花送り



(*赤城くんとデイジー)
(*大変な矛盾点がありますが、どうか寛容なお心で目を瞑ってください)
(*失恋レストランしてますので御注意ください)





君と僕が進む道は平行線。決して交わることがない。
多分、もう、という話。
これは独り言だけど。





「わたしの知ってるお話とは違うような気がする……」と彼女が言う。
「それはそうだよ」と僕は答える。「学校が違うからね」

僕らは、他校の制服姿の学生で賑わうファーストフード店のテーブルで向かい合って座っている。話題の新商品は期待外れで何とも言えない味をしている。それでも、この奇をてらったハンバーガーのおかげで彼女とまた会えたのだから、文句は言わない。

僕の返答に彼女は、ふう、とひとつ息をついて椅子に背をもたれさせる。天を仰ぎ、ため息と一緒に台詞を吐く。

「さすが、はば学生」
「それは関係ないだろ」
「関係あるよ。はば学は王子様とお姫様。対する羽学は? 人魚と若者。ね、全然違う」
「君が何を言いたいのか、よく分からないな」
「身分が全然違うよね」

小首を傾げるようにして、彼女は言う。黒目がちの瞳でそんな仕草をしたせいか、小動物のように愛らしい。小動物、だって。何を馬鹿なことを。彼女はこんなに可愛らしくて魅力的な、人間の女の子だというのに。

「驚いたな」彼女を真似て僕も椅子に背をもたれさせる。

「君、そんなことを気にするんだ」

彼女はムッとしたように眉間に力を入れる。すぐ感情が面に出る女の子。初めて出会ったときから、その印象は変わらない。今回もそう。

「トゲのある言い方」
「君が言い出したんだ」

片や、王子様とお姫様。それははば学に伝わるおとぎ話。王子様は「必ず迎えに行く」とお姫様に約束をし、お姫様は約束の場所で彼を待ち続ける。

彼女が通う学校に伝わるおとぎ話は人魚と若者のお話。海に帰ったかわいそうな人魚と、人魚を探しに海へ船を漕ぎだした若者の哀しいお話。

どちらのお話に共通すること。それはお話の中の二人がどうなったのか、誰も知らないということ。そうして、どちらのお話もそれぞれの学校で、ちょっとした伝説になっていること。いかにも高校生の女の子が好きそうな、ちょっとしたジンクスだ。卒業式の日、まるでおとぎ話のように運命の二人がめぐり逢う――といったような。

違っているのは、場所。ちょっとした細部。教会と灯台。おおまかなお話の流れは共通していても、交わることのないお話たち。

そんなことは関係ないんじゃないかな、と僕は彼女に伝える。どうして、と彼女が不思議そうに問いかける。

「簡単な話だよ」と僕は頬づえをつく。彼女は身を乗り出してテーブルに肘をつく。

「あるところに、離れ離れになってしまった恋人たちがいました」

愛し合った二人は、何らかの理由で離れ離れ。よくあるお話の通りに。
そうして、お話の決着点は、こう。

「いろいろありましたが、結局二人は幸せに暮らしました」

めでたく再会を果たして。
お互いの想いを口にしあって。
そうして、めでたしめでたし。

「それでかまわないんじゃないかな?」

そう僕は君に伝える。君は、きりりと眉をコイル巻きにして、考え考え、口を開く。

「そうなのかなあ?」
「そうじゃないかな」

そのまま目を伏せ難しげな顔をしていた彼女が顔を上げる。ふっと眉間に入れた力をゆるめて口を開く。

「でも、それはとても素敵なことだね」

例の、僕の胸を温かくする笑顔で、彼女はそんな風に肯定の言葉を寄越す。そして、その返答に僕が異論を抱くはずもない。





桜芽吹く某日、何となくの期待をかけて向かった古い建物の扉は開かない。固く閉ざされたドアのノブから手をはずして、空を仰ぐ。天を仰いで、ため息と一緒に台詞を吐きだす。

「……やっぱりダメか」

直に夕焼け色に染まりそうな空を見上げて、彼女は今頃どうしているのかな、と考える。この3年間、初めて出会った頃からずっと同じことを考えていた訳ではあったのだけれど。
彼女は今頃、自分の場所で、あの海で、誰かと幸せに笑いあっているのかもしれない。あるいは、そうではないのかもしれない。出来ることなら前者の可能性を望みたい。幸せそうに笑うあの子の隣りに自分がいないことは胸に痛いけれど、少なくとも悲しそうにしているよりは、いいかな、なんて。

いずれにせよ、僕らのお話が重なり合うことはもう望めそうにない。

未練がましく、夕日に光る教会のステンドグラスを見つめる。そこには王子様とお姫様の物語が描かれている。……結局、王子とお姫様は出会えたのだろうか。お話の結末は、めでたしめでたしで締めくくれるものであることが望ましい。せっかくならね。

瞼を閉じて、思い浮かぶのは彼女の顔だ。目を伏せて、至極幸せそうに笑う。「何を笑っているの?」と僕は彼女に訊いてみる。「あのね」と彼女は伏せた睫毛を持ち上げ、悪戯っぽく笑う。内緒話を打ち明ける子供みたいに密やかな声で、こんな風に囁く。「似たようなお話があるんだよ」僕は「へえ」とだけ返す。「聞きたい?」と彼女は笑顔のまま続ける。「聞きたいな」と僕は返す。そうして、彼女は彼女のお話を語り始める。

瞼を持ち上げると、そこは母校の敷地内で、誰もいない。夕日に包まれた幸福な思い出も霧散する。数少ない彼女との思い出。この場所に彼女がやってくる結末は果たしてあり得たのかな、なんて、埒もあかないことを考えている。我ながら、あんまりにも感傷的に過ぎる。こんなのはらしくないな、と頭を振る。けれど今日ばかりはこんな風に感傷にふけることを自分に許して、誰もいない教会の前で、思い出に浸っている。あと、もう少しだけ。



スペシャルサンクス⇒千谷野さま


[2011.04.12/memo再録]
赤城くんとデイジーが互いの高校に伝わるおとぎ話(伝説)を知ってしまっている点が、もうね、どうしようもない矛盾点です……。ホントごめんなさい><; 
赤城くん攻略のきっかけを下さった千谷野さんに(一方的に)捧げ隊。

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