揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

何度も謝りましたけどね。


 くっそ…学校なくなれよ。暴風警報出て、休校になっちゃえ。腹立たしいほどに晴れたこの空が一気にどす黒い雲に覆われて、雷ドッシャーンってなって、ごうごうと風吹けばいいのに。この天気の馬鹿たれが。何でちゃっかり晴れ渡ってるの。ああもうボケナスカボチャ!
 などと、朝から下品な言葉を並べているのは何処の何奴かというと、自他ともに認める腐女子であり、女の子にもメロメロしちゃう系の女子、苗字名前。なんて自分で言ってみたが、正直恥ずかしい。とりあえず、思考回路以外はおそらく普通だと思う。

 つい先日に仲の良い友人しか知らなかったことがクラスの男子にバレた。しかも、中身が酷すぎるノートを取られた挙げ句に生徒会室に来てポニーテールしろとのことだ。
 そいつも私と張り合える…いや、私よりも思考回路危ないんじゃないかと思うくらい、極度の変態のため、今日がとてもとても乗り気じゃない。まあ、学校なんていつも乗り気じゃないけど、今日は格別ってわけ。

 そうして、悪しき昼休みが訪れた。弁当をいつもよりも早く食べて、友達に「用があるから」と言ってその場を抜け出した。
生徒会室に行くなんて真っ平御免と言いたいとこだが、大切なノートがあちらの手元にあるので、嫌々足を運んだ。ノートだけ返してもらって、どうにか髪を結われる前に抜け出せないだろうか…と真剣に考えたが、テストの総合点が学年首席の相手じゃ難しい。

 戦闘態勢を取りつつ生徒会室の扉を開ける。初めて足を踏み入れたそこで待ち構えていたのはもちろんのこと柳くん。

「遅かったな」
「柳くんが早いだけだよ。それよりさ…」
「なんだ?」
「なにこの豪華な生徒会室!!」

 フカフカしていそうなソファに、書類が乗った机。その他諸々アニメじゃあるまいし!と突っ込んでしまいそうな物たちが置かれてある。でも、他校の友達が「学校の生徒会室、空き教室とかありえなくねwwww私がわざわざ総務に立候補した意味は…」というメールを送ってきたからこういう生徒会室は立海だけなのか?とりあえず、ここすごい。

「超生徒会室じゃん!やばいね」
「お前の言語力のほうが"やばい"だろう。日本語を話せ
「いやいや日本語ですけど」
「生徒会室にきて“超生徒会室!”など可笑しい。まあ、大方アニメに出てくる生徒会室みたい〜とか思っているのだろうが」
「分かってんじゃん」

 それはともかく、私はノートを返してもらうために来たんだった。早速話を切り出せば、ソファに座れと言われ、促されるままに私はソファに腰かけた。
ってか、あれ…これって結われるとかそんな流れじゃね…?
後ろを見れば、シンプルな黒のゴムと櫛を手にした柳くんと目が合う。即座に立ち上がろうとすれば髪を引っ張られ、私の腰はまたソファに沈んだ。

「痛たたっ!髪引っ張らないで!抜けるっつーかハゲる!」
「加減はしたから禿げはしない」
「嘘つけ!加減の前に肩を引くとかあったでしょ」
「苗字は後ろから肩を引かれた方がいいんだな。分かった。次からはそうしよう」
「次なんてないよ!もしあったとしても絶対やめて」

 引っ張られたところをさする。あー痛かった。女の子の髪引っ張るとかどういう神経してんのかね…。まさか女子と思われてないのか。

「そうだな」

 くっそ!心読まれた上に本当にそう思ってやがるとか腹立つ。

「とにかく結うならさっさとして、ノート返してくれない…?」

 ノートを返してもらうだけでこの場を去るというのは完全に諦めることにした私はため息交じりにそう言った。私から結ってもらうという態勢になったのが嬉しかったのか、柳は少々ドヤ顔で頷いて私の髪を丁寧にまとめ始めた。
 因みに先ほどのドヤ顔、こんな感じだった。( ̄▽ ̄+)b
 ほら、糸目なとことか柳くんそっくりじゃね?我ながら脳内で作った顔文字とはいえ上出来だ。
 すると、急に髪を結っている柳くんの手に力が入れられた。

「痛っ、いきなり何すんの」
「失礼なことを思われている気がしてな」
「思ってないよー糸目とかそんなこと思ってないよーほらー柳くんのつぶらなって痛い痛い。すみませんでした。凛々しい目ですね、はい」

 それからは、これ以上髪を引っ張られるのはごめんなので、柳くんのことではなくノートの安否を心配していた。もしも中身を全て見られていたら相当やばい。特に文章はギリギリのものとかあるし、絵になると無駄にエロチックだったり漫画だと絶対に有り得ないと分かっていながら可愛い感じの柳くんになっていたりする。とにかく何が言いたいかと言うと、捨てられていないか心配なのだ。正直言うと、自分が柳くんであのノートに目を通したら即刻燃やす。チリチリになるまで燃やして灰になったノートを「精神科をすすめる」という言葉とともに渡して、金輪際関わらない。

 それくらい危ないノートを学校に持ってきていることが、そもそもいけないことなのだが、あの時に取りに行ったことも今では失敗だったと思っている。そういえば柳くんは何でいたのだろう。まさか同じような理由とか?

「柳くんって、金曜日の放課後どうして教室にいたの?」
「苗字と似たような理由だ。取りに行かなければ良かったと後悔したがな」
「私も後悔しているよ…何で途中で引き返したんだろう…」
「まあ、苗字のポニーテール姿が見られると思うと一概に悪かったとは思わないがな」
「えっ…どうして?」

 その問いには答えてくれず、「結えたぞ」という一言だけが返ってきた。恐る恐る自分の髪を触る。うわあ…ポニーテールとかいつぶりだろう。それにしても綺麗に結ってある。私なら人の髪ですら、きっとしっかり結えない。というか柳くんがゴムも櫛も持っているのも謎なのだが。

「柳くんお姉さんとかいるの?」
「ああ、姉が一人いるぞ」
「だからゴムも櫛も持ってるんだ」
「櫛は自分のだが」
「ええっ!?嘘!?私なんて櫛どころか手鏡も何も持ってないのに」

 私の女子力のなさ…。さすがに男子に負けるとは思わなかった。常に櫛持っている男子とかそういないと思うけど、まさかこんなでかい男子が櫛を持ち歩いているなんて…。いや、ちょっと待てよ?これって新たなる…ネタですよね女子力のある可愛らしい柳くんと美人顔のくせに男前な幸村くんのカップリング!!やっぱり幸柳最高!フッフー!

「おい」

 実はSだと発覚した柳くんだけど、やっぱり私の脳内は柳総受けで妄想広がるのよね!ほら攻めっぽい受けとか美味しすぎるでしょ!

「聞いているのか、苗字」

 いや、でも柳くん×真田くんも結構いけるのよね…ああ、でも、やっぱり柳くん受けだ受け。

「話を聞け、腐女子野郎」

 ネクタイを掴まれ、柳くんのほうに引かれた。綺麗な顔が目の前で広がるが、その表情は怒りと不快によって歪んでいる。相当お怒りのようだ。参謀怒らせちった☆とか冗談は言っていられないようで、彼の目がお開きになった。怖い。マジ怖いぃぃ。

「な、なな何ですか」
「俺の呼びかけが全く聞こえなくなるほど、ニヤニヤと何を考えていた?」
「え、それは…えーとですね…」

 ごにょごにょと口籠って答えれば、柳くんの眉がさらにしわを刻んだ。これ言わないとやばい。

「柳くんはやっぱ総受けだよね…って…あの…えっと…」

 固まったまま動かない柳くんが余計に怖い。

「ノートを見ても思ったのだが、何故俺は全てにおいて受け扱いなんだ」
「そっち!?ってか、え、あれ見たの」
「全て見た。小説も読ませてもらった」
「え…」

 嘘だろ…おい…全部だってよ。恥ずかしさからじゃなくて、色んな意味で死にたい。柳くん…。見たあなたもあなただけど、ごめんなさい。

「柳くんって完璧に見えて、いつも涼しげにしてるから、慌てたり照れたり意外な表情してたら可愛いなあっていう私の妄想」

 すると、柳くんはいよいよ押し黙って呆れた顔をした。そして片手で顔を覆ってため息を吐いた。てっきり「可愛くなどない」とか否定されるのかと思っていたので、何故ここまで呆れられているのか私には分からない。とりあえず、もう一度謝ればよいのだろうか。

(~20130503)執筆

prev / next

[TOP]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -