揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

私の家はその辺、寛容です。


 夜の10時ごろ。今日は3人で通話じゅえるをしていたのだが、そのときに私は仁王くんに事情を説明して、“マサ”が仁王くんの弟であるという嘘をついてしまったことを言った。

『苗字にしてはまともな嘘をついたな』
「本当にヒヤヒヤしたよー。仁王くんもオタクって知られたくないんでしょ?」

 まーそうじゃな、と仁王くんは答える。でも、私と柳くんのオタクの輪には入りたかったんだよね?私の友達もオタクなんだけどそれは違うのかな。
 まあどこから噂が広まっていくかなんて分からないし知ってる人は極力少ないほうがいいのかもしれない。

「そうだ、柳生くんのことなんだけど……」

 柳生くんについての嘘も私は説明する。すると軽い調子で仁王くんは言った。

『ああ、それは嘘やないよ。柳生とは家族ぐるみで仲がええ。みーんな柳生のことが大好きじゃ』
『ほう、それは知らなかったな』

 という柳くんの後に続くように私は言葉を重ねた。ニヤニヤとしながら。

「ほーう、仁王くんも柳生くんのことが大好きなんだねえ、うふふ」
『いや、深い意味はないぜよ?』

 変な意味で取られて少し動揺している。ふへへ、余計にニヤニヤ収まらない。仁王くん可愛い〜!

「ふふっ、ごめんごめん、私の頭の中だと変換されちゃうから」
『俺の場合、その場にいたら2発は叩いているぞ』
『じゃったら次に会うたときに叩かんとな』
「え〜?仁王くんまで私に暴力人間になっちゃうの?マサくんひどいなー」

 なんて画面上で目に入った彼のネット上の名前、“マサ”で呼んでみる。最近、冗談でこうして呼ぶことがある。初めは柳くんにキモいって言われたけど、今日は言ってこないようだ。

『マサくんは女の子に優しいからのう、口で言うだけじゃよ?』
『学校ではかなり女子を遇らっているくせによく優しいなどと言えるな、仁王』
『んー、じゃあ名前ちゃんが特別なんじゃって素直に言っとくナリ』
「仁王くんが自分で素直って言った時はたいてい何かを装っている時だと私思ってるんだけど」
『本当ぜよ?』
『ますます怪しいな』

 私はくすくす笑う。話している間にもポチポチとゲームを進めた。
 召喚資材が溜まったので私は[召喚場]をクリックする。お目当はやはり現時点で最強のダイヤモンドちゃんと次いで強いアレキサンドライトだ。
 こい!こい!こい!と願いながら私は資材の数を選択する。

 画面に表示されたのは[10:00:00]

「うわあああああ!!!」

 私は衝撃のあまりそのまま椅子から落ちた。ダーンッ!と我が家に大きな音が響く。い、痛い……でもそれどころじゃない。すると、スマホから2人の声が。

『えらい音しよったけど大丈夫か?』
『椅子から落ちた確率、87%』

 私はスピーカーホンのまま机に置かれたスマホに腕を伸ばす。

「ね、ねえ、ダイヤモンドちゃんとアレキサンドライトの時間って……」
『『10時間』』
「やっぱりぃっっ!!きたこれ!うわあああっ!でたあああああ!!」

 ガチャ。

「あ、」

 ガッツポーズして喜んでいたら顰めっ面のお母さんが部屋に来た。

「うるさいわよ、名前!ドタバタするわ叫び回るわ」
「ご、ごめん」

 もうっ、と怒りながらお母さんは戻っていった。だって嬉しかったんだもん。あのダイヤモンドちゃんかアレキサンドライトだよ???私がずっと欲しかった!!!

 ってことで私は高速召喚資材を使用してさっそくお出迎えする。
 太ももあたりまである銀色のストレートの髪。透き通るような肌に儚げな表情。しかし、反して意志が強そうな瞳はキラリと輝いている。
 彼女の身長よりも長い杖の上部は大きな結晶からなり、立派なものだ。それは彼女の強さを表しているようだった。

 私は待ちきれない思いでクリックし、声を流す。

『私は、ダイヤモンド……。この力がお役に立てるというならば、あなたのために使いましょう……』

 無口キャラなので自己紹介は短い。この弱そうな女の子が最強とかいうギャップな!?可愛いな!?しかも強いんだぜ!?可愛いは世界を救うよな!?ってもはやキャラが迷子なくらい私はダイヤモンドちゃんを褒める。

『ダイヤモンドちゃんの方か、よかったのぅ』
「ありがとーほんと嬉しい」
『俺が出たのはアレキサンドライトだからな、俺もダイヤモンドがほしいところだ』
「わりと初期からアレキサンドライト持ってるだけいいじゃん」
『ダイヤモンドが出るに越したことはないだろう』

 なんて話しながら私たちはチーム戦をしたり個人戦をしたりしてじゅえる少女をプレイした。12時になると、柳くんはいつもどおりゲームをやめて通話から抜けた。
 そう、柳くんはこの時間になると通話じゅえるを終えるのだ。寝るためなのかいつもこの時間に何かをするためなのかは知らない。

「柳くんっていつもこの時間で抜けるよねー」
『名前ちゃん知らんのか?参謀んちは厳しいからの、この時間までもかなり慎重にやっとるようじゃよ』
「あーそのへん厳しいお家なんだ」
『パソコンとスマホにイヤホンを片耳ずつつ付けてるらしいのぅ』
「そこまで!?」
『ククッ、さっきの名前ちゃんみたいな騒ぎを起こせば禁止どころじゃ済まんじゃろなあ』

 まあ、さっきの騒ぎは柳くんちほどの家じゃなくてもかなり怒られそうなもんだけど……きっと私の家はその辺りがかなり寛容なんだろうなあ。私がどうしようもなくうるさいから。

(~20180803)執筆

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