21.お弁当



「とりあえず、お米? パン?」
「米が食いたい。朝、いつもパンだからさ」
「そっか。じゃあ、お米だね。おにぎりでいい?」
「オッケー」
「中身のリクエストは?」
「別に何でもいいけど……」
「そういうのが一番困るんですけど」
「じゃあ、サケ」
「うんうん」
「あとはー……タラコ」
「焼く? それとも生?」
「焼いたヤツ」
「はいはい、なるほど」
「なるほどって何だよ。あ、あと、昆布もいいよな」
「渋いなあ。佐伯くんの好みをリサーチしてるの」
「渋いって何が」
「昆布が好きって」
「昆布は別に渋くないだろ。言っとくけど、佃煮にしたヤツな」
「分かってます。じゃあ、おかず。何が良い?」
「からあげ。つーか、おまえは? 自分で食べたいヤツとかないの?」
「わたし? えーと、じゃあ、たまごやき」
「定番だな。エビフライ」
「佐伯くんこそ。ポテトサラダ。そうだ、緑もほしいね」
「そうだな。緑色のものか……」
「うーん」
「菜の花、とか。ちょうど季節だし」
「菜の花?! お花食べるの?」
「いや、食べるだろ? えっ、おまえ食べたことないの?」
「えっ、ないよ? ……うん、多分」
「ウソだろ。ゼッタイ知らないで食ってるんだって。よくおひたしとかにするだろ」
「そうかなあ……あるのかなあ……」
「ある。ゼッタイ」
「……そこまで言い切るなら、佐伯くんが作ってよ」
「そういう問題じゃないだろ」
「だって、絶対に佐伯くんの方がわたしより料理上手だもん」
「だから、そういう問題じゃないって言ってるだろ」
「じゃあ、どういう問題なの」
「それは…………察しろよ、バカ」
「バカじゃないです」
「っていうか……あーもう、そうじゃないだろ!」
「わっ」
「来週日曜、森林公園、一緒に行くんだろ?」
「う、うん……」
「弁当作って花見、するんだろ?」
「うん……」
「ケンカしてる場合じゃないだろ?」
「……うん。そうだね」
「だろ」

――来週、楽しみだね! と、あかりが笑いかけてくる。さっきの諍いもすっかり忘れたような顔で。そうだな、と頷きを返す。つまらない言い争いで水を差したくはない。ただし譲れないものもある。言わないけど。言えないけど。だって恥かしすぎて。――好きな子が作ってくれた弁当が食べたい。それだけが理由だなんてことは。


2011.03.07
春の森林公園でピクニックデートな二人。
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