ますますキャラ崩壊しています。
あれから私たちは仁王くんの部屋の机にそれぞれのパソコンを広げて「じゅえる少女」をやっていた。お互いに持っているキャラクターを見せながらチーム戦の準備をする。
「えっ、待って待って仁王くんやばくない?ペリドット様にアレキサンドライト、しかもダイヤモンドちゃんまで!?ガチ勢じゃん」
「ランクも257と相当高いな。ここまでやり込んでいるとは思わなかった」
「これで俺のオタクも証明できたの」
嬉しそうな顔でぽちぽちとマウスを操作している。疑われていると思われていたらしい。
しかし、私は仁王くんが『マサ』という名前で活動していると聞いたその日にニヤニヤ動画とツノッターのアカウントを探して、勝手に見ちゃったのでオタクであることはバッチリ分かっていた。
仁王くんってネットでもそのわけわからない方言のままなんだね、ってことが一番印象に残っている。あとは『お化け屋敷が苦手な友達とホラゲーしてみた』ってやつ。明らかに柳生くんだったしびっくりした。とりえず柳生くんっておばけ屋敷苦手なのか、かわいい。なんて思いながら画面の前でニヤニヤしていた覚えがある。
一方的に見ちゃったことくらい伝えとこう。
「あーあのさ、私、仁王くんのツノッターも実況動画も勝手に見ちゃったんだよね、ごめん」
「そんなん言うたら俺も名前ちゃんのツノッター見たぜよ?」
そっか、と頷く。それどころかこちとら自分で描いたBL漫画まで読まれていたよ……。
とりあえずフォローしていいか聞いた。
「おん、知っとるん本垢じゃろ?じゅえる少女の垢もあるけえ、そっちのが趣味合うかもしれん」
「んー両方フォローしとく。私、BLとか呟くしべつにフォロバしてくれなくてもいいけど」
「いや、別に気にせん。それよか名前ちゃんが描くじゅえる少女の落書き見たいきに」
ということでIDを教えてフォローし合う。なんか仁王くんのツノッター知ってるとか変な感じだよね、うん。
「こっちでもどんどん絡んでくれていいナリ」
「わかった、私あんまりリプしない人だけど」
「そういや参謀は……は、参謀?」
やけに静かな柳くんに視線を向ければ、片手で顔を覆って赤面していた。どうしたんだ。
「や、柳くん……?」
私も唖然としていたら柳くんはこちらに気づいて、つけていたイヤホンをとった。
「今、ようやくアメジストを手に入れたんだ」
「うん」
「せっかくならとイヤホンで声を聞いたんだが」
「うん」
「可愛すぎた……」
また赤面して顔を覆う彼を私と仁王くんはなんとも言えない表情で眺めた。
最近ますますキャラ崩壊しているよ柳くん。
メッセージやツノッターを見る限り、語彙力を失わないタイプのオタクかと思っていたけど生では違うんだ。新たな発見です。
「と、とりあえずアメジストちゃんGETおめでとう。イベ特攻だし、さっそく今日の目的であるチーム戦行こっか」
「少々、待ってくれ。溜めに溜めた素材でレベルをMAXにしてから連れて行きたい」
「そ、そうですか」
仁王くんが声も出せずに柳くんに見入っている。やっぱりそんな反応になるよね。私も今びっくりしてるもん。
そうして柳くんの準備も完了し、私たちはチーム戦を始めた。
イベントは個人で進めるクエストとチームで進めるクエストと2つある。チームは知らない誰かとも組めるし、ゲーム内でフレンドになればフレンドとクエストに出ることもできる。
「仁王くんの総力強すぎて圧倒的なんだけどwww」
「俺たちとは桁が違うな」
「伊達にやっとらんぜよ。ほうれ、俺のアクアマリンちゃん行きんしゃい」
「仁王くんもなかなかだよね……」
ぼそっと小さな声で言う。まあ私もローズクォーツちゃんとか好きなキャラは「俺の嫁」だとか思っているし人のこと言えないか。
「名前ちゃんのシトリンちゃんも強いの」
「初期で手に入れた中でも気に入ってる子だし……ああ!サファイヤさんが!!」
「こちらもフローライトがやられてしまったな」
「あと2ステージやき、持つじゃろ」
ガチ勢さんが言っているので信用しよう。私たちはパソコンを見つめながら戦いを見守る。クエストに出てしまえば勝手に戦いが進んでいくタイプのゲームなのであとは祈るのみ。
「あ!シトリンちゃんまで!」
ラストステージで我がデッキの要がやられてしまう。だが、仁王くんのところはまだ一人も欠けていないので、おそらく勝てるだろう。
「……おお!やったあ!」
拍手して喜ぶ。仁王くんは満足そうな顔を浮かべた。
「ほれ、言ったじゃろ?」
「仁王のおかげだな」
「ほんとに!ラピスラズリちゃんGETできて嬉しい」
私はラピスラズリちゃんをタッチして声を聞く。
『妾はラピスラズリ。そなたの力になろうぞ。“ウルトラマリーヌ”をもってすれば妾にかなうものなどおらぬ』
どちらかといえばロリ声の可愛らしいボイスだ。私のタイプとは異なるけれど可愛いことには変わりない。それなりに強いようだし何よりイベ限定だし嬉しい!仁王くんにマジ感謝!
って事でツノッターにあげとこ。
それから私たちは仁王家のゲームが集結した部屋にお邪魔していた。こんなにもゲームでいっぱいの部屋に入ったのは生まれて初めてだ。というかもはやお店レベルだよ。
「すごいすごい!これ全部仁王くんのなの?」
「いや、親とか姉、弟のも入っとる。うち、ゲーム一家なんじゃ」
「ほう、そのため違う年代のものも幅広く揃っているのだな」
聞くところによると両親は生粋のゲーマーらしい。お姉さんは来たときに知った通りコスプレイヤーさんだし、弟くんはなんと両声類の歌い手らしい。なんというかさすが詐欺師・仁王雅治の姉弟だよな。コスプレでキャラに変身するのもいろんな声を出せるのもイリュージョンみたいだよね。
RPG、パズルゲーム、格闘ゲーム、さまざまなゲームがあるが、ギャルゲーは少ししかなかった。それさえ彼がプレイしたかどうかはわからない。
「やっぱりしないって言ってたしあんまギャルゲーはないね」
「じゅえる少女で美少女ゲーもええと最近思ってのぅ、是非おまんらが持っとるやつ貸してくれんか?」
「では『ハイスクールガールズ!3』を貸してやるから、まず神崎名前のルートからいくことだ」
ここぞとばかりに神崎ちゃんを勧めてやがる。私だって負けてられない。
「いやいや!黒髪ツインテールのロリっ子がいるんだけどね、ぜーったい仁王くんそっちの方が好みだから」
「何を言う、あえてタイプでないキャラをプレイして良さに気づくのも大事だろう?神崎は見た目の可愛さもさながら、あの性格と反応もまた良いんだ。苗字だって神崎ルートのイベントが好きだろう」
「確かに図書室イベは悶絶もんだけど、1回目は好きなキャラでいいじゃんか!」
わあわあと言い合っていると仁王くんが私たちの間に割って入った。
「ほたえなや、おまんら。他のキャラも見てから考えるぜよ」
プレイする本人にそう言われてしまっては頷く他ない。私たちは自身の推しへの滾った思いを胸にしまったのだった。
(~20180722)執筆
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