「とりあえず、お米? パン?」 「米が食いたい。朝、いつもパンだからさ」 「そっか。じゃあ、お米だね。おにぎりでいい?」 「オッケー」 「中身のリクエストは?」 「別に何でもいいけど……」 「そういうのが一番困るんですけど」 「じゃあ、サケ」 「うんうん」 「あとはー……タラコ」 「焼く? それとも生?」 「焼いたヤツ」 「はいはい、なるほど」 「なるほどって何だよ。あ、あと、昆布もいいよな」 「渋いなあ。佐伯くんの好みをリサーチしてるの」 「渋いって何が」 「昆布が好きって」 「昆布は別に渋くないだろ。言っとくけど、佃煮にしたヤツな」 「分かってます。じゃあ、おかず。何が良い?」 「からあげ。つーか、おまえは? 自分で食べたいヤツとかないの?」 「わたし? えーと、じゃあ、たまごやき」 「定番だな。エビフライ」 「佐伯くんこそ。ポテトサラダ。そうだ、緑もほしいね」 「そうだな。緑色のものか……」 「うーん」 「菜の花、とか。ちょうど季節だし」 「菜の花?! お花食べるの?」 「いや、食べるだろ? えっ、おまえ食べたことないの?」 「えっ、ないよ? ……うん、多分」 「ウソだろ。ゼッタイ知らないで食ってるんだって。よくおひたしとかにするだろ」 「そうかなあ……あるのかなあ……」 「ある。ゼッタイ」 「……そこまで言い切るなら、佐伯くんが作ってよ」 「そういう問題じゃないだろ」 「だって、絶対に佐伯くんの方がわたしより料理上手だもん」 「だから、そういう問題じゃないって言ってるだろ」 「じゃあ、どういう問題なの」 「それは…………察しろよ、バカ」 「バカじゃないです」 「っていうか……あーもう、そうじゃないだろ!」 「わっ」 「来週日曜、森林公園、一緒に行くんだろ?」 「う、うん……」 「弁当作って花見、するんだろ?」 「うん……」 「ケンカしてる場合じゃないだろ?」 「……うん。そうだね」 「だろ」 ――来週、楽しみだね! と、あかりが笑いかけてくる。さっきの諍いもすっかり忘れたような顔で。そうだな、と頷きを返す。つまらない言い争いで水を差したくはない。ただし譲れないものもある。言わないけど。言えないけど。だって恥かしすぎて。――好きな子が作ってくれた弁当が食べたい。それだけが理由だなんてことは。 2011.03.07 春の森林公園でピクニックデートな二人。 <-- --> |