揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

彼らは永遠に友達です。


 近所の駄菓子屋のお婆ちゃんが店仕舞いをするとのことで、賞味期限が近いお菓子を大量にくれた。それはもうたっくさん。で、何故うちかといえば三人も子供がいるから、だそうだ。
 とはいえ、兄も姉も私も特段お菓子が好きとか言うわけではなく、それは父も母もだった。

「名前、学校で配ったら?」

 そう言われて、すぐにでもこれらのお菓子を消費してくれそうな人物の頭が浮かんだ。彼なら1人で受け持ってくれそう。
 そんなに友達多くないしほとんどは彼にあげよう。

 もちろん彼というのは、お菓子が大好きらしい丸井くんのことである。

 確か、弟が2人いるとかも言っていたし、丸井くんがもし食べきれないようなことがあれば2人にも分けるだろう。

 私は友達用と丸井くん用に紙袋に入れて学校に行った。柳くんが教室に来てテニス部の朝練が終わったことを知ると、私は丸井くんのところ(実は隣のクラス)へと赴いた。丸井くんは席でうなだれており、隣にはジャッカルくんがいる。

「あのー、丸井くん」

 呼ぶと、すんごい速さで顔を上げた。目があったのでおはようと言った。

「よっ、苗字じゃん!珍しいな、どうしたんだよぃ?」

 私は紙袋を丸井くんの机に置きながら事情を説明した。丸井くんは口をぽかんと開けて、子供みたいな無邪気な輝きを宿した瞳で紙袋を見つめていた。

「マジで!?全部!?マジでくれんの!?」

 突然立ち上がってずいっと顔を近づけてきた。私は反射的に一歩下がる。

「ま、丸井くんなら喜んでもらってくれそうだったから、丸井くんさえよければ」
「っやりぃ!マジで感謝するぜぃ!!お前女神様だろい!!!

 私の両手を握りぶんぶんと振って、壮大なジョークを笑顔で言っている。丸井くんってよく女の子たちからお菓子もらってるけど一体何人が女神様になるんだ、って心の中でツッコミを入れてみる。

「はは、喜んでくれてよかった」
「朝練で腹減ってたんだよ!早速もらうぜ」

 そしてガサガサと紙袋を漁っていくつか取り出した。そこで、私はジャッカルくんと目があった。彼は苦笑いを浮かべて見ている。

「えっと、ジャッカルくんも良かったら丸井くんからもらってね?」
「お、おう」
「はあジャッカルが?……んーでもまあ、くれた苗字が言うんなら仕方ねえよな。喜べよ、ジャッカル」

 早くも、もぐもぐとお菓子を頬張りながら丸井くんは紙袋の中を指した。ジャッカルくんは遠慮がちに頭をぺこぺこと下げながら「サンキュ」と言った。
 私は「こちらこそもらってくれてありがとう」と伝えてその場を後にした。

 それから私は何かあるとお菓子やらご飯やらを丸井くんにあげるようになった。食べ物を頬張る丸井くんはハムスターみたいで可愛い。


 6月も半ば。梅雨で雨ばかり降って、テニス部は外で練習ができないと嘆いていた。
 そんな中、雨で練習が午前だけになったという柳くんたちからいきなり電話がきたのである。土日の12時頃はいつも寝ているので、もちろん私は彼らからの電話で起きたのだが……。

「……ん、もし……も、し?」
『仁王の家にパソコンを持って14時に集合だ』
「んーにおーくん?」
『俺は柳だ。仁王の家に来いと言った』
「んーやなぎくんち?」
『はあ、寝ぼけすぎていて話にならん』
「んー……zzz」

 柳くんの心地よい低音が私をさらなる眠りの世界へと誘う。無理、おやす……

『起きんかーっ!苗字っ!』

 しかしながら、とつじょ真田くんのような声が聞こえてきて私は飛び起きた。

「うわあああっ!な、なに!?」

 パチパチと瞬きをするうちに私の意識は覚醒していく。
 なんだ、今の。真田くんの声が聞こえたような?

『こんな時間まで寝ているとはたるんどるぞ、苗字!』

 スマホから聞こえてくる声に気づいて、私は耳元にあてた。

「真田……くん?」
『……お、ようやく起きたようじゃの。おはよう名前ちゃん』
「その声、仁王くん?あれ?じゃあ真田くんは夢に……?」

 すると仁王くんがくつくつと笑った。どうやら彼の物真似、じゃなくてイリュージョン?ペテン?だったらしい。そういや物真似って言ったらこないだ怒られたっけ。

「で、なに?」
『14時にパソコンを持って仁王の家に来い』

 電話の相手は柳くんに変わったらしい。柳くんの声ってちょっと眠くなるんだよな、真田くんの声で喋ってくれないかな……って柳くんには無理か。

「んーと仁王くんちねー、なんか一回教えてもらった気もするんだけど忘れちゃった」

 すると電話の奥から『名前ちゃんひどいぜよ』って聞こえてきた。家に一度でも遊びに行ったのならともかく、帰っている途中に、あの辺だなんて言われただけじゃ分からないよ。

『14時前に仁王が迎えにいくそうだ』
「ありがとー頑張って寝ないで待ってる」
『寝ていたら仁王が真田にイリュージョンして鉄拳制裁するそうだ』
「ええ?仁王くんは柳くんと違って私に暴力振るわないもーん」
『俺の家、忘れとったからやっちゃる』
「え、うそ!ごめんってばー!」

 そんなこんな14時前に仁王くんは我が家に迎えに来た。お母さんが玄関に出たらしく、バタバタと私の部屋まで呼びに来て「アンタまたかっこいい男の子と仲良くなっちゃって!柳くんもあの仁王くんって子も2人とも素敵よ!」だなんて言ってきた。どうやら母の中で仁王くんも彼氏候補になったらしい。2人とも永遠に友達だよ……。

 それから私が仁王くんちに遊びに行くのだといえば今週のおやつになっていただろうフィナンシェの入った小箱を持っていくように渡された。

 彼の家に両親はおらず、姉と弟は部屋にいるそうだった。とりあえずお菓子は仁王くんに渡す。仁王くんは「ちと待っとって」と言っておそらくリビングの方に行ってしまった。すると階段を降りる音が聞こえてきた。
 やってきたお姉さんらしき人と目が合う。仁王くんに似て整った顔立ちの綺麗な人だった。あまりの美しさに釘付けにされたが、私はすぐに挨拶をした。

「こ、こんにちは!お邪魔しています。苗字名前です」

 ペコっと頭を下げれば目を丸くして私のことを見つめている。失礼なことしちゃったかな?どうしよう。っていうかどこかで見たことある気がするんだけど、思い出せない。

「えっと、あの、雅治くんにはいつもお世話に……」

 と言いかけた瞬間、気づけば抱きつかれていた。

「むちゃくちゃかわいい!!美少女すぎて我を忘れたわ!」

 急なことに困惑で体を硬直させていたら仁王くんがやってきた。お茶が3つ乗ったお盆を持って、眉をひそめている。

「何やっとんじゃ」
「雅治やるわね!こんな美少女を捕まえちゃうなんて」
「名前ちゃんは友達じゃよ」
「えー妹になってほしいくらい可愛いのに!でもそうなるには名前ちゃんがこんなヤツと結婚しなくちゃならないのよね」
「いや、俺じゃのうて、姉貴の妹なんかが御免じゃろ」

 2人の喧嘩みたいな会話が進む中、私は目の前にあるお姉さんの美しいお顔をまじまじと見つめていた。

 やっぱり見たことある……うー……ん?あ、……あーっ!
 思い出した!この人たぶんだけどレイヤーさんだ!実はメイドカフェに行ってからレイヤーさんのコスプレを見るのも趣味になったんだよね。

「あ、あのー……」
「ん?あ、ずっと抱きついててごめんね!」

 一歩離れたお姉さんに失礼ですが、と私は前置きをして問いかける。

「コスプレイヤーさんだったりしませんか?」

 最初に顔を合わせたときみたいに目をぱちくりさせて驚いている。

「え、ええ、そうよ?よくわかったわね!」

 本当にあの人だった!すげえ!

「わああ会えて光栄です!お姉さんのペリドット様が麗しすぎてスマホの前で跪きそうになりました!本当に素敵でした!!!」

 次は私がお姉さんの手を取って興奮し始める。きゃっきゃっ言っているとチャイムが鳴った。おそらく柳くんが来たのだろう。仁王くんが玄関の鍵を開け、柳くんが入ってくる。

 お姉さんの手を取る私を見て、柳くんは怪訝そうな顔で挨拶をした。

(~20180722)執筆

prev / next

[TOP]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -