揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

隠し事は公開するもんじゃないです。


「……何で忘れるかなぁ…しかもあのノートやばいのに…私馬鹿じゃないの…」

 ぶつぶつと自分の失態に悪態を吐きながらも、私は教室のドアを少々荒く開けた。教室内はとても静かだったが、誰かいるようだ。自分の机に向かう際にちらりと視界に映ったのは、柳蓮二。立海テニス部が誇る三強の一人である。しかし、私はそこらのミーハーのようにテニス部にキャーキャー騒いだりしないので、教室で会って二人きりなろうと、ドキドキなど全くしない。あ、色んな意味でニヤニヤはするが、それは置いておき今はノートだ。

「はぁ…」

 無事にあった安心で溜息が零れ、胸を撫で下ろした。さあ、いざ帰らん!とばかりにそそくさと教室から出ようとしたときだった。肩がどんっと当たり、柳くんの手にしていたカバンが落ちた。そして、中身の物がバラバラと床に広がる。

「ごめ……んっ!?」

 私は二度見、いや、三度見した。何故ならそこにあったものは…

「柳くんってAK○48とか興味あったんだ…」

 そう、彼の有名なアイドルグループ・AK○48の画像である。しかも、全部の画像がポニーテールだった。

「ポニー○ールとシュシュね…」
「いや、誤解だ。俺はAK○48には興味はない」
「え?じゃあ、それは……」
「ポニーテールだ」
「は?」
「…しまった。聞かなかったことにしてくれ」
「え…ああ〜…ポニーテールが好きってこ…っ!?ちょ、いきなり目開けないで」

 急に開くものだから驚いて目を背けると、腕をがしりと掴まれた。

「もし、言いふらしてみろ。翌日に苗字の情報を全部、公開してやるぞ」

 私の情報って何だよ!まさか、アレも含まれているのだろうか。アレを言われたら私は死ぬ。世間体的に学校いられない…。
ま、まあ、柳くんのことは誰にも言わないが、その情報とやらが気になって仕方がない。

「い、言わないけど情報って?」
「それは秘密だ」
「…え……」

 本当に持ってんのか!嘘ついて脅してんじゃないの…!

「持っているぞ。ところで、聞きたいのだが」
「……何?」
「そのノートは……おい、何故いきなり後退る?」
「私、そろそろ帰らなきゃならないから」

 掴まれた腕を振り解こうとすると力が入った。鋭い痛みが腕に走り、私は顔を歪めた。

「っつ!…い、痛い…!」
「ノートを貸せ」
「柳くんってこんな乱暴な人だったなんて知らなかった」
「聞いているのか?貸せ」
「嫌!」

 何故なら、このノートには彼らの愛の物語が描き綴られているのだ。彼らの内の一人、柳くんに見せられるわけがない。
何とかノートを取られないようにするために、私は必死の思いでノートを持っている手を後ろにする。

「見ない方が身のためだと思う」

 だって、この中の柳くんは<ピーー>していたり<ピーー>だったり、文章ならもっとえげつなくて…<ピーー>とかさ…。流石に18禁までいかないけど公言できないくらい酷いんだよ。ああ、本人に見られるとか本当駄目、絶対駄目。しかもこのノート、運悪く柳くんが一番多いんだよ。

「そんなことを言われたら余計に知りたくなるだろう」
「いやいや、しょ、正気になるんだ、や、柳くん」
「俺は至って正気だ。だから早くそれを貸すんだ」
「あなたのためをね、思ってね、私はね…」

 私の腕を握っていない方の手をこちらに伸ばして取ろうとしてくるのを一所懸命に避ける。一所懸命って命がけみたいな意味だったと思うけど、これはマジで命がけだよ。
第二戦か三戦くらいを終えてじっと睨めば、柳くんは口元に弧を描いて微笑んだ。

「では、こうするまでだな」
「えっ、っわぁっ!」

 いきなり押し倒され、両方の腕を片手で拘束される。そしてノートに手をかけられた。

「ちょっ!見るなぁぁあああ!やめてぇぇえええ!!!」

 一見、この場面と台詞だけを聞けば卑猥な光景にも見えるが、ノート一冊を巡った、なんともよくわからない状況である。

「フッ…そんなに叫ぶほど、隠したい物なのか」
「そう!お願いだから、本当見ないでぇええっ!」
そこまで懇願されると見たくなるのだが

 うわあ、こいつ…サディストか…そうか…

「柳くんはS…いや、ドSだったのか!それなら、攻守交代…じゃなくて…」
「攻守交代?」
「何でもない!とりあえずどいて!」

 押し倒されたのだから、当然柳くんが上に乗っているわけで、こんな状態に他の女子がなれば失神してしまうだろう。私は違う意味で失神しそうだが…(ノート的な意味で。)

「早くどいて!」
「見てからに決まっているだろう」
「やめてええええ!って、うわあああああああ!」

 到頭、開かれたノート。しかも、そこに描いてあったのは…

「俺と精市?」

 そう、幸村くん×柳くんの少し危ない感じのイラストである。

「これは何だ?」
「えーっと……イラストです」
「見れば分かる。俺が聞きたいのは、何故精市に押し倒されている俺が描かれ――「ごめんなさい。ごめんなさいいいいいいい!!」

 教室中だけでなく、廊下にも響き渡るほどの声で、私は謝罪の言葉を叫んだ。

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