揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

変態がいるんですが。


 それから、色々と事情を説明した。今までテニス部のメンバーでCPにして絵を描いたり小説を書いたりしていたことや、やり取りを見て萌えをいただいていたことなどを。

「苗字は腐女子だったのか」
「そうですー頭ん中が腐りまくってるんですー」
「ほう……苗字が腐女子だとは思っていなかったな」
「誰かに言ったら、ポニテフェチのこと広めるからね」
「もし、苗字がそのことをたった一人でも口外すれば腐女子であることを流すぞ」
「と、とりあえずさ、どいてくれない?」

 いつまで経っても退こうとしない柳くんに痺れを切らしてそう言えば、私の頼みなんて知らん振りしてノートをペラペラと捲り始めた。

「ちょっ、もう見ないで!」
「これは…」
「…え?そのキャラ知ってるの?」

 驚いたような表情で見つめれば、こちらを見つめ返してきた。そして衝撃的な言葉を口にした。

「知っているというか、大好きだ。」

 おっと、大好きですって。あの参謀の口から大好きだなんて言葉はかなりレアじゃありませんか。あれか、たまに見受けられるデレ…わぁお、萌える。意外にドSだった彼にも稀に可愛いところが…みたいな?やべっ…

こ れ は 使 え る

なんて考えているとバシッとノートで頭を叩かれた。

「何をニヤニヤしている。気持ち悪い」
「な、失礼な!ってか酷い」
「それはともかく、このページを切り取って貰って良いか?」
「…そんなに好きなんだ?…まあ、かまわないけど」
「ありがとう」
「あ、その代わりに早くどいてくれない?」

 柳くんはああと頷きながら私の上から退き、そのページだけを綺麗に破って満足そうな顔で絵を見た。

「やはり、一番可愛いな」

 何か、私の知っている柳くんと違う…こんなイメージじゃない。

 それより、些か説明が遅れたが、彼が大好きや可愛いなどと言っているこの絵のキャラクター。実はギャルゲーに登場するキャラクターで、勿論のことポニーテールである。そして、名前がなんと私と一緒で、名前というのだが、最初はびっくりして取扱説明書に載ってあるキャラ紹介を二度見した記憶がある。

「ってか、柳くんでもギャルゲーとかするんだ。意外…」
「むしろ女子の苗字がするほうが、とても意外なのだが」
「私、女の子が大好きなんだもん」
「………」

 うわぁ、何なんだこいつ…みたいな視線を送られ、慌てて補足する。

「レズとかそういうのじゃないからね!純粋に私は女の子が「分かった。とにかく女の子が好きなんだな」

 ああああぁぁ、もうっ!絶対にレズだと思われてる!柳くんみたいに言うなら、レズと認識した確率100%!!

「もう、いいよ……。そろそろ帰りますか…」

 踏み出した途端に腕を掴まれた。振り返れば、それはもうすごく優しい笑みで「一緒に帰ろう」と言ってきた。きっと他の女子なら目眩がするほど極上な笑顔なのだろうが、私にはぞわりと寒気がするほど、最悪な笑みにしか見えなかった。
 明らかに何か企んでいるような雰囲気に、口からはええっ…という言葉が零れた。すると、柳くんの閉じられている目がすうっと開いた。

「では、苗字は女の子大好き腐女子ということを言われたいか?」
「卑怯!柳くんのも言うよ!?」
「だが、バラされたくないから、一緒に帰ってくれるのだろう?」

 勝ち誇った笑みを見せつける彼に、私は盛大に溜息をついた。何だかこれからも大変になりそうな予感がする。


 それから、駅まで二人で歩いた。その道中の会話で分かったことがあるが、彼は正真正銘の変態だということだ。きっと周りにはそんな発言はしてないであろうが、この変態っぷりは尋常じゃない。

「…なんか、柳くんって残念なイケメンって感じだね」
「ほぅ、残念なイケメンか。顔は誉められているんだな」
「顔はね」
「苗字も顔はいいのにな」

 柳くんは少し苦笑混じりに呟いた。お世辞ではなく本心から言ったものだろう。

「友達によく言わるけど、どこがいいのか全く理解できない」
「男子の中でも可愛い女子という話題に苗字はでてくるが」

 そんな会話しているんですか。え、男子って、やっぱりそんなんばっかなのかな。

「女子だって格好良い男子の話をするだろう?」

 あ、確かに…ってか心読まれてんじゃん。ま、話さなくていいから楽なのか。でもそれってコミュニケーション的にどうなんだろう。

「苗字は物臭なのか?」
「うん、何でも面倒で済ませる」
「髪を結うのも面倒か?」
「かなり面倒。だって、朝から髪の毛をバッチリとセットしてくる女子の気持ちがわからない」

 流石に櫛で髪を梳くぐらいは私でもするが、ポニーテールにお団子、ツインテールだとか、よくもまあ、朝からやってられると思う。

「…そうか、ではそんな苗字に月曜日はポニーテールで来てもらいt「だが断る」

 きっと睨めば、鞄から私のノートを取り出した。

「このノートがどうなっても良いなら別だが?」

 ちょっと待てえぇぇぇ!何でノート持ってるの!?……はっ!…そういえば、さっき返してもらってなかった…。ちくしょうっ…一生の不覚!

「……下で結ったら駄目?」
「何を言っている。上で結うからこそのポニーテールだろう?そもそも、ポニーテールはアップにしたときに魅力が発揮される。一つにまとめたときのスッキリとした清潔感。その裏に潜むのは、髪が揺れたときにちらりと見えるうなじと、すうっと通った首筋。それが色っぽさを演出するのだ。そして、動く度に揺れるあの髪がなんとも可愛らしく、目が惹きつけられる」

 ああ、何かもう、この変態やだ。…何なんだこの人…ポニーテールは確かに可愛い子がしていたら萌えるけど、そこまで深く考えるものじゃないよ。ってか、うなじとか首筋って、明らかにアッチ系の目で見てない?ってかそんな目で見てたらセクハラっぽくない?

「そんな変態発言聞いた後にポニテとか出来るか!まず、自分で結えないし」
「なら、俺が結ってやろう」

 嬉しそうな笑みを浮かべて目を輝かせる柳。(開いていないけど雰囲気ね。)いつ私が結ってくれなんて言ったんだよ!

「してくれなくていいから。とりあえず駅に着いたしノート返して」
「フッ…来週の月曜日、昼休み生徒会室でな。…そうだ、ノートは預かっておこう。では、また」

 話を聞かない上に、勝手に事を進めた柳くんは改札口を通って行ってしまった。

「は?ちょ、柳くん!」

 生徒会室もちゃんと行って、ポニテもするから、ノートだけは…ノートだけは返してくれよ!…と心の中で叫んだ。本当なら、その場で柳くんの背中に向かって大声で言いたかったが、私にそんな勇気はない。
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