揺れるしっぽに首っ丈の彼 | ナノ

今時の男の子はやはり違います。


 丸井くんから『明日の飯、一緒に食おうぜ!』ってきた。連絡先を交換した翌日にご飯を一緒に食べるなんて、やっぱり今をトキめく男子の取る行動はすごいな!教室の隅でひっそりオタク話に花を咲かせてる女とは違うぜ。

 とりあえず、断る理由もないので私は『いいよー。私お弁当なんだけど丸井くんは?』って送った。すると秒の速さで返ってきた。やっぱり今を……ryは違うわ。なになに?

『俺、購買と学食だし、学食で席とって待っててくんね?』

 購買と学食ってそれ両方食べるの?さすがは育ち盛りの男の子は食べる量が違うなあ、なーんて先ほどから感心してばかりだ。
 私は『オッケー。おやすみ!』と返事を打って漫画の続きを書き始める。82を描いてるんだけど、仁王くんって可愛いよね。もちろん妄想と理想であふれた姿が、だけど。多分、実際はもっとクールな人なんだと思っている。


 翌日のお昼、友達に別の人と食べると言って学食に向かった。私はパッと目に付いた場所に席を二つとって丸井くんを待った。こういうとき、◯◯のらへんとか送った方がいいのかな?と思って初めて自分から丸井くんにメッセージを送った。やはり秒の速さで返事がくる。
 それから10分ほど後に丸井くんは購買のパンも持って定食を運んできた。

「待たせたか?悪りぃ」
「全然待ってないよ」
「んじゃ、食おうぜ」

 頷いて、私たちはいただきますと合掌した。
 男の子と2人でご飯なんて初めてかもしれない。私は少し緊張した。話題無くなったらどうしようとかその他諸々の不安を抱いたから。
 しかしその心配は杞憂で、丸井くんが色々と質問してくれたり話を広げてくれたので話は続いた。

「苗字って誰のファン?」

 お昼休みも中頃になって、突然そんな質問をされた。ファンってあれか?芸能人とかか?うう、1人も名前出てこない……頭に浮かぶのはギャルゲの女の子ばかり。そんなの答えられない。どうしようかと困っていたら丸井くんが補足してきた。

「えっと、ファンってテニス部のな?中学の時から苗字ってたまにテニスコートに応援に来てるだろぃ?」
「ああ、そういうことか!」

 しかし、私はテニス部にファンがいるから行っているわけではなく、BL漫画を描くためにあそこに赴いているのである。もちろんのこと……

 言 え る わ け が な い ! !

 さて、どうしようか。嘘ついてテキトーに誰か答えとくか?でも誰を?

 柳くんか?いや、それはないな。っていうか嘘つくために名前使ったなんてバレたら怒りそうだよね。やっぱ別の嘘つくしかないか。

「あー、あのー、私テニスしてる姿を見るのが好きで……だから特定で誰かを応援するために行ってるんじゃないんだ」
「へ、へえー……」

 食べる手も止めて面食らった顔をしている。なんか悪いこと言っちゃったかな。

「な、なんかごめん」
「え?いやいや!いいと思うぜぃ、そういうの」

 とフォローされて私は首を傾げるしかない。

「ま、また見学させてね」

 そう答えるので精一杯だった。

******

 俺は見てもうた。参謀の画像フォルダに苗字の描いたイラストが保存されているのを。
あの絵には『Happy Birthday!』という文字が書かれていたのでおそらく誕生日を祝うために描いたのだと思う。そして俺が苗字と出会ったのが参謀の誕生日の前日だ。

 ところで、俺はあのキャラを知っている。あの場では言わなかったが、おそらく『ハイスクールガールズ』のどれかに出てくるキャラクターである。その程度の知識しかないのは俺がそのゲームをやったことがないからだ。

 すなわち、参謀と苗字はあのゲームをプレイしておりそのキャラが好き……と。
まだ憶測の段階だが、何とも意外で驚いた。一方で、彼らが最近仲良くしている理由がそれであるのだと察した。

 俺はひとまずその場で『俺も描いて欲しい』と、いずれ会話するための口実を作っておいた。近いうちにそれを装って彼女にアプローチをかけるつもりでいる。
 何故そうするか?一つは確認したいことがあった。もう一つは俺も“そっち側”の人間じゃから。
 同類とつるみたくなるのは普通のことじゃろ?


 いつ声をかけようかと悩んでいるときに丸井が「なんか食いもんくれー」とねだって来た。そのため、少し溶けた飴を3つやった。その味が好かんので残っていたのだ。

「おおー!サンキュー!」

 飴ごときでそんなに元気になれるのが羨ましい。せっかくやった飴を舐めずにガリガリと噛む姿を俺は眺めた。

「そうだ、苗字ってさ」

 と、脈絡もなく丸井は話を振った。とはいっても先ほどまで彼女のことを考えていたのでちょっとタイムリーじゃよな、とかも感じる。

「おん?」
「あいつ、俺らのファンとかじゃなく、応援に来てるらしいぜ」
「ほう、本人に聞いたんか?」
「昨日一緒に飯食ったときに聞いた。テニスしてる姿を見るのが好きなんだってよ」
「ククッ……そうか」

 おそらくそれは嘘だ。俺は彼女の秘密を知っている。とはいってもこれも予測なのでそれが合っていればの話だが。
 ひとまずそれは知らないふりで話を合わせることにする。

「そんな女子もおるんやのう」
「だろぃ!?俺、ビックリしちまってさ。んーま、それもあって苗字のことちょっと気になってんだよなー」
「っぷ……くくっ……頑張りんしゃい」
「あ?何笑ってんだよ」

 俺はちらりとコート横に見つけた苗字を指して言った。

「ほれ、噂をすればブンちゃんの気になるあの子がおるよ」
「は!?どこ」
「あそこじゃあそこ」

 苗字の方を指す。いつもならブンちゃんと呼んだら怒り出すくせにそれも気にならんくらいには苗字に興味が湧いてるらしい。面白いのう。
 あいつはきっと“アレ”のために来とるんじゃから。

「うわ、マジだ!たまにしかいねえしレアだな。ファンサしとこ」

 そう言って丸井はピース付きでウインクした。
 丸井がファンサなんかしたせいで、苗字の周りにいた女子までキャーキャー騒ぎ出した。テニス部の他の連中がそろってそちらを見る。何があったんだ?と疑問を抱いているようだ。

「ファンはおらんのじゃなかったんか」
「他にいい言葉思いつかなかったんだろぃ。にしてもマジあの子可愛いよなー」

 丸井に苗字……何だか楽しくなりそうじゃの。

(~20180712)執筆

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