揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

可愛い顔した攻めはいいです。


 いよいよ日曜日。私は丸井くんと切原くんと、丸井くんの叔父さんがやっているテニススクールに来ていた。
 なんと、コートを1面貸してもらえることになったそうだ。しかも、私の分のラケットとシューズどころかウェアまでも借りられるように交渉してくれたらしい。レンタルしたら高いんだろうなあと金額を気にしていた私にとってはかなり有り難い話だ。この間、コピックを買いまくって金欠だったから本当に嬉しい。

「苗字先輩、テニスウェア似合いすぎ!ちょー可愛いッス!!」

 私よりも遥かに可愛い笑顔で赤也くんが褒めてくれる。

「そう?ありがとう。見合うほどテニスできないのが残念だけど……」
「俺らが教えるから大丈夫っすよ」
「なんでお前も一緒に教えることなってんだよ、俺が苗字に教える約束だっつーの」

 丸井くんはがしっと赤也くんの頭を掴んで髪をくしゃくしゃする。

「ちょっ何するんすか」
「赤也はとりまラケッティングでもしてろよな」

 え、ブン赤とかそういう感じですか?美味しいです……赤也くんも来てくれてありがとう……。丸井くんと2人じゃ会話が保てるか云々だけじゃなく、萌えをくれてありがとう……。だなんて心の中で密かに感謝。


「ってことで、まずは握り方から……」

 とりあえずは体育の授業でも聞いた基礎的なことから教えてもらった。とはいえ授業みたいにだらしなく聞くなんてことはしない。
 こちらが嘘をついたばかりに丸井くんは私のことを思って、自分の時間を割いてくれているわけだしね。

 でも、これを機会にテニスのことが少しでも分かればBL漫画にさらにリアリティを持たせられるんじゃね?って考えたら俄然やる気が湧いた。頑張ろう。
 結局、行き着く先はBLとか言ったら終わりだよ。


 そうして、そんなこんな丸井くんによる説明は進んでいく。

「もう少し足広げて腰を落として、重心を下に落とす感じ……できっか?」

 丸井くんが私の腰に手を添える。言われた通り足の幅を広げて腰を低くしてみた。
 なにこれキツイ!足の筋肉が……!私はつい足を伸ばしてしまった。

「あ、足が悲鳴あげてます……!丸井くん!」
「ははっ、普段は運動しねんだろい?」
「もちろん。でも今日は出来る限り頑張るよ」
「おう!んじゃ、とりあえずさっきの姿勢な」

 私は頷きながら何とかあの姿勢をし直す。いや〜やっぱりしんどいぞコレ。

「んーもうちょい背筋伸ばせねえ?」

 丸井くんは私の背中を軽く押した。そういえば見学してた時に仁王くんいつも猫背気味なのにテニスしてる時はシャキッとしてるなって感じた記憶がある。へえー。私の漫画の仁王くんいつでも猫背かもしれないぞ。


 そうして、1時間もするとだいぶ慣れて最低限くらいは打てるようになった。とはいっても丸井くんとか赤也くんが上手いこと私の手元にくるように緩い球を打ってくれているから、打ち返せるだけなんだけど。多分、普通のラリーはできない。

「あっつー、ちょっと休憩しようぜぃ」

 と、丸井くんが腕で汗を拭った。キラリと汗が光り輝いたように見えたのはイケメン効果なのか?ふむ、さすがすぎる。イマドキな爽やか男子は汗も絵になるんだね。

「冷たいジュースでも飲みたいね」
「そうっすね!」

 赤也くんが眩しい笑顔で同意してくれる。赤也くん天使。マジ天使。
 そして、3人で自販機のとこまで向かった。

「苗字ってジュースだと何好き?」
「何でも好きだけどねえ……うーん、今の気分ならPontaかな」
「オッケー」

 何がオッケーなんだ?って思った瞬間に丸井くんは自販機にお金を入れてPontaを押した。ゴトンと音を立ててジュースが出てくる。それを掴んだ丸井くんはそれをこちらに差し出した。

「はい、これやるよ」
「えっいいよいいよ!自分で買うから」
「なんか一方的に約束取りつけちまったし、俺の遊びに付き合ってくれたお礼だって」
「で、でも、丸井くんは私のためにテニス教えてくれてるんだし、お礼しなきゃなんないのは私の方だよ!」

 私たちはお互いに説得し合おうとするが、2人とも折れない。丸井くんはふと何かを思いついたような顔をするや否、あろうことか冷たいその缶を私の首元に当てた。

「ひぃあ……っ!」

 驚きと冷たさで変な声が出る。私が後ずさって逃げようとしたら左手で腕を掴まれた。その間もずっと丸井くんは私の首に当て続ける。

 冷たい!割と冷たい!!

「ちょ、ま、丸井くん……っ!」
「受け取らねえとずっとこうだかんな」
「わかった、わかったから!冷たい!」

 首元にある缶を私が手に取れば、やっと手を離してくれた。丸井くんってこういう強引なところあるよね。やっぱりカップリングの場合、彼は攻めだ。うん、ブンニオとかブン赤とかいい。めっちゃいい。私は多分、可愛い顔した攻めが好きなんだな。幸村くんとか生徒会長の片倉くんもそうだよね。
 相変わらず腐った思考を巡らせながら貰ったジュースの蓋を開け、飲む。赤也くんがふざけて「俺にはないんすか〜?」とか聞いている。

「あるわけねえだろ」
「えー丸井先輩のケチ」
「あ?今日の遊びに入れてもらっただけでも感謝しろよぃ」

 丸井くんは肘で赤也くんを小突く。仲良いなあ。なんか男の子ーって感じの絡み合い方だ。
そういえば柳くんと仁王くんは全然違う感じだけど、こういうじゃれ合いする2人もちょっと見てみたいな。気持ち悪いからやめてくれ、って柳くんに言われちゃうかな?

******

 あれから1時間ほどテニスをした後は、スクール内にあるシャワーまで拝借させてもらって私服に着替えた。

 そして、丸井くんがお腹空いたと言ったので今はファミレスにいる。丸井くんは相変わらずいっぱい頼んでいたけど、私はそんなにたくさんはいらなかったのでミニパフェにした。赤也くんは焼肉定食だ。いつも食べるらしい。後で、こっそりメモしとこ。

「そういや苗字ってさ、絵描くの得意なんだろい?」
「得意っていうか、まあ絵を描くのは好きだよ」
「見てみたいッス!」
「でも今は描くものがないからねえ」

 普段のノートなんて見せられるわけもなく、私はペンも紙も今日は持ってきていなかった。

「んじゃこれに描いたらどーっすか?」

 赤也くんが手にしていたのは端っこに置いてあったアンケート用紙と鉛筆。そんなんに落書きしていいのかな?なんて思ったけど、いつもの可愛い笑顔でせがまれたので私は描くことにした。私って赤也くんに弱いな。

「うーん何描こ……」
「なんでもいいぜ、動物でも風景でも」

 おや、この感じは私が美術的な絵を描くと丸井君は思っている気がするぞ。漫画的な絵しか描けないぞ〜ん?漫画?
 あ!freedom!せっかく仁王くんが教えてくれたんだからあのキャラを描こう。

「あのー私、風景画とかはあんまり描かないんだ。漫画っぽい絵なんだけどいい?」
「まじで!?それもすげえよ!全然いいぜ」
「あのね、仁王くんから聞いたんだけどfreedom好きなんだって?」

 問いかけると、丸井くんより先に赤也くんが反応した。

「俺、めっちゃその漫画好きッス!」
「へえ、赤也くんも読んでるんだね」
「はい!おもろいっスよね!」
「うんうん、すっごく面白い」
「そういや苗字、5巻読んだか?」
「もちろん読んだ!塚本と二井岡がめちゃくちゃ良かった!!本当に!!!」

 つい私の口からはBLにおいて素晴らしかったシーンを思い出してしまってその2人の名を挙げる。塚二、なんて言わなかったのが救いだ。
 っていうか、私のテンションがいきなり上がったせいで丸井くんがちょっと驚いている。ああ!かなりオタクを押し出してしまった!!引かれているに違いない……orz

「あっ、えーっと2人とも読んでるならfreedomのキャラ描くね?」
「お、おう!じゃあ、塚本リクエストで」
「えー二井岡のがかっこいいっスよ」
「じゃ、じゃあ2人で」
「2人も描いてくれるんすか!?お願いしまーす!」

 頷いてしまったけど、BLじゃない2人の男とか全然描かないしポーズどうしたらいいかわかんないぞ!どうすんだよ!?困ったなあ。頭に浮かぶのは押し倒されてるやつとかハグしてるやつとかキスしてるやつとかなんだけど……どうしたらいいんだってばよ……。

 悩んだ末、普通に並んでいる姿を描いた。とはいってもアンケート用紙が大きくないことを利用して、顔を大きめで描いた。ポーズ取らせる必要をなくならせたのだ。

「ええ!やば!めちゃくちゃ上手いっすね!!」
「マジで上手い!天才的だろい!」

 二人がかなり興奮していらっしゃる。私はとりあえず「ありがとう」とお礼を言った。そこまではしゃいで上手だと言ってもらったのはリアルではたぶん初めてだよ。

「こんな用紙じゃなくてちゃんとした紙に描いて欲しいぜぃ。ってかさ、俺、絵を描くのが苦手なんだよ。次は苗字が俺に教えてくれね?」
「え?ま、まあ。私なんかでよければ」
「んじゃ、これから紙買ってフードコートにでも行こうぜ!」
「色も塗って欲しいっす!」

 とまあ、そんなこんな私は丸井くんと多分切原くんにも絵を教えることになったのだった。しかし、絵を教えたことなんてないんだけどどう教えたらいいんだろうね?

(~20180807)執筆

prev / next

[TOP]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -