。本当は全然お金なかったんだ」
「やっぱり……」
「来週になったら、バイト代も入るしよ。また来週ここに来いよ。今度は俺らがもてなしてやる」
「えっ、いいよ! そんな!」
「遠慮しなくていいから。もう知ってるかもしれないけど、コウの料理ってすごくうまいんだ。マジで。だから、来週もウチでごはん食べよう?」
「おい、おまえも手伝うんだぞルカ」
「いいけど、俺、ホットケーキしか作れないよ?」
「わたし、ホットケーキ好き」
「よし、じゃあ来週はホットケーキパーティーだ!」
「今日、あれだけ食っといて、来週も食うのかよ……」

ワイワイガヤガヤ、琉夏くんと琥一くんと、三人でこうして一緒にいる時間が好きだ。それは、もうおぼろげな記憶になってしまった、小さな頃から。みんなは怖いって言うけど、わたしにとって二人の印象は変わらない。見た目こそ随分変わってしまったけど、わたしにとっては一貫して、優しい、楽しいあの頃の男の子たちだ。
見送りは良いって言ったのに、二人とも玄関まで送ってくれた。帰り際、琥一くんはバツが悪そうに小さな声で言った。

「その、今日は心配かけて、悪かった」

わたしは「ううん」と頭を振る。わたしはただもう、本当に二人のために何かしたかっただけ。笑顔が見たかっただけなんだよ。

「じゃ、美奈子、また来週!」と琉夏くんが手を振る。わたしも大きく頷いて、手を振る。

「うん、また来週!」

――また来週、三人でおひるごはん食べようね。きっと、その方が楽しいし、おいしいよ。きっとだよ。




2011.05.10
(おしまい!)
(3人兄弟妹みたいにワイワイしてればいいじゃない!)

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