あかりと二人でスキー場に来た。何気に今年初スキーだ。ところで、気になっていることが一つ。 「おまえさ、スキーは? どうなんだ?」 「わたし、全然滑れないの」 「全然って、おまえ……そういうことは来る前に言えよ……」 「あ、瑛くん上級者コース行ってきていいよ?」 「……ひとりで?」 「うん」 「おまえはどうすんだよ」 「わたしは下の方で遊んでるから。雪だるま作りたいな!」 満面の笑みでそう言った。俺も笑顔を返すと、一層へらりと笑った。その無防備な笑顔におなじみのアレをお見舞いしてやる。 「痛っ!」 「アホかおまえは。ほら、一緒に上行くぞ」 「で、でも、わたし、滑れな……」 「教えてやるから! 行くぞ!」 折角一緒に来て別行動なんてしてたまるか。逃げ腰になってるヤツの手を引いてゴンドラに向かった。 ○ そうして、懲りずに今年二度目のスキー。またあかりが誘ってきた。 「今日の雪質、結構、いい感じだな」 「だね!」 「だろ」 満面の笑みでニヤニヤしてる顔に頷きを返す。雪質もいいし、天気もいいし、今日はまさにスキー日和だろう。 「じゃあ、雪だるま!」 「………………」 またかおまえは。 「痛っ!」 「あとでおまえを雪だるまにしてやる。とりあえず、滑るぞ」 「で、でも〜〜〜」 「行くぞ!」 性懲りもなく渋る天然ボンヤリの手を掴んでゴンドラに乗り込む。ここまで来て雪だるまって何のつもりだ。どれだけ空気が読めないんだ。そこではたと気づいた。そういえば前回も言ってたよな、雪だるま。「ホントに滑れないのに〜」と隣りで嘆くボンヤリのつむじの辺りを思わず見つめた。 ○ そうして三度目。 「雪質いい感じだな」 「……うん」 「なあ、一個いいか?」 「なあに?」 「そんなに雪だるま作りたいのか?」 「………………うん」 ため息。 「分かった」 「て、瑛くん、あの……」 「今日は付き合ってやる」 「えっ?!」 初回からずっと言い通しだった“雪だるま”。最初はふざけてるのかとまともに受け取ってなかったけど、どうやら目の前のボンヤリ女は本気で雪だるまを作りたいらしい。三度目にしてようやく分かった。毎週のようにスキー場に通っていたので、そろそろ飽きてきたというのもあったし、今回くらいは付き合ってやってもいいかなって。 「瑛くん、そんなに大きくしたら持ち上げられないよ?」 「バカ、おまえ、これくらい持ち上げられるだろ、普通に」 「ええー、ホント?」 「ホントだよ。見てろ」 「わっ、すごーい!」 ――さすが男の子だね! とあかりは満面の笑みで言う。初回から雪だるまのこととなると、いつもこの笑顔だ。……そんなに好きか雪だるま。実際に訊いてみた。 「なあ。そんなに好きなのか? 雪だるま」 「えっ?」 スキーより雪だるまが好きなのか。なら、そういえばいいじゃないか。いや、言ってたのか。でも、何だかバカみたいじゃないか、こんなの。せっかく一緒に来たのに、別行動とか、せっかくの雪山なのにスキーしない、とか。……互いの好みがてんで見当違いの方向を向いてるのを思い知らされるとか。そんなの、居たたまれないし、面白くない。 「ねえ、瑛くん」 思いのほか柔らかい声で名前を呼ばれた。我に返ってあかりの顔を見る。声の通り、微笑んでいた。 「雪だるまが好きなのは本当だよ」 「ああ、そう……」 「でもね、今日こんなに楽しいのは瑛くんが一緒だからだと思うんだ」 「…………」 「一緒に作れてよかった」 そうして満面の笑み。こいつってズルイよな。俺が逆立ちしても言えないようなことをさらっと言えてしまう。 「ね、雪だるまに顔書いてあげようよ」 「顔? どうやって」 「こういうこともあろうかと、炭を用意してる訳です」 「用意っておまえ……」 そんなこんなで、スキー場のふもと、ゲレンデ近くで小さいガキ共に囲まれながら雪だるまを作ったけど、何故か楽しかった。あかり曰く、二人で一緒に作ったから、らしいけど、あながち見当違いな指摘じゃない。 「なんか、ガキみたいにはしゃいじゃうな」 「日常を離れられるよね」 目の前には非日常的にバカでかい雪だるま。雪だるまなんて、何年ぶりだ。今回はスキーはなしだったけど、取りあえず二人で過ごせたし、まあ、いいかなって思わなくもない。 2011.03.04 (*好きです、スキー場2回目の印象最悪会話。雪だるまってかわいいなあもおお) (*何と言うか、イベント改変もいいとこですが、どうかご寛恕いただけたら嬉しいです) <-- --> |