29.秋



「秋だね」
「秋だな」
「食欲の秋だね」
「おまえは、いっつもそれだな」
「他に何があるの?」
「いや、いろいろあるだろ。スポーツとか、読書とかさ……」
「そっかぁ」
「そっかぁ……っておまえ……。ああでも、ホントもう秋か……」
「あれれ、佐伯くんセンチメンタル?」
「まあな。もうそろそろ一年終わるんだなーって思うと、ちょっと考えちゃうよな。秋が来て冬になって、そしたら、もう卒業だ」
「……そうだね」
「早く高校なんか卒業したいって思ってたのに、変なんだ。最近」
「佐伯くん……」
「今こうして一緒にいるけど、来年とか、俺たちどこで何してんのかな……」
「……………」
「……悪い。らしくないな、こんな話」
「佐伯くん」
「ん?」
「来年の秋も一緒にここに来よう? 今みたいに一緒に並木道を歩いて、それで、去年はあんな話してたんだ〜とか、思い出話しよう? それから、思い出話と同じくらい、ううん、負けないくらいたくさん思い出つくろう?」
「あかり…………あのさ、来年の話をすると鬼が笑うって諺知ってるか?」
「……知ってる」
「鬼に笑われるぞ?」
「いいもん。……それで佐伯くんが笑ってくれるなら」
「俺は鬼か」
「そ、そういう訳じゃないけど……」
「おい、そこで目逸らすなよ」
「いやあの、つい……」
「あかり」
「なに?」
「約束。きっと、そうしような、来年も」
「……うん、約束」
「……ああ、約束」


たくさん約束をした。
吹けば飛んでしまうような脆い関係も、そういう約束があれば、繋がっていられると信じたくて、わたしたちはたくさんの約束を交わした。
交わした約束の数だけ思い出も増えていく。きっと、これからも、ずっと。



2011.04.22
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