揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

下手な嘘をつかなくてよかったです。


 病院から帰宅し、とりあえず安静にしろと言われた私がすることといえばゲームか絵を描くことくらいしかない。
 ベッドの上にパソコンを置いてじゅえる少女を開き、別のタブではツノッターを開く。ゲームをしたりツノッターを見たり手元に置いたノートに軽い落書きをしたりと、あれやこれやする。

 そして、16時を過ぎた頃だった。突然、こんな呟きがタイムラインに投下されたのは。

【速報】野菜ラーメン、水泳の授業で溺れて死にかける

 私は画面の前で唖然。

「は?」

 野菜ラーメンとは私のハンドルネーム、すなわち私である。確かに私は今日、プールで溺れたけど。
 さっと誰の呟きなのかを見る。「ZENZAI」であった。

「は?何で光が知ってるの?こわっ!」

 溺れる瞬間より怖い気持ちだよ!!
 とりあえず私は光に電話をかけた。時間からしてあっちも授業終わってるよね。

「ちょっと光!!」
『なんやねん、うっさいな』
「なんやねんはこっちの台詞だよ!何であんなツノートしたの!?」
『さっき柳さんから聞いたんや。ほんま名前アホやな、溺れるとか。だっさ』
「あのねえ、こちとら死にかけたんだよ!?お前の従姉妹が死にかけたんだよ!?」

 っていうか何ゆえ柳くんは光にそのことを言ったんだよ!もう!

 ふと先ほどのツノートを見れば、すでにリツノート数は32、いいぜ数は54になっていた。ネットで無駄に有名であり、そんな彼のイラストを担当している私もぼちぼち名が知れていたりする。ZENZAI経由で私をフォローしてる人もいるため、一瞬にしてこの界隈に私が溺れて死にかけた話が出回るのだった。
 ってか笑い事じゃないよ?マジで死ぬかと思ったんだよ?

『っは!柳さんいいねしたでw』
「もー!助けてくれたからせっかく心底感謝してたのに!」
『死なんでよかったやんww』
「いやいやそこ笑うなよ。ZENZAIは血も涙もないって言っとくから」

 そうして光は部活だというので電話を切った。
 その日のうちにニヤニヤ大百科の「野菜ラーメン」の記事に“水泳の授業で溺れて死にかける。なお、泳ぎは得意じゃないもよう”が追加されるのだった。
 光はたまにこうして私のプライベートなことを呟くので、そういった話も記事に書かれるのである。私にとっては迷惑極まりない。
 他に「クラスの男子に腐女子がバレた」とか「ドッヂで顔面にボールを食らった」などがある。そういやドッヂも柳くん経由だ。ほんと、あの野郎……立海ニュースにとどまらずネットに拡散するきっかけも作るとは……。
 というかネット民もそんなこと記事に書かなくていいからね?ネット上ではドジ説があるけど、リアルではドジじゃないから!運動できないのは認めるけど!!それはまた別の話!!!

******

 私としてはもう何ともなかったけど、あのお母さんが「大事をとって休みなさい」と言ってくれたので堂々と学校を休んだ。

『溺れたから念のために休んでいいと母上に言われたので野菜ラーメンは本日お休みです!イエーイ!』

 とツノートしたら日常呟きなのにいつにも増してリツノートといいぜがされた。昨日のうちに溺れたことが光のせいで広まってしまったからだろう。そのツノートには何件かリプがきた。

『もう何ともないだろう。サボりだな』
『ずるいナリ。俺も家でゴロゴロしたいぜよ〜』
『お大事にしてください!いつもイラスト楽しみにしてます!』
『は?それは自分を甘やかせすぎやわ』
『大丈夫ですか!?無理なさらないでくださいね』

 上から柳くん、仁王くん、知らない誰か、光、知らない誰か……である。私は基本的には人にリプしないし、されたやつに返事もあまりしない。もらったリプには全ていいぜを押して反応を示していた(とてつもなく物臭すぎる※自覚あり)。
 そのため、光はともかく柳くんや仁王くんに比較的に人より多く返事をしていたら、それが話題となってしまった。

 柳くんは何かネットで活動しているわけじゃなく「空蝉」という名前でごく普通にツノッターをしている。それなのに「マサ」と「野菜ラーメン」と「空蝉」はリア友なんじゃないか?という説がネットで浮上。間違ってないのが怖い。でも噂が立ってしまったものは仕方ないので私は気にせずリプする。

『本当にお母さんのお墨付きですー』
『じゃあマサくんも溺れてみたら?』
『いいじゃん。休める日に休んどかないと』

 と送った。次に返ってきたやつに私はリプしなかった。

 翌日、私が学校に行けば友達はみんな「大丈夫ー?」って声をかけてくれた。お互いツノッターも知っているけど、そこではあまりやり取りはしない。

 そして、昼休みのことだった。

「ねえねえ、名前」
「んー?」
「最近、ツノッターでよく絡んでる“マサ”って仁王くん?」
「ごふっ……!」

 口を押さえて間一髪、吹き出すことを回避する。私はお茶を飲みながら「どうして?」って聞く。動揺は隠しきれていない。

「だって最近よくリアルでも仁王くんと話してるし、マサの口調ってモロ仁王くんだし」
「でもあの仁王くんがオタクなんてことあるー?」
「仁王くんの下の名前って雅治なんだよ?」
「あー……いやいやでもさ、あの詐欺師の仁王くんがそんな単純に“マサ”なんてつけるかな?」

 私が落ち着こうとしている間にも友達は“マサ”が仁王くんであるかどうかの考察を続ける。正解だけど勝手に頷いていいのかわからないしな……。

「えっとね、最近たまたま知ったんだけど弟くんなんだって。勝手に名前借りられたって仁王くん怒ってた」
「あーなるほどね!だから声もそっくりで口調も一緒なんだー。じつは実況見たんだよね」

 うおお、下手な嘘つかなくてよかった。弟って言ってよかった。

「えっ、じゃあ仁王くんの弟くんと柳生くんて友達なんだ」
「う、うん…!柳生くん、仁王くんとは家族ぐるみで仲いいらしいよ」

 そういえば柳生くん実況に登場してたしーーー!!嘘が嘘を作ってまたさらに嘘ついてしまったーー!!
 これはすぐにでも仁王くんに事情を説明しないと。仁王くんに直接聞かれた場合にも辻褄があうようにしないとだよね。

(~20180802)執筆

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